第10話 決心

文字数 1,724文字

 気がついた時美葉は病院のベッドの上だった。そこには美葉の両親と弟、友達の咲良がいて、「意識が戻った」と皆歓声を上げ「先生を呼んでくるわ」と美葉の母親が病室を出て行った。美葉は咲良に
「いまは何年何月何日?」
と聞いた。咲良は
「いまは2023年9月23日。美葉、あなた2ヶ月も目が覚めなくてみんな心配していたのよ」
美葉は2日間100年後にいただけだったが、現実では2か月も経っていた。でも本当にただ夢を見ていただけかもしれない。それは分からなかったが両親は「ごめんね」と泣きながら謝ってきた。私が気を失う前に男性から別れ言葉を言われていて、反論していたところによろけて自販機の角に頭をぶつけて意識を失ったという現場を目撃の人がいたらしかった。美葉は慌てて
「俊に連絡していないよね?」と咲良に聞いた。咲良は
「おばさんたちはしようとしたんだけど、私が止めたんだ。俊くんだってただでさえつらかっただろうに、こんなこと知ったら余計に自分を責めてしまうと思ったから」
と言った咲良に美葉は
「ありがとう」と言って咲良の頬に触れようとした瞬間病室に先生と看護師さんが飛んできた。それからいろいろと聞かれたし診察もしてくれたけど、もう頭の傷は治っていたし、CTもMRIの検査も問題なしだったらしく、先生は
「おそらく大丈夫でしょう。でも体力が弱っているのでちゃんとした検査は明日以降に回しましょう」
と言って病室を出て行った。美葉の両親は
「春日くんにも本当に悪いことをした。もう私たちは何も言わないから美葉の好きにしなさい。美葉が生きていてくれるだけで私たちは充分だと今回のことでわかったから」
と言ったが美葉は
「お父さんたちのせいではないよ。私にも悪いところがあったんだよ。だから春日くんには連絡しないで。これ以上苦しめたくないから」
と美葉は両親にお願いをした。そして
「私体力が戻ったら留学したいんだけど……」
と言うと美葉の両親は
「美葉はそれでいいのか?」
と聞いてきたので
「うん」
と美葉は答えた。 
 それから美葉は驚異的なスピードで回復し、11月の初旬に日本を出発しフランスのパリにある大学へ留学した。美葉は必死に勉強もしたしプライベートでも街歩きをしながら美しい植物や風景の写真を撮ったり、自分が目指す方向へとひたすら真っ直ぐに進んでいた。
 意識していないといえば嘘になるが、美葉の将来の夢は楓に聞いた俊の残した手紙のとおりになっていた。でも本当にフラワーアレンジメントアーティストになってその傍らSDGsの活動をする為には、必死で努力をしなければなれないことは美葉自身が一番よく知っていた。だから寝る間も惜しんでフラワーアレンジメントだけではなく、SDGsの勉強もした。フラワーアレンジメントは花や葉、時には木も使って空間演出をする。大切な自然の資源を戴いてはじめて成立する仕事だということにも気づかされた。
 だから尚更感謝しながら生けるようになったし、環境についてももっと理解してご恩返しではないが何かに貢献しなければいけないと思った。別にそれは有名にならなくともまずは自分がコツコツとやっていくところからのスタートだった。
 草花たちを生けるにしても、余すことがないように発注した。そして余すことなく使わせてもらった。だから美葉の生け花はよりダイナミックなものになっていった。そのダイナミックさが美葉のアピールポイントにもなっていった。そして2年間の留学期間が終わり美葉はフランスの大学を卒業した。
 その後美葉はSDGsの先進国であるフィンランドへ自分がフランスで参加したショーなどでもらい貯めていた資金を元手にして渡り、そこでライ麦を育てている農場で働かせてもらった。
 フィンランドの公用語はスエーデン語だったが、みんな英語が喋れたので美葉はビックリしたし、英語が喋れれば言葉に困ることはなかった。その時意識を失っていた時に行った100年後の日本を思いだした。なんとなく「こういうことかな」と思った。
 そして美葉は農場で畑仕事の傍ら、北欧のフラワーアレンジメントも学んだ。そして逆に日本の華道を教えたりもした。そこで様々な文化交流を体験し人との繋がりもできていった。
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