第三話 グリューン村 グレーネコのお母さん

文字数 10,720文字

今現在、グリューン村では、幼稚園、保育園、乳児院といった施設は、二軒建っている。
元は三件だったが、アーテル村に引っ越しをしたカワウソ夫婦がやっていた乳児院は、人口減少による経営破綻で、運営出来なくなってしまった。
その結果の引っ越しだった。
引き取れる子供の数も限度がある。
元々、小さな乳児院だった為、カワウソさんが町や市の乳児院にお願いして、引き取ってもらい、どうしても無理だった子の三人を、カワウソさん夫婦が引き取った為、カワウソさん夫婦には、生まれたばかりの双子の赤ちゃんがいるのだが、さらに三人の赤ちゃんの面倒を見る事になってしまったのだ。
グリューン村のもう一つの乳児院で、引き取っても良かったのだが、こちらも一杯で、とても引き取れるような状態じゃない。
グレーネコの夫婦が経営し、先生として働いている乳児院では、現在二歳~六歳の子供がいる。
乳児は少ないが、幼児の数が多く、十二人中、十人が幼児である。
この国は、六歳までは赤ちゃんと呼ばれ、七歳以上が児童養護施設へ入れる事となっている。
幼稚園、保育園、乳児院。
赤ちゃん達は、その三つの施設で、保育されている。
九時~十四時までの幼稚園は、早生まれの子は三歳からだが、基本、四歳~六歳まで。
二年保育か、三年保育、どちらかを選べる。
保育園は時間、日時、親の都合で預ける事が出来、0歳~六歳までになっている。
乳児院は、親が面倒見れなかったり、親がいない子の親代わりになって、面倒をみている施設で、アーテル国は、その乳児院と保育園を併設させている事が多い。
グリューン村の【グリューン村 乳児院・保育園】では、乳児院の子と、保育園の子は、クラス分けさせている。
乳児院は、そのまま親の居ない子供を中心に面倒をみている。
現在、親の都合で、一時的に預かっている子もいるが、全員、保育園側ではなく、乳児院で面倒を見ている。
保育園は一時預かり保育としてあるだけで、現在、最近この国に引っ越して来た白兔子(パイトゥーツー)の女性の双子の子供を、一時的にあずかったくらいだ。
グリューン村の乳幼児の通う施設は、あとは幼稚園のみだ。
グレーネコ夫婦の経営する【グリューン村 乳児院・保育園】では、乳児院の子供達のみ、自分達の趣味を一緒に楽しんでいる。
アクティブな乳児院だが、夫婦はそれで良いと思っている。
受け入れが困難な理由は、そういった理由も含まれている。
あまり増えすぎてしまっても、子供の面倒や、お金の面で苦しくなってしまう。
それも含めて、現在は増やせないでいる。
その点で、カワウソ夫婦には、非常に申し訳ない事をしてしまった、と思っている。
今でも手紙のやり取りをして、お互いの状況を確認しているが、それも何か出来る事があれば、支援したいと考えているからだ。
手が足らないなら、手伝いに行く事も出来る。
とにかく何か出来る事があれば、何でもしてあげたいと思っている。
今の所、カワウソ夫婦との手紙のやり取りで、カワウソさんからの手紙には、新たに働きだした職場は、ハムスターファミリーの乳児院で、自分達はラッテラパン夫婦の後を継いで、幼児クラス側の方で働いているとの事だった。
ハムスターファミリーの方々にも、手伝ってもらっている、うまくいっている、という内容だった。
それを読んだ際、安心している部分はあるが、とても大変だろう。
グレーネコ夫婦は、過去の事を思い、カワウソ夫婦の仕事が、今度こそ上手く行く事を願った。



グレーネコファミリーは、乳児院の仕事が表の顔で、王の従者である事と、森の管理と警備が裏の顔である。
森に囲まれたグリューン村は、アクティブな趣味を持つ二人には、とても活動しやすい場所だ。
王のいる森は、入る事が出来ないが、もう一つの森は、誰でも気軽に入る事が出来る。
公園などもあり、休日はとても賑わっている。
そんな公園内は広く、遊具のある公園、アスレチック広場とあり、その奥にキャンプ施設がある。
グレーネコ夫婦の乳児院の子供達は、月一でこのキャンプ場内の大自然の中で生活している。
今日はそのキャンプの日なのだが、子供達は好き勝手して、言う事を聞いてくれない。
グレーネコのお母さんこと、村崎 真夜(むらさき まよ)は腰に手を当て、子供達の様子を見ている。
ここは、規模が小さい為に、グレーネコ夫婦とグレーウサギのお母さんこと、山崎 千夜(やまざき ちよ)に夜勤と保育園側に子供がいる時に手伝ってもらっているが、この国の乳児院は、基本、先生は一人の事が多い。
理事長、経営者は夫で、先生は妻、というのが一般的である。
0歳~三歳の子、四歳~六歳の子、二つのクラスが、一つの建物の中に入っている事が多く、二つは別々の経営で動いているが、グレーネコ夫婦の乳児院は、子供の数の少なさから、十二人をいっぺんに見ている。
グレーウサギのお母さんにも、手伝いに来て欲しい時は、幾度もある。
夜勤勤務でもある為、なるべく昼間は休んでいて欲しいのだが、いてくれたら、いてくれたで、手伝ってもらえる為に楽なのだ。
一応、もう一人、村の村長夫人に助け舟を出す時もあるが、ほとんど保育園側に子供が増えた時に少し手伝ってもらう程度だ。
現状、二歳の子が一人、三歳の子が一人と、その子供二人は比較的大人しいのだが、残りの十人に関しては、言葉も覚え、自分で出来る事も増えてくるとはいえ、二、三歳の子供以上に動く、口答えする、ワガママである。
もちろん大人しく言う事を聞いてくれる子もいるが、言う事を聞いてくれない子は、本当に厄介だ。
二、三歳の子が二人共、大人しいからこそ、四歳~六歳の子のワガママは、腹立たしく思える。
「イヤイヤ期の子の方が、楽なんてね、まったく」
お母さんは、何度目か分からない、大きなため息をついた。



ようやく準備が整い、お母さんと子供達は、外に出た。
二歳と三歳の子には、ベビーカーに乗ってもらい、他の十人は列を作って、並んでもらう事にした。
二人組を作ってもらい、五列になってもらいたいのだが、女の子三人組が、三人で横並びになり、列は上手く行かない。
列を乱すのはいつもの事なので、毎回同じ場所に立ってもらっている。
前方の旗持ちが一人、一列目が二人、二列目は一人で、三列目は三人、四列目は二人、後方旗持ちが一人という列になっている。
メンバーは、リーダであり旗持ちの、ラッテラパンの赤ちゃん「竹内 鈴緒奈(たけうち りおな) 六歳 双子 姉」
一列目が、ワタアメネズミの赤ちゃんで、年子の異母姉妹(いぼきょうだい)の二人、「堀江 燈(ほりえ あかり) 六歳 姉」と「堀江 Scarlett(ほりえ すかーれっと) 五歳 妹」である。
二列目は一人、ドゥルセ・デ・レチェ・ペロの赤ちゃん「池田 佳恵(いけだ よしえ)四歳」
三列目は、三人組の女の子が横に三人。
右端がストライプキャットの赤ちゃん、「橋本 (はしもと)五歳」
真ん中はチワワの赤ちゃん、「谷口 ゆにこ(たにぐち ゆにこ)五歳」
左端はキヌネコの赤ちゃん「新井 奏空蘭(あらい そあら)五歳」である。
四列目はコアラの双子が二人、右側が「森川 菜々(もりかわ なな)四歳 双子 姉」と左側が「森川 実々(もりかわ みみ)四歳 双子
 妹」である。
後方も旗持ちが一人、前方の旗持ちの子と双子の子で、サブリーダーである、「竹内 玲緒奈(たけうち れおな)六歳 双子 妹」
ベビーカーの中は、ココアウサギの赤ちゃん、「小松 愛瑠(こまつ める)三歳」と、「キノミリスの赤ちゃん、「平野(ひらの)二歳」である。
お母さんは、ベビーカーを押しながら、一番後ろを歩く。
この村のほぼ、奥側に園は建っている為、キャンプ場へは、そんなに遠くない。
車もほぼ通らない、安全な道を進む為、お母さん一人で子供達を誘導している。
リーダーの子は、しっかり者な為、前の方はその子に任せている。
後方の子も、双子の姉に習い、サブリーダーとしての役割をきちんとこなしている。
三人組の女の子はちょっと気になるが、とりあえず今の所、大人しくしてくれている。
三人でお喋りしているのは、まだカワイイものだ。
彼女達が、十二人の中で、一番厄介な問題児である。
朝から何度、彼女達に叱ったか、分からない。
一人ならまだしも、三人が一緒になってぐずる、問題を起こすので、それが非常に厄介だった。
三人組の内の一人は、キックボードのようなものに乗って行くと言い出した。
今もそれに乗って、移動中である。
端を動いているので、それだけは、ありがたいが、いつもそのキックボードのようなものに乗って行きたがる。
もう、注意するのは止めた。
無駄になるからだ。
三人組のいつも真ん中にいる子が、三人組のリーダー格で、その子の隣にいつもいて、「早く帰りたい」が口癖の子。
三人組の後ろの双子は、実母に会える子なのだが、実母が心配性なのだろうが、双子はいつも重たそうな荷物を背中に抱えている。
三列目のいつもぼっちの子は、三人組の女の子の前で、今日も一人で歩いている。
この子も特に問題はない。
この乳児院は、実母に会える子と、会えない子がいる。
様々な事情でこの園にいる。
ワガママが強い三人組は、実母や家族、保護者に会う事はない。
二組の双子、ラッテラパンの双子の姉妹と、コアラの双子の姉妹は、決まった日に会っている。
年子でこの園にいる二人は、母親違いの父は一人。
しかし、二人の母親は双子の姉妹だという。
年子の子の父が一人の理由は、双子の姉妹を間違えた結果、双子の母が一人ずつ産んだ。
その為、年子の子は二人共、双子のようにそっくりだ。
その双子の姉妹は、揉めた為に、この園に預けため、父母に会う事はない。
それ以外は、保育する力が無いなど、ごく普通の理由で預けられている。
この国は、子沢山な家庭が多い。
双子の率も高い。
だからこそ、お金の面で、子供が育てられない事が多い。
それか、仕事が忙しく、家で面倒を見れない人が、乳児院や保育園に預けている。
結局、一日働いて、迎えに来た所で、子供の面倒を見るのは難しい。
その為、一日中預けておく方が、親的に楽である。
親がいない子が大半だが、親がいても面倒を見る事が出来ないと、乳児院に預けていく親が絶えない。
この国は、乳児院、児童養護施設など、親と暮らせない子供達が一杯である。
その状況を、この国の主は、あまり重たく受け入れていない。
姿を見せないよう、森の奥に潜んでいる。
お母さんは、王が森に住んでいる事は知っているが、どんな人物で、どんな顔をしているのかは、全く分からなかった。
従者という関係でも、王は信頼している者か、家族以外には、ほとんど姿を見せないからだ。
さらに、森の管理がメインの仕事なので、余計にお母さんは知らないのだ。
村長も、村の管理を任されたり、他の村長や町長などへの伝達などをしている。
村長の普段見せている顔は、なんだか、頼りないというか、へらへらしているような感じにしか見えないが、実は一部の人しか知らないだろうが、村長と校長という仕事を兼任するだけの力があるのだ。
いわゆるダメそうに見えて、意外にダメじゃない、そんな所が村長の恐ろしい部分だった。



歩いて何分くらいたっただろうか。
そろそろ、今回の目的地に到着しても、おかしくない頃だ。
子供達の列は、相変わらずだった。
それでもなんとか進んできた。
毎日、毎日、この子達と過ごしていると、とても疲れる。
それでも面倒を見て行かなきゃいけない。
この仕事を選んでしまった以上、やり続けなければ。
そんな事を考えていると、公園の出入り口に入った。
子供達は列を乱しそうになる。
それを阻止して、奥へと入って行く。



やっとキャンプ場へ着いた。
子供達に、受付前に集まってもらって、一旦、受付を済ませ、コテージのカギがある方へ向かった。
毎回、ここを利用している為、もう慣れた作業である。
他の利用客に迷惑がかからない用、利用者が少ない時を選んでいる為、周りは誰もいなそうだ。
予約の時点で、ある程度、察しは付いていたが、やはりこの時期は当たりだったようだ。
この国には、二つのキャンプ場があったのだが、もう一個の方が繁盛した時、こちらにもキャンプ場が出来た。
しかし、もう一つの方は、何十年も前に潰れてしまったのだ。
この国の者達は、キャンプをしないのだろうか、それともシーズン的な物なのか、アクティブに体を動かしたり、趣味としてキャンプが好きなお母さんからは、あまり想像出来なかった。
好きな人は、好きなんだろうが、お金がかかったりして、何かと大変なのだろう。
キャンプといっても、大人の趣味、といったイメージがある。
子供なんかは、いつもと違う日常が、ただただ、楽しいのだろが、親と一緒に来てこそ、といった感じだろう。
親が好きでないと、子供もあまり興味を引かれないのだろう。
お母さんは、少し残念な気持ちになっていた。
変な人が増えても困るが、もう少し広まっても良いのでは?と考えてしまう。
でないと、ここも閉まってしまうかも知れないからだ。
コテージもあり、気軽に料理出来るここは、子供達を連れてくるのに丁度良かった。
テントを張ったり出来る場所もあるが、子供がもう少し大きければ良いかも知れないが、乳児と呼ばれるような子ども達には無理だ。
それに、コテージなら、大人数で利用できる。
一つ一つ揃えるのは、金銭面でも大変である。
ここのコテージは、色々な意味で便利だった。
コテージに着き、鍵を開けると、子供達は一斉にワッ!と中へ入って行った。
コテージの中に、子供の声が響き渡る。
お母さんも、ようやく一息つけそうだ。
ベビーカーを押してきて、少々疲れている。コテージ内を走り回ってくれている間は、お母さんも休む事にした。



夕食より少し前、お母さんは準備をする為に外へ出た。
炊事場で、見慣れた姿を見かけた。
「あら、間違えたらごめんなさい、あなた、もしかして、カワウソさん?」
そう言われた声を聞き、その人は辺りを見渡した。
「後ろよ」
その言葉に、その人は後ろを振り向いた。
「あら、やだー!久しぶり!!
「カワウソさんでやっぱり合ってるわよね」
「えぇ、私よ」
「なにか、昔とは少し変わったような…」
「アーテル村で、色々とね」
「何があったの?」
「ハムスターさんの乳児院では、下が0歳~三歳の子供を見ていて、私達は四歳~六歳のクラス、青空クラスを担当することになったんだけど、そこで働いていた先生が、音楽に力を入れている先生でね、それを受け継ぐことにしたの。
子供達も、すごいパワフルなのよ!」
「良い意味で、変わったのね」
「そうね、今はとても楽しいわ」
「良かった、それで、今日はどうしたの?」
「お父さんと久しぶりに、このキャンプ場へ行こうと思って、後、子供達の楽器の練習に」
「そういえば、お祭りの時の演奏、見たわよ、凄かった」
「子供達が凄いのよ、それで今回、もっと上達させようと思って」
「それで、ここを選んだのね」
「そう、子供達にも、この場所の良さも知ってもらいたくて」
「あなたも、大好きだったもんね」
「覚えててくれたのね、嬉しいわ」
カワウソさんとは同じ村で、子供達の為に乳児院の先生をやっていて、二人はお互いに仲が良かった。
昔、二家族でこの場所に来た事がある。
まだ、カワウソさん夫婦が結婚したばかりの頃だった。
懐かしい思い出が蘇る。
二人は、会話が弾み、終わりそうにないほどだった。
どうせなら、一緒にキャンプを楽しもう、という事になった。
少ない利用者人数だった為、コテージが隣同士な事も判明した。
広場でご飯を食べ、その後、演奏会を開く事となった。
急遽決まった事だが、物は揃っている為、大丈夫との事だ。
アーテル村とグリューン村の子供達は、ほとんど会った事無いが、年齢は同じである。
子供達同士も仲良く出来るだろう。
二つの施設の交流も良い刺激になる。
一緒に準備をして、お互いのコテージに戻り、バラバラになっている子供達を集め、話をした。
子供達は、何だか良く分からないが、楽しいならそれで良いと言った感じで、きゃーきゃー、ワーワー騒いでいる。
カワウソさんとは、久しぶりに話もしたい。
別々の乳児院だったが、何度も仕事やプライベートの事について話しをしていた。
同じ村にいた仲間だ、苦楽を共にした感じがある。
カワウソさんは、子供を預けて、夫婦で来ていた。
ここへ来るまでは、子供達を素直に歩かせるのは大変で、バスに乗ってきたが、すぐに音を上げたという。
おまけに楽器も持ってきたので、グレーネコのお母さんは、うちより大変な思いをしてここまで来たのね、と思った。
自分で楽器を持って来れる子は、持ってきて、大きくて運ぶのが困難だったものは、夫婦があらかじめ運んだそうで、このコテージは、昨日から借りているとの事だった。
今までのイメージは、優しくて穏やかそうな人、といった感じに思っていたが、久しぶりに会ったら、なんだか、たくましくなったような気がした。
久しぶりの姿を見た時、なんか変わったと思ったのは、たくましくなったからだと、お母さんは思った。
この国の人は、広いようで狭い世界の中に生きている。
人口は常に、増えたり減ったりと、忙しいが、結構みな、知り合いの幅が狭い。
余程の事が無い限り、人の区別が出来る。
とくに、同じ種族の割合が、少なければ少ないほど、その家族しかいないから、分かりやすいのだ。
カワウソ家族は、このカワウソさん家族のみだ。
少ない種族は、この国に一家族しかいない、なんてことはよくある。
先程は、別のカワウソだったらどうしようかと思いながら、声をかけた。
そのくらい、カワウソさんは変わっていたのだ。
でもそれは、良い方向に変わった、という事だったので、お母さんは安心した。



広場に子供達が集まってきた。
総勢二十人、いや、二十人以上、二十五人くらいはいる。
四歳~六歳の子供達が広場を占拠している。
乳児もいるのだが、数が少なくて幼児の子に囲まれてしまって、どこにいるのか分からない。
年齢が上の子は、それなりに下の子の面倒を見てくれたりしているが、それでもやはり子供である。
上手く行かず、泣き出す子もいる。
その子をなだめ、他の子を面倒見ながら、お母さん達は話し始めた。
夕食が終わると、カワウソさん達は、一旦コテージに言って、楽器を演奏する準備をしにいった。
グレーネコのお母さんは、片付けをしに炊事場へ。
何人かは、グレーネコのお母さんの事を手伝ってくれ、数人は広場から動かないよう、見張り役をしてくれた。
再び広場に集まると、直ぐに演奏会が始まった。
アーテル村の子供達は、自分達の子より、しっかりしている子が多かった。
この違いは何なんだろう、と思ったが、子供なんて全て同じではない。
大人だっていろんな人がいるのだ、子供はさらに個性が様々である。
あまり深く考えない方が良さそうだと、お母さんは思った。



夜が更け、二つのコテージでは、子供達がスヤスヤと眠っている。
グレーネコのお母さんは、広場に来ていた。
「村崎さん」と声がかかった。
振り向くとカワウソさん夫婦がいた。
三人で話をする為、この広場に集まったのだ。
「いやー、本当に久しぶりですね」と、カワウソさんの旦那。
「えぇ、本当に」
「妻に言われて、こちらも驚きましたよ、会えて良かった」
「えぇ、元気そうで、良かったわ」
「今日は一人?旦那さんは?」と奥さん。
「一人よ、夫は別の仕事があって」
「あら、それは、大変だったわね」
「うちは、近いから、何とか来れたって感じ、でも、確かに大変は大変だったわ」
そこから三人は、やはり会話が弾む。
昔を知っている人物、という者は、こんなにも会えた衝撃が大きいのか。
お母さんは改めて、今と昔を比べた。
“本当に懐かしい、あれからどうしているか、とても心配だった。祭りの時、見かけたけど、声もかけられなかった。だからこそ、今、ここで会えたのは、すごく嬉しい“
お母さんは、心の底からそう思った。
同じ業種の人物というのは、どんなに同じような環境にいても、合う合わないなど、価値観の違いが出てきて、話が合えば、良いのだが、合わない同士というものは、とても辛いものがある。
そんな中で、カワウソさん夫婦は、自分と多少違った所があっても、それを受け入れ、何かと話が出来る人だった。
それは、住む場所と勤務する場所が変わっても、変わらずに残っていた。
だからこそ、安心感があると、お母さんは感じた。
同じく子供達を相手として働く、先生である以上、カワウソ夫婦の存在は大きかった。



翌日になっても、二つの園は交流し、最後まで楽しく過ごせた。
先にカワウソさん達の乳児院の子供達がキャンプ場を去り、お母さんは、また一人で子供の面倒を見る事となった。
夫婦で一緒に働いているが、夫はもう一つ、大切な役割を持っている。
コテージの中で、帰り支度をしていると、またも子供達は荒れ始めた。
仲間意識は、カワウソさんの乳児院の方がしっかりしていた。
音楽をやる際、一致団結の精神が必要なのかも知れない。
ある程度、仲は良いような、悪いようなと、子供らしく、もめ事を起こしていたが、リーダーの子が、しっかりと他の子をまとめていた。
自分達の所では、リーダーはいるものの、そこまで上手くまとめられない。
自分達が声を荒げて、ようやく、いや、しぶしぶ言う事を聞いてくれる、といった感じが多く、いつもてんてこまいである。
今日はまだ、大人しい方だ。
昨日の交流で、何か、良かった事があったのかも知れない。
少しまとまって、行動している。
カワウソさん達とは、またこのような感じで、園の子達を交流させようという話が出た。
キャンプに詳しい子供達は、ウチの園の子供達にとても良い刺激になったみたい、と言ってくれた。
それは、こちら側も同じ意見だった。
音楽というものに触れて、とても楽しそうにしていた。
演奏会があったら、招待する、とも言ってもらえた。
連れて行くのは、大変そうだが、子供達にまた、あの子達に会える、と言えると思うと、移動が大変な事くらい、しょうがないように思える。
しっかりと、手がかからないようにしてくれれば良いのだが。
いつもの三人組が、なにかやらかしそうだ。
そして、今も彼女たちは、移動の前のゴタゴタを引き起こしてくれた。
やっとこ騒動が収まって、帰り支度が整った。
帰り道も帰り道で、列を乱すのはいつも通りである。
ため息をつきながら、歩いて、ようやくいつもの施設が見えてきた。
施設に入ると子供達は走って入っていったりすると思ったが、そんな事はせず、大人しかった。
教室に入っても、走り回る事はせず、荷物を置いて、大人しく過ごしている。
お母さんは教室を出て、先生の部屋に戻って、自分の机に荷物を置いた。
椅子に座り、ようやく一息ついて、飲み物を飲んでから教室に戻った。
教室の中に入ると、みんな床に転がっていた。
一人、一人に布団をかけてやり、転がっている荷物を集めて、棚に収納した。
教室から再び、先生の部屋に戻り、教師の休憩室に入った。
中は畳でお茶が飲めるようになっている。
夜勤で働くグレーウサギのお母さんが、少しでも仮眠を取れるようになっているのだ。
ゴロンとその場に横になり、疲れを癒すことにした。
寝る事はしないが、こうしていると、寝てしまいそうだ。
気を付けなければ。



しばらくして、部屋にグレーネコの男性が入ってきた。
お母さんはその男性の姿を見て、自分の夫であると認識した。
「体は大丈夫か?」と言われ、疲れたと言ったら、お父さんは体をマッサージし始めてくれた。
お母さんは、カワウソさん夫婦に会った事を、お父さんに伝えた。
それを聞いて、お父さんも、また会いたいと思い、その気持ちを、お母さんに伝えた。
生まれた子にも会いたいと二人で話し、いつか実現したら良いね、と願った。
マッサージを終え、お母さんは一旦、教室へ戻った。
子供達はぐっすり眠っていた。
布団を蹴飛ばしてしまっている子は、布団をかけてやり、皆の笑顔を見て回った。
再び、先生の部屋へ戻り、書類などを片付ける事にした。



今日はお迎えがある日である。
コアラの双子と、ラッテラパンの双子である。
双子育児はとても大変で、ましてやお母さんも働きに出ていると、面倒をみきれない場合が多く、このように迎えに来てくれる日と、来てくれない日がある。
このように、ある程度、お迎えがある子と無い子では、落ち着きの違いがある。
言う事を聞かない、問題ばかり起こすのは、大体がお迎えに来てもらえない子だ。
精神的に不安定だったりもして、非常に扱いにくい。
お母さんやお父さんの愛情に飢えていて、ちゃんと愛情をかけてもらっている子の数倍は手がかかる。
もちろん、そんな事が無い子もいるのだが、やはり親の愛情が少なかったり、歪んでいると、子供の性格に影響が出るらしい。
しかし、それはもう、どうする事も出来ない。
だからこそ、この園では、ちょっと大変でも、アウトドア趣味をさせて、たくましく生きれるよう、指導している。
それが上手く生きるかは、分からないが。
お昼寝が終わると、双子が二組の計四人が家に帰った。
他の子はどこか寂しそうな顔をしていたが、夕食時にはいつも通りだった。
お母さんの乳児院・保育園の仕事が終わり、夜勤であるグレーウサギのお母さんにバトンタッチして、家へ帰った。
なんだか、久しぶりに帰って来た気がするが、そんな事はない。
しかし、妙に懐かしく思える。
子供が出迎えてくれた。
家に帰ってきて、一番嬉しい時間である。
夕飯は隣の家で済ましてきたらしい。
というより、母がいない間、学校以外はずっと隣でお世話になっているようだ。
夫もそれなりに、隣に出入りしていたようで、帰ってくると、開口一番、やっぱり家は落ち着くな、と言っていた。
夫婦二人の時間で、マッサージをしてくれたり、仕事での事を聞いてくれる夫は、お母さんにとって、とっても良いおパートナーである。
昼間もやってくれたマッサージで、心と体が癒され、途端に眠気が襲ってきた。
マッサージが終わると、ゴロンと仰向けになり、天井を見上げる。
“今日も一日、お疲れ様、私”
お母さんは静かに目を閉じた。
お母さんが寝たのを確認して、お父さんは布団をお母さんの体にかけた。
自分も眠る為、布団に入り、目を瞑った。
何事も問題なく暮らせる、日常のありがたみを感じ、お父さんは眠りについた。



翌日
朝日が昇り、新しい一日が始まった。
お母さんは目が覚め、今日もまた、朝が来た事を知った。
憂鬱な気分ではあるが、さわやかな朝だった。

              第三話 終わり
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