短編 シャノン ③

文字数 5,049文字

今日は、休日を利用して、村の中を探索する事にした。
子供を連れていると、一人では怪しい行動も、ある程度見逃してくれる。
また、この村に来たばかり、というのも好都合だった。
今回、村長一家は家族で出かけている。
村長にシャノンや子供達も一緒にどうか?と、誘われたが断った。
ものすごく寂しそうな顔をされたが、シャノンもそれなりの顔をして、返しておいた。
村を探索していると、グレーの毛並みのネコとウサギの男が二人いた。
そちらに声をかけるべきだったのかと、後悔した。
そんな事を考えていると、ふと、木の生い茂る公園へ着いた。
公園の中に入ると、それなりに人が沢山いる。
小さな子達が遊んでいる所で、情報収集するため、同じくらいの子を探したが、見当たらなかった。
しかたがなく、子供二人を遊ばせる為、ベビーカーを止め、二人を下ろし、自分の目の届く範囲で遊ばせることにした。



ふと、耳をすませると、この間の祭りがどうとかと、話している。
建国記念の祭り、というものがあったようだ。
そこで、国王の話が出てくるかと思ったが、国王の話は一切出なかった。
この国に来て、国王の話をする人に出会わなければ、テレビをつけても、ニュース番組で国王のニュースを一切流さない。
村長の男に聞いても、国王?全く姿を現さないし、誰もそんなの気にしない。
この国は自由な国である以上、周りは皆、それぞれに、あまり干渉せずに生きている人が多い。
だからこそ、他国の人がウロウロしても気にしないし、理由も本人から喋らないかぎり、この国に来た理由なんて、誰も気にしない。
人はそれぞれ、様々な理由があって、この国にいる。
古い住人も、新しい住人も、国王が急に出てきても、皆、気にしないよ。
そこでシャノンは、国王政権になった時の話を聞いたが、村長は、新しく国王という人物が、この国に来た時、アーテル村の村長がその男と合ったんだ。
町の町長とも顔を合わせたが、黒いフードをかぶった男だったらしい。
わけあって、今までいた国を出てきたという男は、身を潜めたい、という事と、新しく村を作りたい、という事だった。
それには自分達で何とかする、という事で、それを条件に新しい村を作らせたんだ。
私達は元々、隣のアーテル村の住人だったんだが、村長が必要、という事で、私が選ばれたんだ。
村長と町長が話し合った結果、そうなったんだ。
国になったのは、その後の話なんだけど、二つの村と、町が出来た時点で、国でもなんでもないのはどうか?という話し合いが行われ、新しい村を作った男に頼む事にしたんだ。
それなりの権力者であるのは、村を作れるだけの力があると、思ったからだよ。
男の周りには、それなりに人材が揃ってた。
そんな人数を連れて、この場所まで来たらしいから、小さくても何かしらの集落とかの長とか、そんな感じだったんだろう、と思っているよ。
集落が潰されて、住む場所を失ったんだろうとかも、言われてた。
この土地は、村が出来た時も、町が出来た時も、色々な人達が、あちこちか来たのが、きっかけだった。
そうやって繁栄したんだ。
だから誰も、何も気にしないよ。
国王が出来ても、へぇーといった感じだった。
何か変わるか?って聞かれた事で、何も変わらない。
一つの国になった事で、繁栄し、皆、大喜びだ。
国王の姿が見えなくても、どうでも良いんだよ、彼のお陰で、国として繁栄出来たんだから。
もちろん、彼の姿を見てみたい、という人もいるだろうけどね。
という話だった。
『国王』
今は姿を隠し、この国に潜んでいる。
その後の情報を探しているのだが、当てにした自分がバカだった。
公園でもそうだが、自分の国の国王の姿を見なくても平気というのが、シャノンには理解出来なかった。
シャノンの子供の双子は、まだ小さい為、近くで見ていれば、その場所で遊んでくれている。
ハイハイやおすわりは出来るが、あまり動き回らないでいてくれる。
大人しく二人で遊んでいる姿は、微笑ましかった。
国王の話が、もっと聞きたいが、みな、どこかシャノンを避けているように見えた。
見知らぬものだからしょうがないが、本当に他人に関して、無関心のようだ。
ありがたい反面、情報が欲しいシャノンにとっては、収穫無し、というのが、非常に残念である。
しかたがなく、再び子を抱え、別の場所へ向かう事にした。
ベビーカーに乗せ、別の方向へと歩き出したシャノンは、森の方を見つけた。
この村は、森に囲まれている為、どこがどう繋がっているか分からない。
シャノンはとりあえず、行ってみる事にした。



遊歩道の所を歩いていると、物陰から男女の声が聞こえてきた。
その声は聴いているだけで、不愉快になってきそうなほど、気持ち悪い、いちゃついた声だった。
シャノンは声を聞いただけで、ブスやブサイクカップルだろうと推測した。
その場を気持ち足早に歩き、通り過ぎる。
この森は、公園が管理している森らしく、目当ての森ではなさそうだ。
人がウロチョロしている。
健康の為と、ウォーキングしていたり、ジョギングしている人までいる。
遊歩道から、少し狭い横道に入ると、人の気配は消えたが、整備されているのは分かる。
“恋人達の隠れやすい”スポットとして、人気なのだろうか、木の木陰からチラチラと人の姿が見える。
昼間っから盛んに、木が生い茂る場所で、最中らしい。
シャノンは飽きれたが、気にしたら負け、と自分に言い聞かせ、奥へ進んだ。
自分だって久しぶりに男性と愛し合いたいが、そんな相手は、今はいない。
自分に好意を寄せているだろう人は、見れば分かるが、どれも自分の相手には、相応しくない。
シャノンはため息をついた。
その時、物陰に女性の姿がチラホラしていた。
またか、と思ったが、同時にシャッター音も聞こえた為、何かが違う…と思った。
気になって近くまで寄ってみると、女性同士が裸でポーズを取り、それを別の女性がカメラで写真を撮っていた。
ビックリしてその場で立ち止まり、少々見続けてしまった。
我に返り、今来た道を戻り、遊歩道まで戻って来た。
女性同士?いや、あれは行為じゃない。
二人が裸で、一人が服着て、カメラで写真撮っていた。
あれは、紛れもなくアートの方だ。
まさか、こんな所で撮影するなんて。
思ってもみなかった。
シャノンは、変な興奮を覚えてしまった。
今までにない、経験した事の無いものを見てしまった。
女性の体に興奮しているのではなく、そのシチュエーションに興奮しているのだ。
アートとはいえ、とても大胆な行動だった。
男とは沢山経験したが、カメラで写真を撮られたり、動画撮影されたりはしなかった。
自分の知らない快楽があったなんて、驚いてしまった。
女同士には興味ないが、自分もこの美しい裸体を写真に収めたくなった。
アートではなく、快楽で、そうして欲しい気持ちが強くなった。
シャノンは家に帰り、この興奮をどう抑えるか、そればかり考えるようになった。



家に着くと、ベビーベッドに二人を寝かせて、自分はパソコンデスクの前に立った。
イスをひき、そのイスに浅く腰掛け、ノートパソコンを起動させ、色々と検索をかけた。
そうすると、様々な物が出てきて、それを一個一個チェックし、自分が探しているものか、見続けた。
誰かに声をかけるのは、勇気がいるように、クリックした所に連絡先や相手の情報が載っていても、それをクリックするのが怖かった。
どんな人なのか、分からないと、会うに会えない。
シャノンは一回、パソコンを閉じて、手を休め、イスの背もたれに寄りかかった。
頭の中はセクシーな妄想で、一杯になっていた。
しかし、それを処理するには、カメラが必要である。
母屋に出入り出来れば良いのだが、勝手には入れない。
だからって、今からカメラを買いに行くのはっちょっと違う。
今、カメラを持っている人に、自分の裸体を取って欲しいのだ。
惜しみなく、溢れんばかりの美しさを誇る自分の裸体を、そのカメラで写真を撮って欲しいのだ。
「はぁー、今は無理ね」
シャノンは気分を変える為、キッチンへ行き、コップに水を注ぎ、それを飲んで体のほてりを取る事にした。
水を飲むと少しは冷静になれた。



その日の夜、シャノンは帰宅した村長に声をかけ、カメラはあるか?と聞いた。
すると、家にあるよ、出してこようか?と言われ、出してもらう事にした。
しばらくしてシャノンの元に戻って来た村長が、手にしていたのは、見るからに高性能、といった感じのデジタルカメラと、昔ながらのフイルムカメラを差し出された。
「どちらでも、好きな方を取って良いよ」
「良いの?嬉しい!でも、その、使い方が良く分からなくて」
「それなら、まだ、簡単な方のデジタルカメラが良いだろう。フイルムカメラの方は、フイルム交換とか必要だけど、こちらはそんなもの必要ないから、簡単だよ」
「そうなの?あの、もしよかったら、その、じゃあ、デジタルカメラの方の使い方を、教えて欲しいのだけど、良いかしら?」
「かまわないよ」
「じゃあ、あの、こちらへ来て」
そう言ってシャノンは、シャノン達が住む、離れの中へ村長を誘った。
カメラを二つ持ったまま、村長はホイホイと着いてきた。
シャノンは、リビングで村長を待たせ、寝室に行き、準備をした。
シャノンの計画は、水を飲んだ時に思いついた事だ。
冷静になると、簡単に自分の心を満たせるのを、思いつく事が出来たのだ。
村長をとことん利用して、自分の体を満たす。
そうすれば危険に飛び込まなくても良い。
非常に安全なはずだ。
村長も村長で、自分に気があるのは、目に見えて分かる。
シャノンの体にむさぼりつきたいはずだ。
だからこそ、この男なのだ。
予想通り、カメラも持っていた。
後は自分の裸体を撮ってもらえるように、誘導するだけだ。
シャノンの心は、情熱的な炎で、一杯になっていた。
準備を済ませ、リビングへ向かう。
「お待たせしました、ごめんなさい、急に来てもらったのに待たせちゃって、どんな写真が良いか、もう、考えてはいるんだけど、その、カメラが無くって、困ってたの、助かったわ。ねぇ、その二つのカメラで、試しに私を、撮って欲しいの、良いかしら?」
「良いよ、どこで撮る?」
「恥ずかしいけど、寝室まで来て」
「分かった」
二人は寝室へ行くと、シャノンがドアを開け、村長を通した。
テーブルの上にカメラを一旦、置くように指示し、村長はカメラを置いた。
「私はベッドに横たわるから、その姿を一枚ずつ、二つのカメラで撮影して欲しいの」
「分かった」
シャノンは、着ていた物を脱ぐと、シャノンはセクシーな姿になった。
裸の上に、薄手のネグリジェしかつけていなかったのだ。
この格好になる為、シャノンは寝室で着替えていたのだ。
村長も、いつもと違うシャノンに、何かは察していただろう。
まさか、カメラで裸体を撮るとは、思っていなかったが、シャノンが寝室から戻った時の姿を見て、そっちのお誘いとは思ったんだが。
「シャノン、きみ…」
「良いの、お願い、私の体の写真を撮って」
そういってシャノンは振り向き、憐れな姿を見せた。
美しいその裸体は、確かに芸術作品のようだった。
村長は、シャノンの言う通りに動いてくれた。
ある程度満足したシャノンは、不意に落ちないが、男にとある一言を告げた。
「ご褒美があるの、受け取って」
「ご褒美?」
「えぇ、私の言う通りに動いてくれたお礼よ、受け取って」
「ご褒美もあるのか、なんだろう」
シャノンはベッドに横たわったまま、「カメラを一旦、置いといてもらえる?」と言い、「あなたはもしも、私の体を好きにして良いって言われたら、どんなことを望むの?」と聞いた。
男はシャノンを狙っていた。
いつかそんな時が来れば、と思っていたが、今まさに、その時が来たと思った。
「とても嬉しいな、シャノンがご褒美なんて、考えもしなかった。シャノン、君はとても魅力的だ、芸術作品のようだ、そんな君を、好きにして良いなんて、夢みたいだよ」
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいわ、さぁ、ご褒美を受け取って」
「シャノン…」
男はその日から、シャノンを愛人にすることにした。
シャノンもそれで良いと、言ってくれた。
シャノンは何か、願い事があるたびに、男に頼む事にした。
しかしちゃんと、そのたびにシャノンは、ご褒美となった。
シャノンは、本当なら、この男のような男は、相手にしないのだが、情報の為でもあるし、自身の欲求の為でもある。
この日から二人は、あぶない世界へ、片足を突っ込む事となった。

        短編 シャノン ③ 終わり
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