第25話 ひいばあちゃんと『皇室アルバム』を見るみーちゃん

文字数 1,107文字

 今日のみーちゃんはひいばあちゃんと『皇室アルバム』を見ます。

 みーちゃんにはひいおばあさんがいます。1890年、つまり明治23年に生まれたので、今年で96歳です。みんなは「ひいばあちゃん」や「ひっこさん」と呼んでいます。

 ひっこさんはみーちゃんが話をしたことのあるただ一人の19世紀生まれの人です。みーちゃんは探偵のお話が大好きです。19世紀と言うと、シャーロック・ホームズが活躍していた時代です。その頃の人が家族だなんてみーちゃんにはとてもうれしいのです。

 ひいばあちゃんが毎週欠かさず見ているテレビ番組が二つあります。一つは『水戸黄門』です。みーちゃんも大好きです。月曜日の夜8時から家族みんなで見ています。

 もう一つは『皇室アルバム』です。毎週土曜日の朝9時半から6チャンネルで放送しています。この時間は学校なので、みーちゃんは見ていません。でも、今は夏休みですから、ひいばあちゃんと見ることにしています。

 ひっこさんは耳が遠く、目もあまりよく見えません。ですから、みーちゃんは番組が始まったことを教えるのです。

 もうすぐ9時半です。ひいばあちゃんはテレビの前で正座をしています。みーちゃんはその隣で座椅子に腰かけています。

 ──あ、始まる。

 みーちゃんはひいばあちゃんの耳元に口をよせます。

 「『皇室アルバム』始まるよ」。

 みーちゃんがそう言うと、ひっこさんはうなずきます。そうして両手をついて、正座したまま、体を前にゆっくり倒し、畳に額をつけます。

 ひいばあちゃんは番組中ずっとこの額(ぬか)ずく姿勢をしているのです。

 初めてこの姿を見たとき、みーちゃんは驚いてしまいます。お父さんに理由をたずねると、ひいばあちゃんは天皇陛下が神さまだと教育されたからと教えてくれます。ただ、ひっこさんは「天皇陛下」と言いません。「天子さま」と呼びます。

 確かに、神さまや仏さまを拝むときは、みーちゃんも手をを合わせて頭を下げます。でも、額ずくことはしません。そのことを聞くと、お父さんは昔の人だからと言っています。そういえば、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんは額ずくどころか、番組も見ません。

 ──19世紀の人は違うんだなあ。

 番組は天皇陛下や家族が微笑んでいるだけで、みーちゃんにはちっともおもしろくありません。ほんとうに記念撮影の「アルバム」をながめているようです。

 ひっこさんに目をやると、固まったように同じ姿勢をとっています。ぴくりとも動きません。

 ──すごいなー、全然動かないや。でも、画面を見ていないんだから、テレビの前にこなくてもいいんじゃないのかな~。

 戦前の現人神の雰囲気をかいま見たみーちゃんなのです。
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