プロローグ(前編)
文字数 1,708文字
とある街の黄昏時──いや、逢魔が時と言った方がしっくりくるのかもしれない、ひとりの中学生が住宅街にある小道をトボトボと歩いていた。
山田イチローは、見た目も中身もパッとせず、これといった特技もないという、ちょっと気の毒な生徒であった。
そんな彼のぼやきをあざ笑うかのように、カラスは間の抜けた声を上げながら、それぞれの巣へと帰っていく。
……と、その時だ。
イチローは突然、立っていられないほどのめまいを覚えた。
彼はたまらず、アスファルトに倒れこんだ。
そうつぶやいた瞬間だった。
しょぼくれたオッサンが、彼を抱き起こし、話しかけてきたのだ。呼び捨てにはムッと来たが、めまいの影響もあり、イチローは素直にこたえた。
イチローはそう言いながら、よろよろと立ちあがろうとしたが、バランスが取れずにまた倒れこんでしまった。
男がわけのわからないことを言い出したので、瞬時に関わっちゃいけないタイプだと察知した彼は、男の手をふりはらった。
そう言いながら、走り出そうとしたが、やはり足が思うように動かず、二、三歩先で転んでしまった。
男がまたしてもわけのわからないことを言い、その上ドンくさいという、イチローが一番気にしていることを口にしたため、温厚な彼もさすがにブチギレた。
そして、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
あまりの衝撃と悲しみに、彼は膝から崩れ落ちた。
未来というものは未知であるからこそ、人は希望を抱いていられるのだ。
この男の登場は、イチローが抱いていた未来への希望を、きれいさっぱり奪い去ってしまった。
はたから見れば、よく似た親子が、仲良く肩を寄せ合っている姿にも見えただろう。
しかし二人の心境は、そんな穏やかなものではなかった。
一方の胸には、ぬぐいようのない絶望が、そしてもう一方の胸には、抑えようのない狂騒とが、とぐろを巻くヘビのごとく渦巻いていたのだ。