第3話 悟り

文字数 1,197文字

 そこに楓の旦那の響がガラガラとドアを開け帰ってきた。美葉が自己紹介をしようとすると、楓が響に何かを耳元でそっと囁き、楓が美葉に手招きをしたので美葉は楓の元にスーッと駆け寄った。すると美葉は楓と響と共に先ほどの部屋まで戻った。
部屋のドアを閉めると響は流暢な日本語で「やあ、はじめまして。日向響と言います。あなたが美葉さんですね。昼休み中に妻から大体のことは聞きました。大丈夫ですか?」
ととても心配そうに美葉に尋ねた。美葉は
「東美葉と申します。この度はみなさんに助けていただきありがとうございました。私は大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
と答えると響は
「美葉さんはいい子だね。リンも素直で我が孫ながらいい子だけれど美葉さんもいい子だ」
そう言って美葉の頭をポンポンと優しく叩くと美葉はなぜか俊のことを思いだしポロポロと泣きはじめた。響も楓も何も言わず優しい瞳で見てくれていた。
 美葉が落ち着きを取り戻し顔を上げると二人は
「ここでは何も心配いらないから、リラックスして過ごしてね」
と美葉を優しく抱きしめた。
 美葉は未だ自分の置かれている状況がよくわかっていなかったが、何となく心の底からホッとできたし、安心もしていた。余計なことは聞かないようにと思っていたが何かに取り憑かれたかのようにスマホを取り出し俊の写真を見せながら
「カスガ シュンを知っていますか?」
と聞いてしまった。楓はやっぱり・・・といった様子で
「春日俊は私の祖父です。失礼だったらごめんなさいね。祖父と美葉さんはどういうご関係だったのですか?」
と楓は美葉に聞き返した。美葉は
「元カレです。2023年の昨日突然振られました。でもとても優しくて包容力のある素敵な人でした」
と伝えると、楓は「あー」と何かを悟った様子で
「ありがとう。祖父も喜びます」
そう答えた。しかしそれ以上その話は進まなかった。
 話題を変えるかのように響は
「私が経営している麦畑を見に行きませんか?まだレンもリンも作業していると思うので」
と美葉を誘ってくれた。楓は
「いいじゃない。いってらっしゃいよ」
そう言うと、美葉に「これ」と言ってスニーカーを手渡してくれた。美葉が礼を言うと楓は、
「あんな靴じゃ歩きにくそうだって、リンが彼女からもらってきたのよ」
と美葉に伝えると美葉は「リン君には彼女がいるのか。どの時代もかっこいい人はモテるんだな」と心の中で呟いた。美葉はまだ俊に振られた事実を受け入れられずにいた。そして俊はあんな別れ方をするような人じゃないと思っていた。あんな一方的で心無い言葉を投げつけるような人ではなかったから。早く2023年に戻ってもう一度話がしたかったが確実に俊は私ではない人と結婚したことが2123年に来てわかってしまった。私が2023年に戻ったらもうこの2123年の記憶は残っていない気がした。そんなことを神様が許すはずがないような気がしていた。
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