最終話 美しい葉

文字数 2,177文字

 美葉は帰国した。美葉はどうしてもSDGsに力を入れた活動がしたかった。美葉のフラワーアレンジメントアーティストとしての知名度はそこそこ知られるようになっていた。美葉はその肩書を上手く使わせてもらいながら、環境活動や社会貢献活動に尽力していた。
 それから数年が経ったある日、100年後に行った時に楓さんから聞いた話が現実になった。美葉は「東京でも農業をという活動」にも力を注いでいた。そしてとうとうその時はきた。美葉は小麦の研究をしている会社に東京でも作りやすい品種はないかと打診していた。そこで紹介された種メーカーに話を聞きに行くことになった。一緒に活動している仲間と共にその種メーカーへと出向いた。
 美葉は緊張していた。通された応接室で美葉は心臓が口から出てしまうのではと思うくらいドキドキしていた。そしてミーティングルームへと案内してくれた男性に少し個別にプロジェクトリーダーに合わせてもらえないかと聞いたところ、その男性も「そのつもりだったんです」と別室へ案内してくれた。
 そこには俊がいた。間違いなく美葉の好きな俊だった。美葉は思い切って
「お久しぶりです」
と挨拶をした。俊も
「お久しぶりです」
と答えた。美葉が
「元気でしたか?」
と尋ねると俊は
「おかげさまで。美葉は?」
「うん、元気だったよ。ありがとう」
と答えた。もう別れてから10年の歳月が経っていた。美葉は照れ笑いを浮かべながら
「お互い年取ったね。俊は今幸せ?」
と美葉が聞くと俊は
「うん、結婚して子どもも二人いるよ。美葉は?」
「私は生涯独身を貫くつもり」
「えっ?結婚したんじゃなかったの?」
「してないよ。仕事ができれば私はそれでいいんだ。別に俊のせいとかではないから安心して」
と少しぎこちない会話をした後、美葉はスマホを取り出し100年後の世界で撮ったちょっと古びれたリンとのツーショットの写真を見せた。そして
「俊の玄孫だよ」
と言うと俊の目には明らかにクエスチョンマークが浮かんでいた。そして美葉が
「とってもいい子だよ。彼女もいて大切に守ってるし」
と言い終えると俊は
「僕は美葉を大切に守ってあげられなくてごめん」
と謝った。美葉は
「ううん。私は大切にしてもらった。別れるのも私を守るためだったんでしょ?ありがとう。そしてこちらこそごめんね」
と伝えると俊は黙り込んでしまったので美葉が
「そろそろミーティングルームに戻ろう」
と促した。俊は頷きながら美葉を案内した。そしてミーティングがはじまった。小麦についての話は美葉にとって本当に興味深いものだった。そして試作した小麦粉で作ったパンをいただいた。本当に美味しくて美葉だけでなく美葉のチーム皆口を揃えて「美味しいです」と率直な感想を述べた。俊も俊の同僚の皆もとても喜んでいた。美葉のチームの仲間がその小麦の袋に印字されている文字に気がつき「この小麦の品種名って”Beautiful a leaf”っていうんですか?」と尋ねると俊の同僚は「この小麦は揺れる葉が美しいからとリーダーが名付けたんです。まだ仮の名前ですが」と答えると美葉のチームの仲間は「私たちのリーダーの名前美葉っていうんです。すごい偶然ですね」と言った。美葉は泣くまいと思ったが自然に涙が溢れてきた。美葉は「自分がしてきたことは間違ってなかった」そう実感した。
 ミーティングルームでは美葉だけでなく俊まで泣きだしていた。ふたり共本当に泣き虫だった。そんな光景を見ていた周囲は不思議そうに驚きながらもふたりをそっと見守ってくれていた。
 美葉はこの10年間が報われたような気がして、余計に涙が止まらなくなった。そして俊のぬくもりに抱かれながら降り立った100年後の世界を懐かしく思いだし、こんなことを考えていた。
 ―This world is always beautiful. Thank God.―


                                                              完
 
 あとがき
 2023年は猛暑続きでとても暑い夏でした。
 そんな夏から夏の終わりにかけてこの小説を執筆させていただきました。
 私の頭の中には小麦が優しく美しく輝きながら揺れる絵が常に浮かんでいました。この光景をどうすれば読んでくださる方にもお伝えすることができるだろうかと想いながらこの小説を書き続けていました。
 美葉と俊にはお互い幸せでいて欲しいというのがずっとブレないコンセプトとしてありました。結果的に二人は恋愛的には結ばれませんでしたが、それよりももっと尊い関係で結ばれていることをお察しいただけたら幸いです。
 私なりのハッピーエンドで幕を閉じさせていただきました。この続きは読んでくださった皆さまがそれぞれの想いで、物語を繋げていってくださったらそれほど嬉しいことはありません。
 最後にこの小説を書くにあたってご協力いただいたサブカルビジネスセンター千葉のスタッフの皆さまに感謝申し上げます。
 そして最後まで読んでくださった皆様に、心からの感謝と最上級のありがとうを……。「ありがとうございました。Thanks a lot!」

                                        2023年11月 澄みきった秋晴れの日に。 


 
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