第四話 ルージュ市 ノッテガットファミリーとパンダファミリーとゾウファミリー

文字数 8,834文字

ルージュ市は、国で一番大きい為、区で分けている。
森に囲まれて、外人が多く生活している緑区
デパートなど、繁華街がある所を中央区
住居がある地域を、住居区
空港のある場所は、空港街や、空の町と呼ばれていた。
今は新しい街として分離した為、その名称は呼ばれる事はなくなった。
緑区は、外国人街とも呼ばれている。
この国の人は、正式名称もちゃんと知っているが、古くからこの土地にいる者と、新しくこの土地に来た者といる以上、誰もが分かりやすくする為、自分達の使いやすい名称で呼んでいる。
その為にこの区も、外国人が多く住んでいる特徴をそのまま生かし、外国人街と呼ぶ人が多くいる。
この国に来る人々は、森を抜けてくるか、海から船に乗ってくるか、空から飛行機に乗ってくるか、である。
ほぼ、国の端は森に囲まれ、どの市町村も、森を抜けると外国である。
グリューン村は普通の森と、国王の住む森があるが、森林公園がある森の方が、外国へ繋がる森である。
アーテル国の隣国は、国王が昔住んでいた大きな国と、その隣にある国と、二つと隣接している。
両方とも、それなりの大きさを誇る為、アーテル国以上の人口を誇っている。
その国の奥には、さらに国が広がっており、アーテル国も含めた大陸を、東大陸(あずまたいりく)と呼んでいる。
もう一方の大陸は、海を渡り、西側に大きな大陸、西大陸(せいたいりく)がある。
その他に、大きな島国や、小さな島国などが存在している。
島は主に南側に位置している。
北側には、海が広がっているだけだが、三つのエリアに分かれているのが、この世界である。
アーテル国に来るのは、その三つのエリアからの移住者ばかりである。
元々は、森だった所を最初の開拓者が住居を構え、そこから村が出来た。
国王政権になる前のアーテル国は、小さな村と町のみだったが、国としての名も無く、移住者の集まりだった。
この国の祖先は、移住者により、村が出来た所から始まる為、元を辿れば皆、別の国の地で生まれた者達である。
村が出来、最初の移住者達が、名を変える為、言葉を作り、名を作っていた。
隣の国から言葉などを取り、最初の文化も、隣の国を真似て作られている。
その後、移住者は、西からの人々も来るようになり、多国籍文化の国になった。
国王の政権になっても、あまり変わらず、この国の人々は生きている。
そんな国の現在、ルージュ市は、国一番栄えた場所であり、外国人の為の入り口となっている。
どこの市町村へ辿りついても、まず案内されるのは、村長、町長の所で、村長、町長に連れられて、ルージュ市へとやってくる。
そんな人々が、最初のスタート地点として、住居と仕事を探す前に、一時、簡易宿泊施設を利用するのが決まりになっている。
シェルタータワーと呼ばれているその場所は、住所登録されていない者達が住む、一時的な住居である。
そのタワーの隣が職業安定所など、職業に関する事が管理されているビルである。
それでも入れない場合は、村長、町長が管理している家へ住んでもらう事が多いのだ。
シェルタータワーは、単身者から家族連れが住める。
祖父母と一緒の場合は、介護などの懸念から、また、別な所に入れられるが、この施設を利用するものは、今の所は、ほぼいないので、介護施設として、利用されている。
そのように、外国人受け入れ施設が整っている、緑区、通称外国人街は、外人の為の街となっている。
その街は、外国の人々により、国外の物以外の物が置いてあったり、街並みが、所々、異国情緒溢れた場所がある。
小さい規模だが、異国情緒溢れる場所を、虹に例え、レインボーロードと呼ばれる所がある。
色々な色味を味わえる、外国人街の一ヵ所、レインボーロードには、ルージュ市の市長一家も住んでいる。
ノッテガットという猫の獣人で、全身黒い毛が特徴である。
現市長は、星川 聖夜(ほしかわ せいや)という名前で、市長としての仕事以外にも、【パーティプレイ】という動画サイトで、チャンネルを持っている。
マジシャン「タキシードスター」という名前で活動中である。
チャンネル名は「スターマジック」でマジシャンに興味を持ったのも、名前やチャンネル名のヒントになったのも、昔、「タキシードマジック」というアニメを見てからだ。
市長の奥さん、星川 夜月(ほしかわ よづき)も、【パーティプレイ】で、占いやオラクルカードのリーディングをしている。
「ルナハウス」というチャンネル名で、「ルナ」という名前で活動中である。
娘二人は、上の子は「ローズクオーツ」という名前で、妻の動画に少しだけ出演し、下の子は「シトリン」という名で、夫のマジック動画に出演している事がある。
代々、市長一家の息子として、生まれた彼は、現在、二十四歳である。
妻は二十二歳で、娘二人は、七歳、インターナショナルスクール一年生で、もう一人は二歳、自宅保育である。
市長としては、若すぎるのでは?と言われたりするが、前市長は、仕事を早めに辞め、今は前市長婦人と一緒に、夫婦水入らずの旅行三昧である。
現市長一年目であたふたする部分もあるが、何とかなっている。
パンダの獣人であり、長年の知り合いでもある、李(リー)さんと王(ワン)さん夫婦が、市長夫婦より少し年上で、それなりに手助けしてくれているから、やっていける部分もあるのかも知れないが。
聖夜の父親が市長だった時から、李さん夫婦は、両親とも上手くやってくれていたのも、信頼している証だ。
そんな、李さん夫婦の子供は二人。
こちらはまだ小さいが、幼稚園生と赤ちゃんである。
最近来たばかりのゾウファミリーの子供を保育園へ預ける際、市長の子供は保育園に通っていないが、李さん夫婦の赤ちゃんは、職場の保育所に預けられている為、保育園の情報は持っていなかった。
しかし、職場の保育所仲間の人が、情報を持っている、という事で、教えてくれなかったら、良い保育園は調べられなかったかも知れない。
聖夜は改めて、李さんと教えてくれた人に感謝した。
そうやって、皆で手を合わせて、問題を片付けている。
現在、ゾウファミリーと白兔子(パイトゥーツー)の親子が来ただけで、新しい住人はいないが、またいつか新しい住人が来てもおかしくない。
市長はさらに気を引き締め、市長として成長していかなくてはならない。
自分が市長になって一年。
目まぐるしい日々を過ごしていた。
父から少しずつ仕事を振り分けられ、少しずつ、父に怒鳴られながらの毎日だったが、何とか父の後を継いだ。
趣味程度だが、動画配信も楽しく出来ている。
登録者や動画観覧数は、妻も自分も少ないが、趣味程度でやっている分には、充分の出来に思っている。
市長の仕事は、動画のようにはいかない。
上手く市長として、立ち回らなくてはならない。まだまだ、失敗も多いのが気になっている。そのたびに、李さんを飲みに誘い、愚痴を聞いてもらっているが、どんな時でも李さんは、暖かく包んでくれた。



ルージュ市の市長として、聖夜は市長用のチャンネルも持っている。
今はその動画撮影の為、カメラの前で立っていた。
内容は、市長としての取り組みや、市の新しく出来た場所の紹介などを、動画にしているもので、真面目に取り組まなくてはならない。
心の中では、早く終わらせたい、と思っているが、顔は真面目でなくてはならない。
顔にその気持ちが出ないよう、気を引き締めて取り組んだ。
“はぁー、早く終わらせて、自分の動画を取らなくては…ファンを待たせている気がしてならない”
どちらの動画も、とりあえず視聴者は付いているが、市長としての方の動画より、少しだけ視聴者が多いのが、自分のサイトの方である。
しかし正直、他の人に比べて、視聴者は少ない方で、少々悩んでいる。
大好きなマジックで勝負している分、気持ちがへこんでしまう。
それでも何とか、楽しくやってはいるのだが、時に、自分だけが楽しくて、視聴者はそこまでじゃないのでは?と、思う日が多々ある。
どうすれば自分のサイトが面白くなるのか、考えてはいるが、マジック専門チャンネルである。
限度があった。
妻も動画を出しているが、占いなどであるからか、気になる人が多いらしく、自分のサイトより、視聴者が多かった。
“まったく、なんてこった、妻のが視聴者が多いなんて…と、思う日はしょっちゅうだ。市長としても、夫としても、なんだか情けない気分になってくる。はぁー、オレにはセンスがないんだろうか”
聖夜は、ため息をつきたくなった。
李さんの奥さんは、知人として、市長さん夫婦の動画の視聴者登録をして、動画を見てくれている一人だ。
特に奥さん同士、仲が良い為、占い動画を投稿している市長の奥さんとは占い仲間だった。
母国の占いを教えたり、一緒にパワーストーンのお店にも行っている。
随分前に、カルセドニーという名の男が職業安定所に来た際、彼にはなにか、宝石やパワーストーンとの縁を感じて、デパートの仕事を紹介した。
その後、デパートに顔を出した際、男は真面目に仕事をしていた。
紹介して良かったと思える瞬間だった。
一方、ゾウ夫妻には、ここからちょっと、遠い小学校の仕事を斡旋してしまい、人手不足という為、しょうがないのだが、ちょっと後悔していた。
引っ越して来たばかりの人に、通勤時にトラムとバスを乗り継いで行くのは、辛いだろうと思ったが、今の所、それしか無かった。
先生不足なのもあるが、いきなり大きな学校に入れてしまうのも、違うと思ったからだった。
生徒数が少なく、サポートも入るなら、まずはそこで働いてもらおうと、思ったからだ。
一応、生活が落ち着くまでグリューン村の村長が、トラム代とバス代を出してくれているが、一人でもお金がかかるというのに、二人分の往復代金を払ってもらっている。
その為、トラムとバスを、二、三本乗り継いで行くのには、限度があるのだ。
その問題は、早急に何とかしなければと考えている。



市長一家と、長年に渡り交友関係にあるパンダの獣人で、李(リー)と王(ワン)夫妻は、母国では別性にしているが、この国では紛らわしさ解消の為、李の方の姓名を名乗っている。
母国は、母国で嫌いではないのだが、肩身の狭い思いをして、こちらの国に来た。
それ以来、自由を手に入れて、肩身の狭い思いなどせず、のびのびと生きている。
李夫妻の結婚後に、この国に来て以来の友人関係である。
李さん夫婦には、職業安定所とシェルタータワーの管理人の仕事をしてもらっている。
今回、ゾウファミリーが、森を抜けてやってきたのは、国全体の大きな祭りの後だった。
彼らは、隣の国のさらに奥からやってきたらしく、李さんが対応したのである。
東も西も、色々な国からこの国へやってくるが、
その一家も、今回初めてこの国へ来たが、来た国を李さんが尋ねると、アーテル国では、ゾウファミリーと同じ国の出身者はいない、という事が判明した。
その為、対応が遅れるかと思ったが、その一家は外国へ行ったりするのは、今回が初めてじゃないらしい。
仕事の方は、今までの仕事は教師だった為、今回も教師の仕事を探している、との事だった。
それなりに裕福に見えたが、そんな事は無いらしい。
その国では結構良い位置にいたが、良い位置になる分、色々と嫌な事も多かったらしい。
それで、この国の事を聞いて、ここまで来たのだという。
正式な入国方法も使っていた。
その為、手続き自体はスムーズだった。
シェルタータワーのファミリー層に行ってもらい、次の日は仕事の斡旋となった。
グリューン村で、先生不足におちている、との事で、その村の小学校の先生になってもらえば、と李さんと市長は話し合った。
この国の言葉など、分からない部分があるだろうから、サポート役が必要と判断した。
市長はグリューン村の村長に連絡を入れ、後日、その方を紹介すると言い、電話を切った。
その後も李さんと市長は、新しい住人に手助けをして、日々を過ごした。
李さんは、シェルタータワーの管理人。
李さんの奥さんは、職業安定所内で仕事を斡旋する仕事をしたり、頼まれた時だけ、職業訓練場のような所で、外人向けの講師を行ったりしている。
そんな李さんだが、実は彼には、誰にも言ってない野望があった。
それは、この国を乗っ取る気でいたのだが、結局止めた。
無謀な考えだと、気付かされたのだ。
この国を手に入れた所で、何も価値が無い事に気付いたのだ。
だからこそ、今では野望は最初から無かった事にして、ごく普通に暮らしている。
しかし、シャノンという女が、この国へ入国してきた。
李さんはその女に会った時、何か嫌な気配を感じた。
今は大人しくしているようだが、シャノンがもし、思っている通りの女だった場合、自分はどう動くのか、考えてしまう時がある。
捨てた野望が再び目覚めてしまいそうだ。
李さんは、どちらかというと、昔から悪役の方が好きだった。
今でも自分が悪役だったら、と考える事があるほどだ。
悪の組織というのも、憧れの一つである。
今は、シェルタータワーの管理人という立場だが、これが悪の組織の拠点だったら、どんなにいいか。
シャノンという女、悪役なら自分のライバルである。
物語に悪役組織は一つ、そこの一番偉い人物は自分だ。
その物語に、シャノンという女(悪役②)みたいな人物は不要である。
他に必要なのはヒーローだ。
そうしないと物語は完成しない。
ここでヒーローとは、当てはまる人物はいるか?と思ったが、やはりヒーローはいなかった。
皇 暁彦(すめらぎ あきひこ)という男がいるが、その辺りがヒーローぽいが、どこかつかめない感じから、あの男も悪かも知れないと思っている。
現在、野望は捨てても、悪役に対する想いは捨ててない。
いつかヒーローが現れるのか、分からないが、李さんは心の奥底で、ヒーローの存在が現れるのを心待ちにしている。



ゾウファミリーのお父さんは、名前しか名乗らなかった。
ゾウファミリーのいた国では、それが当たり前だったらしい。
ゾウファミリーの人達は、お父さん、お母さんと、赤ちゃんの三人家族である。
あっという間の時間が過ぎ、ゾウファミリーのお父さん、アニクは、新たな問題に直面していた。
今は通勤時間帯である。
ルージュ市にある、シェルター暮らしをしているゾウファミリーは、だいぶ長い距離を移動して、職場に向かっている。
仕事は辛くないのだが、唯一それだけが気掛かりだった。
しかし、今は生活するだけで精一杯だった。
赤ちゃんが小さい為、動くのも大変である。
とりあえずは、ここで暮らして、落ち着いたら新たに家を探す事にした。
シェルタータワーの管理人、李さんには、とても世話になっている。
李さんがいてくれたおかげで、今まで何とかできた。
グリューン村の村長も手を貸してくれて、とてもありがたい人達に恵まれていると、思い始めた。
自由を求めてこの国へ来たが、母国よりも制限が少なく、改めて、この国へ来てよかったと思える。
母国は母国で、悪い所ばかりではないのだが、こちらはこちらで、気に入りそうだ。
仕事場が近ければ、より良いのだが。
今日も長い時間かけて、グリューン村まで来た。
ここは、この国一番、緑が多く、住みやすそうではあるが、ルージュ市に沢山の施設が集まっていると考えると、よりルージュ市に近い場所が良さそうだ。
そうなると、ここの場所で家を探すか、アーテル村、ヴィオラ町辺りが良いのかも知れない。
アニクは、その事で悩んでいた。
村長と市長に相談した所で、お互いの所で良いじゃないかと言われるだけだろう。
となると、李さん辺りに相談してみるのも良いかも知れないと思った。
しかし、李さんは管理人である。
平等に考えてくれるかは、分からなかった。



職場へ着いたゾウ夫婦は、職員室の戸を開け、「おはようございます」と、挨拶をして入った。
小さな学校の職員室は、いつ見ても狭い。
先生は多くないので、それはしょうがないが、それにしたって狭かった。
ゾウ夫婦は二人共、低学年を教える事となった。
今までは先生不足のせいで、一つにまとめられる事が多かったらしい。
今現在、サポートを入れてもらい、先生としてやっているが、言葉や文化の壁が厚く、なかなか苦戦している。
それでも生活の為、働かなくてはならない。
アニクは一人、ため息をついた。



ヴィオラ町に住む、シャグリーブロンのお母さんは、職場復帰の為、サポート係として、グリューン村の小学校に来ている。
今回、ゾウの奥さんと、一緒に低学年の面倒を見ているが、奥さんはなんだか、つらそうに見えて、昼の空いている時間に話しかけてみた。
「えっと、あの、ちょっと良い?」
「はい」
「仕事とか、どう?辛い事とかない?」
そう聞くと、少し黙って「生活するので精一杯で」と返ってきた。
「今は、ルージュ市のシェルター暮らし?」
「はい、仕事が安定するまでは」
「だいぶ、遠くから来てるのね、もしなら、ヴィオラ町の小学校の仕事に変更させてもらうのはどう?紹介しようか?」
奥さんには、思ってもみなかったようで、ものすごい驚いた顔をした。
「えっと、その、まだ住む所も決まってなくて」
「私の住む、ヴィオラ町に住むのは?国のど真ん中だから、どこへでも行きやすいわよ、それか、川の町くらいはどう?今度、もしなら休みの日に、見に行ってみる?」
「良いんですか?それなら、ぜひ、お願いしたいです」
ゾウの奥さんは、夫も連れてきて良いですか?と言ってきた為、構わないと答えた。
それで彼らが、少しでも楽になるなら、良い事だ。シャグリーブロンのお母さんは、少しほっとして、自分の席に戻り、少し早いが、仕事を片づける事にした。
一方、ゾウの旦那さんも、アーテル国に住むコアラさんと喋っていた。
彼は親切にしてくれている。
家と仕事の事を相談した所、自分はアーテル村の村長と久しい仲である、と言い、もしなら村を案内すると言ってくれた。
それならと、こちらも案内をお願いしてしまった。
奥さんが、ヴィオラ町と川の町の案内を頼んだとも知らずに。



その日ゾウ夫婦は、早速、昼間に話した事を、お互いに話し始めた。
日にちはまだ決まってなかったのが、幸いだった。
お互いに、同じ事をしようとしていたなんて、と、二人で笑った。
その後、案内を申し出てくれた二人に、事情を話し、四人で会う事になった。
ゾウさんの子供は、コアラさんの奥さんが、面倒を見てくれるらしく、ゾウさんは、それならそれでと、お願いしたい、という話になった。
その後、日付は決まり、まずはアーテル村から、見て回る事となった。
そして、その次の日に、ヴィオラ町を見る事になった。
その日はコアラさんの家で寝泊まりする事となった。
丁度、暇だからと、家の広間を客間として、使う事となったのだ。
白いグランドピアノがある広間で、四人で作戦会議をして、夜はそこで夕飯を食べ、二日間、車に乗って村や町を案内する事になった。
川の町はまた、別の日になり、そこでもまた、四人が集まる事となった。
やたら親切な人が沢山いるように思ったが、コアラさんが言うには、この国は苦労人が沢山いるから、みな、手助けして生きているのだと、教えてくれた。
シャグリーブロンのお母さんも同意して、ゾウ夫婦は、改めてこの国に来て良かったと思えた。
ルージュ市に住む李さんも、同じく思っていたことは、来て間もない時に話してくれた。
コアラさんは、「皆、この国の何かに惹かれて、ここへ来る、何かの縁で結ばれた縁を、皆、大切にしたいんですよ。それでもここは、自由を求める人が多く来る。天気はどんよりしていて、人々もどこか、どんよりした人が多いのですが、それにはどこか、心に闇を抱えていたり、すると思うんです。もちろん、そうじゃない人もいると思いますけど。心に闇を抱え、自由を求めて、この地へたどり着く、皆、同じだからこそ、大切にしたいと、思っているんですよ」と言った。
確かにそうだと感じた。
ここは何か、縁で繋がっていると、そう思える。
全く知らない人なのに、どこか親近感が湧いたり、話してみると、同じような境遇に立っていたりと、実に様々な理由を抱え、この国に来ている、または住んでいる。
ゾウ夫妻の母国は、宗教的なつながりを大切にする国だった。
そういうのが嫌い、という訳ではないが、どこか自由でありたいと願ってしまう自分がいた。
それでこの国の噂を聞いた時、自分の求める自由はあるのかと気になって、この国へ来る事にした。
それから何ヶ月間もたったが、ようやくこの国の魅力にたどり着いた気がした。
自由さの中に、しっかりと絆が存在していた。
「何か縁があって」
その言葉は、ゾウ夫妻の心に、しっかりと染みついた。



帰宅してから、ゾウ夫妻はどこに住むか話していた。
奥さんは町で住みたいと言い、旦那さんはアーテル村が良いとなり、二人の意見は、真っ二つになった。
川の町も今度行く事が決まっているが、その場所も見てみないと、ダメなのは分かっているが、どうしても割れたまま、どちらも譲らなかった。
結婚して初めて、二人はケンカになってしまった。
こんなにも意見が分かれたのは、初めてだった。
しかし、意見を交わし、多少ケンカするのも、悪くないと思った。
たしかに、心はささくれるが、これもまた、夫婦がお互いに、相手の気持ちをしっかり知る機会、と捉えれば、多少のケンカも、たしかに必要であると実感した。
これから二人で意見を交わしながら、二人で住む場所を決めていく。
子供の為、妻の為、夫の為。
三人で暮らしていける場所を決めるのだ。
これからまた、ケンカも多少増えるかも知れないが、夫婦として、家族として、意見交換は必要であると気付かされた。
色々な人に出会い、ゾウ夫妻は、新たな生活スタイルを手に入れる事となった。
どこでスタートするかは分からないが、どこからのスタートでも、この国では大丈夫だろう。

              第四話 終わり
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