2日目―2

文字数 2,019文字

―広瀬くん、君は今この世界のどこにいるの?―

 広瀬(タツミ)くんがこの世界にいると聞いてやって来たはいいものの、未だに消息は掴めていない。
「この街で合ってるはずなんだけどなあ…」
 この街は私達の世界の私達がいる街によく似ている。というか地理的にも同一の場所だ。タツミくんが昨日今日と無断で学校を休んだため、私は担任の先生に様子を見てきてくれと頼まれた。そしたらタツミくんはこの世界と対になる異世界にいることをご両親の証言から掴んだ。ただその動機までは知らないとのことだったけど。あと何故だか学校には黙っておいてくれと言われたらしい。ついでにもし良かったら様子を見てきてくれとご両親に頼まれた。先生もだけど、ただの―それもそんなに親しくもない―同級生にそれを頼む親ってどうなんだろう?今日は金曜日だったし、親には友人と旅行に行くと嘘をついてタツミくんの後を追うことにした。
「親しくない…か…」
 元の世界でのタツミくんはなぜだか私を避けていた。中学で知り合って、最初の頃は席が近かったこともあってそこそこ話をしていたけど、あるときを境にタツミくんと話をする機会が一気に減った。私が話しかけてもはぐらかされて終わりだ。
「私、広瀬くんに嫌われてるのかなあ?…だったら凄いショックだなあ…だいたい広瀬くんもあんなにあからさまに私を避けなくてもいいじゃん意地悪う…」
 などと独り言を言いつつ小道を歩いていると、目の前に人が倒れていた。
「だ、大丈夫ですか!?
 って、タツミくん!?いや、違う、良く似ているけどタツミくんじゃない。たぶんこの人はこっちの世界の”広瀬達海”だ(だから”タツミ”くんではあるんだけど)。
「ま、待て、夏希…そいつは…俺の偽物…だ…」
 “ナツキ”って、私のこと?そんな訳ないか、たぶんこっちの私のことだろう。いずれにせよ何でこんなところで倒れているんだろう?
「しっかりしてください!!
「父さん…母さん…みんな何で俺を…無視するんだよ…」
悪い夢でも見ているのか、随分とうなされているみたい。
「もしもーし」
 とにかく彼を助けないと…
「うわあああぁぁぁ!!!!!」
 叫び声とともに彼は目覚めた。私も驚いて腰がひけた。
「あの、大丈夫ですか?」
 彼に声をかけてみる。
「な、夏希!?
 ど、どうしよう!?たぶん彼はこっちの私のことを知っている。ということは彼はやっぱりこっちの達海くんなんだ!
「え、ええと…私は…」
「夏希?夏希なんだよな?…良かった…本当に…」
 彼は突然私を抱きしめた。
「ひゃ、ひゃあああぁぁぁ!!!!!急に抱き着かないでくださいよう…」
 突然のことで心臓が止まるかと思った。だって好きな男の子と瓜二つ(というか異世界の同一人物)なんだもん。そりゃ本当はちょっとだけ嬉しいけどさあ…
「あ、ご、ごめん…」
「だいたい私は、そのお…あなたの知っている”夏希”じゃあないですし…」
 まあ、これは噓じゃないよね?私も”間宮夏希”だけどこっちの私ではないし。
「え、人違いでしたか!?益々とんだ無礼を…本当に申し訳ございませんでした!!
 おそるおそる彼に聞いてみる。
「そ、その…広瀬達海さん、ですよね?」
「え、あ、あの…俺のことがわかるんですか?」
 やはり彼はこっちの世界の達海くんで間違いないみたいだ。
「あの、なぜ俺のことがわかるんですか?そもそも、俺とあなたの間に面識なんてありましたっけ。」
 しまった!一応私達は初対面なんだ!!どうしよう?夏希の姉、とか言ってもばれそうだなあ。こっちの達海くんはこっちの私と仲良さそうだし…いいなあ、こっちの私は広瀬くんと仲が良いみたいで…
「そ、その、私は間宮冬華(ふゆか)と申します…ええと、あなたの言う”夏希”とは…いとこです!!そう、いとこなんです!! その、あなたのことは、夏希から聞いたんです。」
私はとっさに噓をついた。彼はどうも信じてくれたらしい。それから彼と話しているうちに彼がこっちの私と付き合っていることもわかった。まあこれについてははっきりと明言した訳ではないので話しぶりからの推測だが。ついでにこっちの私は随分と男勝りで気が強くおてんばらしい。同じ”間宮夏希”としてそこだけは聞いていて気持ちの良いものではない。そうは言いつつも彼自身はそんな夏希にゾッコンらしい。ああ神様、なぜ世界が少し違うだけでこんなにも不平等が生じるのですか?
ともあれ彼の言葉で引っかかる点があった。彼が口にした”ドッペルゲンガー”のことだ。なんでも彼はそのドッペルゲンガーにやられて気を失っていたらしい。おそらくはそのドッペルゲンガーの正体が私が真に探し求めているタツミくんだろう。なんとなくタツミくんの目的がわかってきた。タツミくんも私のことが好きなら直接言えば良いのに…ともあれしばらくは達海くんと協力しよう。タツミくんがこっちの私と付き合いたいのなら私だって達海くんと過ごしても問題ないよね?
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