短編 シャノン ②

文字数 4,401文字

シャノンはルージュ市に来ていた。
子供はルージュ市の一時預かり保育という場所へ預けてきた。
職業に就く前に訓練?勉強?だかが必要と、シャノンは認識しているが、全く、めんどくさいシステムだと思っていた。
しかし、ここで三か月間、臨時教師の仕事をする為の勉強をしないと、臨時教師にもなれなければ、ミッションもクリアできない。
今までなら、適当に働き、後は全て男が稼いできた金で悠々と暮らしていた為、そんな一生懸命に生きなくても良かった。
それなのに、今、大嫌いな勉強をしなくてはならない状態である。
教師なんて、自分が最も嫌いな職業で、目指す奴なんて、余程の変わり者だというのが、シャノンのイメージだった。
しかし、まさか自分がその教師になろうとして、ここで勉強しなくては、ならないなんてと、落ち込んでいる。
人生、何が起きるのか、分からないものだ。
「はぁーダルい」
思わず独り言が漏れてしまったが、周りは誰もいないのが幸いだった。
今現在、シャノンは建物の一階にあるカフェに来ている。
この間はグリューン村の村長であり、学校の校長でもある、コットンラビットの男こと、お父さんと一緒だった為、『やっすいコーヒー』しか飲めなかったが、今は自分の好きなものを飲める。
コットンラビットの男からは、一緒にいる間、常に熱い視線を感じていた。
しかし彼は、妻子持ちの身で、おじさんである。
シャノンに対して、何かしらの熱い情熱を抱いてそうだが、妻子持ちには行動が慎重になる。
しかもあの男は、シャノンにとって重要な男だ。
鍵を握る人物は、グレーの毛をしている。
運よく巡り合えたのは奇跡のようだ。
まさに色んな意味で「運命の相手」だ。
グリューン村に住む男で、その男の家の離れで暮らしている。
本当に幸せだ。
こんな事があって良いのだろうか。
ミッション成功の為に、臨時教師になり、あの村で働いて、森の秘密を探り、その成果を依頼者である、自分がいた国の王へ届けるのだ。
“私も、もしかしたら女王の座に座れるかも♡”
そんな事を考えていたら、とたんに力が湧いてきた。
“さて、行きますか、女王の座へ進めるかも知れない、第一歩へ…”
シャノンはドリンクを飲み干し、席を立ちあがった。



“ふうー、終わったー”
教室の中は、息が詰まりそうだった。
行きでも行ったカフェにもう一度入り、ドリンクと甘いものが必要だと、シャノンは悟った。
シャノンは再びカフェへ入る。
今日はこれから、一人で街の中を探索するつもりだ。
その為には、甘いものが一個では足らない。
シャノンはケーキを二個選ぶ為、ショーケースを見て、じっくり選ぶ。
ドリンクは、行きは普通のカフェラテにしたが、今は、一番自分が好きなドリンクメニューを選ぶ事にした。
値段が高ければそれだけ、満足度が上がる。
シャノンはそう考えている。
この間のように、店で一番安いコーヒーではなく、少しだけ贅沢な物を選べた今回は、頑張った自分へのご褒美だ。
それだけで、シャノンの心の栄養は少しだけ回復した。



この街は、街自体がこの国で一番大きい。
今現在もルージュ市の一部だが、メインストリートまでは、トラムで向かうのが一番良さそうだ。
シャノンは、何となくウエスト部分が多少キツい気がしてきた。
しかし、ウエストがキツめのスカートをはいてきてしまったのだろうと、考えを切り替えた。
デザインや値段は良いのだが、サイズが少し合わないスカートを、ダイエットに丁度いいと、買った事がある。
似たようなデザインのものなど、一杯あるので、それを間違えて、はいてきてしまったのだろうと、思う事にした。



なんども、チラチラ、スカートを確認したが、間違えて、はいてきたわけではないと気付いても、きっと、産後の体型が崩れたせいだと思い直した。
このスカートは、この国に来る前に男に買ってもらった物だった。
値段もだいぶ高い。
それを買ってくれた男は、シャノンが子持ちと気付いてから、連絡が途絶え、シャノンの前から消えた男だ。
当時は、子供なんて産まなきゃ良かったと考えたが、誰の子かも分からない子を産んだのはシャノンの意思だ。
シャノンは嫌な事を思い出し、ヒールをカツカツ鳴らした。
その音で、誰かの視線を感じ、顔をそちらに向けると、随分と身なりの綺麗なイケメンがシャノンを見ていた。
シャノンは、気を取り直し、イケメンを見つめ、目と口元で、誘い込むような表情をしてみたが、男は苦笑いを浮かべただけで、直ぐにシャノンから目を逸らした。
シャノンは気まずさから、男から目をそらし、下を向いた。
現在、シャノンは、トラムに乗って、デパートを目指している最中だ。
トラムの中の気まずさは、いつまで続くのか分からないが、シャノンは自分はもう、オッサンしか誘えなくなったのかと思い、ショックを受けていた。
それでもシャノンは、まだまだ、自分の魅力は衰えてないはず、ここでちゃんとジムにでも通い直し、体型の変化を直せば大丈夫と、思い直した。
そして、目の前にいるレベルの男を、再び手に入れる、または、今度は自分のいた国の国王レベルの男の正妻になり、女王の座を狙えるレベルになる為、努力を惜しまないと、再び気合を入れた。
目の前の男が、この国の王子だとも知らずに…。



トラムはデパート前という駅で止まった。
ここで降りれば、そのままデパートへ入れる。
シャノンは立ち上がったが、同時に目の前の男も立ち上がり、乗り降りする場所まで歩いて行った。
シャノンも後へ続き、トラムを降りた。
シャノンの目の前には、豪華な見た目のデパートが建っている。
自分がいた国のデパートに比べると、はるかに小さいが、それでもこの国では一番豪華な建物だ。
回転扉から中へ入るようで、シャノンは他の人同様、回転扉から入って行った。
中も豪華な造りだが、シャノンが知るデパートより劣るが、それなりの品格あるデパートのようだ。
一階の売り場をウロチョロと歩いて、値段を確認すると、それなりの値段では、ある事に気付いた。
何でも自分のいた国と比べてしまうが、今はこの国で暮らして、この国の国王の事を調べなくてはならない。
女王になれば、今以上に贅沢三昧だと思えば、ミッション成功の為、ミッション成功の為と、切り替え、この国に馴染む事にした。
さらに今は、貧乏生活みたいな環境である。
自分の国に帰り、荷物も多少なりとも持ってこなくてはと思っている。
子供三人の荷物で精一杯で、自分の荷物は、あまり持って来れなかったのが、悔やまれる。
まぁ、自由に帰れる為に、焦りとかは無いが。
元夫というのは、嘘である以上、帰宅する場合は、他の人にバレないようにすれば問題ないと、シャノンは考えている。
一番は成果と共に帰れれば良いのだが。



グリューン村は農村地域で、建物より緑が多い場所である。
店がない訳ではないが、大きな建物が無い為、シャノンにとっては苦痛だった。
最初はこの場所に、この国の国王がいると思っていたが、資料を確認していると、グリューン村へ行けと書いてあった。
そこに何かしらの情報があると書いてあり、グレーの毛並みのネコやウサギの獣人を探せと書いてあった。
思いのほか、簡単にグレーの毛並みのウサギの家に居候させてもらえるようになったが、思いのほか、栄えていない街並みに住む事となり、シャノンは不満たらたらだった。
この、栄えた場所に居てくれれば、何も問題無かったのだが、この際、しょうがないと腹をくくり、生活する事にした。
その為、シャノンの中では、自分の知っているデパートより多少劣るが、この場所で、煌びやかな世界に、少しでも浸っていたかった。



たっぷりとデパート内で時間を潰し、デパート以外にも、この街を探索して、オシャレなカフェとか探していたら、子供を迎えに行く時間になってしまった。
また、自分はお母さんに戻らなくてはいけないようだ。
子連れでは、どんなに美しい美貌を持っていても、誘ってくる男性はいない。
皆、シャノンを見つめるが、双子用の縦長のベビーカーを押しているのに気付いただけで、シャノンから目を逸らす。
元夫からDVを受けたから、子供を連れて、この国に逃げて来た、という嘘をつき続けて生活しなくてはいけない今、男を見ても、自分を誘ってくれないのだと思うと、なんだか寂しかった。
子供はシャノンの実子で間違いないのだが、せめて誰の子か分かれば良かったのだが、今更後悔しても、遅い事は分かっている。
こんなんでも、母親として生きる決意をしたシャノンだが、子供が自分を母親だと思ってくれている以上、最低限でも母親として、育児をしなくてはと思っている。
そして、トラムに乗って、バスを乗り継いで、あの緑が多い、農村地区に帰らなくてはいけないのだ。
女王になる為の、ミッションをこなす為に!



シャノンにとっては、長い、長い道のりを、何回かバスを乗り継いで、やっとこグリューン村に帰ってくると、小学生の帰宅時間と重なったのか、子供がチラホラと歩いていた。
その子供の中に、グレー一色のネコとウサギの子供を見つけた。
二人共よく似た見た目をしている。
コットンラビットは、グレー一色ではない。
尻尾だけが白いのだ。
しかし、あの子達は尻尾もグレーである。
もしかして、と思ったが、シャノンは疲れていた為に子供達を尾行するのは止めて、家へ帰った。
今日は報告も兼ねて、村長宅で夕飯を食べる事になっている。
その時に、聞いてみるが、もしもそちらが書類にあったネコやウサギなら、とんだ失敗をしたことになる。
せっかく、お目当てのグレーの毛並みのウサギが村長一家だと思ったから、ラッキーだと思ったのに、これじゃあ別にラッキーでも何でもない。
ルージュ市に国王がいると思い込んで、ルージュ市側からこの国に入ったのに、国王はルージュ市にはいなかったり、グレーの毛並みなんて、一杯いると思っていたが、まさか、こんなにややこしいとも思わなかった。
なぜ、こんなにも上手く行かないのだろうと、シャノンは考えた。
書類にはちゃんと目を通していたはずなのにと、シャノンは頭を抱えてみたが、何も解決策は浮かばなかった。
そして、その日の夜、村長から自分達はコットンラビットという種族だが、大昔はコットンテイルラビットだったが、今は変わったという事と、今日会った子達は、王とはあまり関係ないのでは?という話だった。
もちろん自分達も、王とはなんともないと話していた。
王は秘密主義者だから、そう簡単に情報は洩れないという。
何という事か…と、うなだれたが、なんともない顔で、「そうだったんですか」と相槌を打つ事しか出来なかった。
シャノンは、もしかして、ふりだしに戻ってる?と感じたが、時間かけて捜査する事にした。
女王への道は、遠のいた気がするが、いずれちゃんとした報告が出来れば良いと、シャノンはいつでも楽観的に物事を考えていた。

        短編 シャノン ② 終わり
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