第8話 校長先生にショウブを渡すみーちゃん

文字数 1,089文字

 今日のみーちゃんは校長先生にショウブを渡します。

 5月5日は子どもの日です。それは子どもの健やかな成長を願う端午の節句にゆかりがあります。5月5日には、みーちゃんの家では人が出入りするところにヨモギを飾ります。厄除けになるからです。

 夕食にはちらし寿司が出ます。とってもきれいなので、みーちゃんは大好きです。みーちゃんは、その他にも楽しみがあります。それはショウブ湯に入れることです。

 ショウブは刀のような葉をしていて、青い花をつける草木です。ショウブ湯にはこの茎葉の部分を使います。それを湯船に入れ、いつもより少し熱めにお風呂を沸かします。

 ショウブはお父さんが前堤(まえつつみ)から採ってきたものです。

 前堤は、みーちゃんの家から1.5km.くらいのところにあります。陸橋を渡ると、道が二つに分かれています。まっすぐ進んで坂を登ると、小学校に向かいます。左の道を5分くらい歩くと、右手に前堤があるのです。

 幸一くんや義信くんは前堤でフナ釣りをしていますが、みーちゃんはほとんどこの沼に近づいたことがありません。けれども、端午の節句の時は別です。お父さんの運転する軽トラックに乗ってショウブを採りに行きます。2人でよさそうなショウブを探して片手でつかめるくらい集めるのです。

 ショウブ湯の時はみーちゃんが一番風呂です。お風呂のふたを開けると、ショウブの香りがお風呂場いっぱいに広がります。

 ─―わー、いい香り!いつもと違ってぜーたくー!

 少し熱いので、みーちゃんはそーっと湯船に入ります。首までつかったみーちゃんは鼻で思いきり深呼吸をします。いい香りが体の中に入っていく感じがして、力がぬけていきます。すると、ふといい考えが浮かびます。

 ──そうだ!校長先生にショウブをあげよう!こんなにいい香りがするんだから、校長先生もきっと喜ぶぞー!

 みーちゃんはプレゼントするのが大好きです。喜んでくれるからです。

 翌日、みーちゃんは昨日お風呂で使ったショウブをもって校長室を訪れます。校長の藤田亜矢子先生に自己紹介をして、みーちゃんはショウブを差し出してこう言います。

  「校長先生、これ、差し上げます。昨夜、うちでショウブ湯をしました。とってもいい香りがしました。校長先生も、ショウブ湯に使ってください」。

 校長先生は大人です。

 「あらー、あなたの家ではショウブ湯をするのねー!そういう昔からの伝統を大切になさってるオタクなんですね。校長先生、とっても嬉しいです。じゃあ、これはいただくわね。ありがとう」。

 大人の思いやりをまだわからず、喜んでくれたと満足するみーちゃんなのです。

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