第6話 イケナイコト

文字数 1,255文字

 日差しが眩しい良く晴れた朝だった。美葉はメイが貸してくれた服に着替えて布団を畳み身支度をした。そして台所へと急いで向かうともう楓もハナもそこにいて朝食の準備をしていた。美葉は慌てて
「I’m sorry.」
と言うと二人とも
「Good morning.」
と口々にして、楓は
「How did you sleep?」(よく眠れた?)
と美葉に聞いた。美葉は「おかげさまで」って英語でなんというのだろうと思ったがわからなかったので
「Yes. Thank you.」
そう答えた。すると楓もハナも口を揃えて
「Good!」
そう言って微笑んだ。
 リビングには響の姿もレンとリンの姿もなかった。まだ寝ているのかなと美葉が思ったその時
「Good morning, Miha. I‘m home.」
と言いながらリンは美葉にハグをした。美葉は驚いて直立していた。そんな二人を見てみんな声を出して笑っていた。
 なんだかこの時代は不思議だった。生活様式はレトロな古き良き日本といった感じだったが、言語とコミュニケーション、食べ物などはまるで外国のようだった。
 男性たちは朝から畑仕事へ行っていたらしい。美葉は私も明日からもっと早く起きなくてはと思った。それにしてもリンの人懐っこさは美葉を困らせた。でもなんだかとても可愛らしくて愛おしい気持ちにもなった。
 美葉はあまりにも英語が喋れなかったのでスマホの通訳ソフトを使おうと思い、実は昨日楓に相談したが楓は反対した。
「スマホは美葉ちゃんのお部屋だけで使ってね。できるだけ私も手助けするから」
そう優しく呟いた。
 美葉は「なんでこの時代はみんな英語で喋るようになったんだろう?」と不思議に思った。美葉は正直ホームシックになっていた。令和の時代が懐かしかった。早く戻りたくて仕方がなかった。うわの空でそんなことを考えていたらリンがいきなり
「Here you go.」(召し上がれ)
と美葉にスイカを差しだした。そして
「You’ll be all right. Don’t worry.」(大丈夫。心配しないで)
と美葉に優しく声をかけた。美葉は嬉しくてまた泣き出した。
「You‘re a crybaby.」(泣き虫だね)
そう言って美葉の涙を手で拭った。あーこんなこと前にも俊がしてくれたな。俊とリンは外見だけでなく性格まで似ていた。優しくて思い遣りがあって・・・。美葉の涙が止まるまでリンは傍にいてくれた。そんな様子を美葉に洋服を持ってきたメイが中庭から見ていた。メイは思わず持ってきた洋服の入った袋を落としてしまった。その音に気がついたリンは何事もなかったかのようにメイに話しかけた。しかしメイはそれを受け入れず洋服の袋をリンに投げつけ、美葉にもわかるような苛立ちの言葉を英語で吐き出して泣きながら全力でダッーと走り去っていった。
 美葉は自分で自分を呪った。そしてリンに謝った。リンはとても困った様子で美葉に
「No. I’M sorry.」(こちらこそごめん)
そう言ってからメイのあとを必死で追った。
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