第6話

文字数 1,072文字

「馬鹿者」
 一喝してから、思わずため息がでた。
 ここしばらく問題なくやっていると思ったら、これだ。
 リトは、首を縮めてうつむいている。
「申し訳ありません」
「どうするつもりだ」
「その……探してきます」
「どこで落としたかわかっているのか」
「……いえ」
 レンフォードは腕組みをして目の前のリトを見下ろした。
 神官長の手紙は、今度の定期会の日程とその時の議題についてのもののはずだ。今度の議題には西の村のことも関わるので、そのことにも触れてあるかもしれない。
「あの、でも、探してきます」
 リトはそう言うなり、くるりと身を翻した。
「あ、おい」
 呼び止めたが、もうその姿は部屋にはなかった。
「さて、見つかるならいいが、どうかな」
「おい、どうした、今リトのやつが」
 相変わらずいきなり扉を開けて、キリアンが入ってきた。
「ああ、ちょっと出かけた」
「戻ってきたばっかじゃないか。今度はどうする、ついていった方がいいか」
「そうだな、そうしてくれ。また手紙を落としたらしい」
 キリアンは苦笑を浮かべて扉の向こうに消えた。
 レンフォードは机に広げてあった書類に、目を落とした。リトがくる前に見ていたものだ。その中に、ローゼルからの手紙もあった。
 ローゼルは、今度牧畜組合と西の村で話し合いを持つことになったことに、懸念を見せていた。
―くれぐれも無理をしないように。
 手紙にはそう書いてあった。普段は、あまりそういうことを言わない人だ。心配させてしまっているらしい。
 無理をするつもりは、レンフォードにはなかった。今まで何年も続いてきたことを、一気にひっくり返すのは難しいだろう。感情的な部分を刺激すると、逆によけい糸が絡んでほどけなくなってしまう気がする。少しずつ、少しずつ変えていければ。
「さて、手紙は見つかるやら」
 つぶやきつつ、ローゼルの手紙を手に取る。手紙には、追伸として気になることが書いてあった。
―今度、ゲルン公爵を訪ねることになった。
 何の用事で訪ねるのか、そもそもその公爵は誰なのか、詳しいことはそれ以上書いてなかったが、察しはついた。
 何か、手がかりが見つかったのかもしれない。
 そう思うと、組合だの西の村だののことより、すぐにでもローゼルのところに戻りたい衝動に駆られる。一緒に連れていってほしい、とローゼルに頼みたい。
 だが。
 深呼吸をする。
 落ち着くように、自分に言い聞かせる。
 それに、また空振りかもしれない。何か確実なことがわかれば、ちゃんと知らせてくれるはずだ。ローゼルに任せておけばいい。
 ふう、とひとつ息を吐いて、書類の束をめくった。
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