2日目―3

文字数 1,826文字

 下校時に夏希と歩きながら週末の話をしていた。初めに口を開いたのは夏希だ。
「ねえ達海、明日の遊園地楽しみね。何から乗ろっか?」
「え、明日?遊園地?」
「やあねえ、今度の土曜に遊園地に行こうって約束してたじゃない。まさか忘れてたの?」
 遊園地のことは初耳だ。
「そ、そんな訳ないじゃないか。」
「ふーん、どうだか。じゃあ明日駅に何時集合か言ってみな。」
「ええと、それは…」
「ほらやっぱ忘れてる。明日は最寄駅にAM8:50分集合、AM8:57発の都市部行の上り列車に乗車、ホント、しっかりしてよね。」
「あ…ああ、そうだったな、すまない…」
 なおも夏希の愚痴は続く。
「だいたい計画立てたのあんただよね?何であんたが忘れてるのよ?」
「え、そうだったの…いや、そうだったっけ?」
「はあ?あんた本当に忘れてたの?昨日学校で約束したじゃない!?ほら、あんたが博物館に行きたいとか言い出してあたしがデートの誘いのつもりならもっとマシなとこ選べって言って遊園地になったでしょ?思い出した?」
 そんなこと言われても昨日の昼はこの世界に来てないから知らないよ…
「ああ、そういえばそんなこともあったっけ…でも、デートで博物館って割とアリじゃ…」
「ナシよ。」
 意中の女の子をデートに誘おうとしているそこの君、博物館だけはやめておけ。僕の彼女(仮)によるとナシらしい。
「ていうか今日のあんたちょっと変よ?何かあったの?」
「え、へ、変…かなあ…俺は至っていつも通りのなんだけどなあ…」
「いいや、変よ。言葉遣いも少し違うし、数学の授業でも数学苦手なあんたが先生に当てられた、それも結構難しい問題をスラスラ解いてたし、登校中に口ずさんでいた歌がGLAYじゃなくてラルクだったし。」
 やはり”別宇宙の自分”とは言え別の誰かを完璧に演じるのは難しい。そもそも洗脳といってもあくまで僕をこの世界の広瀬達海と思わせて達海を別の誰かと思わせるだけだ。当然認識の齟齬は出てくる。ちなみに数学については僕らの世界ではこの世界よりも数学が発展していて、今日習った内容も向こうじゃ中学で習うようなものだ。あと僕自身数学は得意な方だし。
「こ、言葉遣いに関しては気のせいじゃないか?数学に関しても前日勉強してたところがたまたま出たからだし、登校中のことに関してもたまにはラルクも良いかなあ~て…」
「ふーん、あんた予習とかするタイプだったっけ?」
「き、気が向いたからしただけだよ。」
「あっそ。明日大雨だったりして。もしそれで遊園地に行けなかったらあんたのせいよ。」
「ええ…」
 流石にそれは理不尽じゃないか?まあ大雨でデートが中止になったら僕の方が困るけど。
でもまあ、遊園地かあ…
「遊園地ならお化け屋敷とか…」
「絶対にダメ!!
 間髪入れずにこの返答。お化け屋敷はデートの定番だと思ったが、それもダメなのか?
「え、でもお化け屋敷はわりと定番じゃ…」
「ダメなものはダメ!!ダメダメダメダメ絶対にダメ!!
 ここまで痛烈に拒否されるとは思っていなかった。女って面倒臭い生き物だなあ…
「ご、ゴメン、そんなに嫌がるとは思っていなかったんだ…」
「噓をつくな!!あんたあたしがお化けとかダメなの知っててからかってるでしょ!? 次その話をしたら遊園地には行かないからね?」
 へえ、こんな強情な割にお化けとかはダメなんだ。その点はちょっと可愛いな…とはいえこれ以上からかって(からかったつもりもないが)遊園地に行けなくなったら元も子もないし、何より命の保証もないかも知れないのでここは素直に謝っておくか。
「ほ、本当に悪かったって…」
「…冗談よ。ところでさ、今からカラオケでも行かない?久しぶりにGLAYの『南東風』歌ってよ。あたしあの曲結構好きなんだあ。ホント、シングルじゃないのがもったいないぐらい。」
「み、みなみごち?」
「うん、あたしとカラオケに行くときはいつも締めに歌ってるでしょ?また聴かせてよ。」
 どうしよう、GLAYはベスト盤を含めてアルバムを何枚か持っているぐらいだし、そんなに頻繁に聴く訳でもないからこの曲がどういう曲かわからない。そもそも曲名自体初めて聞いた。
「ご、ごめん。今日用事があるから無理だわ…」
「ちょ、ちょと…」
 僕は夏希の方を振り返らないでそのまま家まで走り去った。最愛の人(に良く似た人)からのせっかくのデートの申し出を断るなんて、僕は(こっちの僕を犠牲にしてまで)何をしにこの世界にやってきたんだ?…
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