2日目―1

文字数 1,767文字

 今日という日をどれだけ楽しみにしていたことだろう。今日は初めて夏希と登校できる日だ。たったそれだけのことだが、僕はこの時をどれだけ楽しみにしていたことか。今日から3日間だけだが、夏希は僕の彼女だ。もちろんこんな仮初めの恋人関係などただ虚しくなるだけかもしれない。結局はこの世界の夏希は僕ではなく達海の彼女だ。そんなことはわかっている!だが、それでも、夏希の彼氏になれるなら…僕の世界のナツキは中学生の頃に告白してきた先輩と交際をしているらしい。”らしい”というのはあくまで人伝いに聞いた噂だからだ。噂だが、怖くてとても本人には聞けなかった。もし噂が本当だったら…嫌なことを考えるのはやめよう。今は、今だけは夏希は僕の彼女なのだから。さて、夏希を迎えにいかないとな。僕はいつも通りヘッドホンからラルクを流しながら家を出た。

―その手を離さないで 目覚めるこの世界を感じて―

 夏希にもうすぐ会える。そう思うだけで自然と歩調が速くなり、気がつけば聴いていた『NEO UNIVERSE』のサビを口ずさんでいた。NEO UNIVERSE(新宇宙)、まさに今の僕が聴くにふさわしい曲じゃないか。そんなことを考えていたとき、突然何者かに背後から襟を掴まれて乱暴に脇の小道に連れ込まれた。
「てめえ一体何者(なにもん)だ!?何が目的だ!?
 誰かと思えば君か、達海。
「酷いなあ、急にこんなことをするなんて。僕が何者かって?僕は広瀬達海、ただの高校生だよ。」
 一応断っておくが噓はついていない。ただこの世界の広瀬達海ではないというだけだ。
「ふざけんな!!広瀬達海は俺だ!!あんたはただのドッペルゲンガーだろ!!俺の猿真似なんかしやがって。」
 確かに君から見たら僕はドッペルゲンガーだろうな。とはいえあんな幽霊じみたものと一緒にされて気分の良いものではないな、少し言い返すか。
「おいおい、他人をドッペルゲンガー呼ばわりは感心しないなあ。あんな怪奇現象と一緒にしないでくれ。第一、僕からしたら君の方こそドッペルゲンガーに見えるんだが?」
「はあ?あんた何訳のわかんねえこと言ってんだ?俺がドッペルゲンガーだって?」
「だってそうだろう?君自身が本当に広瀬達海という人間のオリジナルであるなんて保証はどこにあるんだい?少なくとも僕の両親は君でなく僕を息子である”広瀬達海”だと認識した。君ではなく僕を、ね。おまけに”僕の”父さんは君を見て言っていただろう?『息子には全然似てない』ってね。そういえば赤の他人である警官だって同じこと言ってなかったっけなあ?この時点でも僕の方が”広瀬達海”である確率は高そうじゃないかい?」
「あんなのはインチキだろ!!お前が父さんや警察をあの青白い光で洗脳して…」
 ああその通りだよ。我ながら?勘の良いやつだ。
「立証できるかい?」
「なっ、何言ってんだお前…」
「立証できるかいと聞いているんだよ。この世界では青白い光を見せたら他人を洗脳できる、なんてことがあるのかい?仮に裁判をしても証拠不十分で棄却されそうだねえ。言いがかりもいいところだよ。」
 適当に達海をあしらったことだし、そろそろ夏希の元へ向かおう。
「もういいかな?彼女を待たせているんだ。”僕の”彼女をね。」
 悪いが君の相手をしている時間はないんだ。1分1秒でも長く夏希と一緒にいたい。
「ま、待て!夏希に妙なことをしたらただじゃおかね…」
 振り向き際、達海が再びこちらに手を伸ばしてきたので、とっさに護身用の道具を使って彼を気絶させた。安心しな、命に別状はない。と言うか死なれたらこっちも困る。並行宇宙(パラレルワールド)にはいくつか対になっている宇宙が存在して、それぞれに同一人物が住んでいる。で、ある宇宙の誰かが死ぬと対の宇宙に住む同一人物も死因は違えど死ぬことがわかっている。その原理については僕らの世界の科学力を持ってしても不明だが。それはそうと急がないと時間がないな。
「待っててくれ、間宮さん。」
「ま…ちやがれ…畜生…」
 達海が何か言っていた気もする。が、生憎これ以上君に構ってやれる程暇じゃないんでね、悪いが無視させてもらうよ。僕は急いでその場を去った。
「遅~い!!あんたどこをほっつき歩いていたのよ?学校遅れるわよ?」
「ああ、ごめん。ちょっと野暮用があってね。」
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