午前0時。
16(イチロー)は物置小屋の前で、ふと立ち止まった。
例の妖怪ポストに一通の手紙が入っていたのだ。
何がだよ。
ポストのことを知ってる人間なんて、うちら以外にはいないだろ。
440(師匠)は、今、空前のタヌキブームだから、全国の女子高生の皆さんからファンレターが届いたに違いない、とおっしゃっているぞ。
まあ、JKの嗜好はカワイイからゲテモノへとシフトしとるからにゃ。
我ながら罪作りなタヌキよ。
早速、開けてみようかのう。
440は皆に背を向け、懐中電灯の下でコソコソ手紙を読み始めた。
440は221(ジジイ)と16の声を無視し、最後まで一気に読み終えると、いきなり手紙を破り捨てた。
このやりとりの間に、253(ニャンコさん)は切り裂かれたピースをそそくさと貼り合わせ、一人黙々と手紙を読んでいた。
あれま。
だから私も絵をかくときに言ったじゃないですか。
あれは『つみれ』じゃなく『つくね』だって。
黙れ黙れ、黙れおろう!
吾輩の世界じゃ、つみれは串に刺して食うのじゃ。
あれはつみれ以外の何ものでもない、ガハハハ……!
1093(徳さん)、うろたえてデーモン閣下みたいな口調ににゃっとるぞ。
それに、こんな手紙を書くヤツに友達なぞいるか!
こやつはウソつきじゃ。
まあ440、私が絵をおでんに替えときますから、ここは穏便に。
いや、その必要はない!
吾輩の世界じゃ、つみれは……
歳をとるとこれだからにゃあ。
ささ221よ、1093のことはほっといて今宵の円周率を!
あれは父ちゃんの446(ヨシロー)だよ。
剛毛がザビエル状にハゲて、ああなっただけさ。
でもさすが221だね。
ウチの日常風景がよく描写されてるよ。
ああ、私も当時、悩ましかったからねえ。
夫婦の間に何があったかは知らないが、こうも冷え冷えとしてると、子どもたちには大いに悪影響さ。
その点、私の奥さんは決断が早かったから、息子はのびのび育って……、ううっ。
221、泣くでない。
おぬしより例のコーチの方がちぃとばかり110105(イイ男)だっただけじゃ。
しかしこれだけじゃ、16も物足りなさそうじゃにゃ。
こうなったらヤケだ。
続けてこの追い数字も覚えるが良い!
初登場、0288(鬼婆)の孫じゃな。
かの伝説的書き込み、肛門「何者だ」ウンコ「屁です」肛門「よし通れ!」を彷彿とさせるのう。
おお、そうじゃった。
とにかく、うっかりして05(孫)の虎82(パンツ)が大惨事になったっということじゃ。
覚えやすかろう。
奥さんは446冷遇、午後孫パンツに災難。
奥さんは446冷遇、午後孫パンツに災難。
093844609、5505822317。
どうだ!
オーチン☆ハラショー!
そして間髪入れずに『ロッキー』、カモン!
221がラジカセの再生ボタンを押すと、なぜかいつもの『ロッキー』ではなく、悲しげなギターのイントロが流れ出した。
おっ、この底抜けな暗さ!
さくらと一郎の『昭和枯れすすき』じゃ。
253が戸を開け、とっさに懐中電灯を向けると、鏡の反射のようにピカッとハゲ頭が光った。
このわざとらしい登場の仕方。
そして場の空気を一瞬にしてお通夜にしてしまう暗さ。
16の親父さんは、相当こじらせとるにゃあ。
こりゃかっぱどころか、もっと凶々しいもんが憑いとるぞ。
して、あのテープはおぬしの仕業か?
……ええ。
あんまりにも、みなさんが楽しそうだったんで。
ちょっといじけた気分になりましてね。
ほんの出来心です。
その卑屈さ、そしてそこはかとにゃいネチっこさ、もしやあの手紙を書いたのもおぬしじゃにゃいか?
253さんはやめろ、アグネスチャンちゃんみたいだにゃ。
昨日、私は445(ヨシコ)が布団を抜け出して物置小屋へ行くところを目撃してしまいましてね。
それでコッソリついていって、皆さんの会話を盗み聞いた次第で……。
ボクの円周率101桁を聞いたときに、『つみれ』部分が気になって、わざわざ手紙書いたの?
わが父親ながら、相当歪んでるなあ。
まあ、440さんのためによかれと思ってやったまでです。
おぬし、ちょっと話しただけで相手をMAXムカつかせる、稀有な才能を持っとるのう。
にゃにを!
わしゃ気づいとったが、1093への優しさからスルーしたまでにゃ。
どうです。
このかまってちゃんな上に、無意識に周囲をイラつかせる性格。
母もよく我慢してる方だと思いますよ。
うう、本当のことを言えば……。
私、みなさんのお仲間に入りたいんです。
そしてこんな歳になった自分でも、円周率をまだまだ覚えられるってことを証明したいんです。
そしたら445もちょっとは見直してくれるかと。
世界一を目指すなら若いに越したこたにゃいが、脳トレ目的なら、いくつになってからでも始められるにゃ。
私だってベンジャミン伊東こと伊東四朗さんが80代にして円周率1000桁をキープしているという記事を見て、一念発起して始めたからねえ。
それでもう10000桁さ、ハッハッハ。
ずうずうしいまでに盛っとるがな。
しかし、始めるのに遅すぎることはない。
地獄の沙汰も酒次第じゃ。
いつも何か手土産を持ってくるなら、弟子にしてやっても良いぞ。
あ、ありがとうございます!!!
ちょっと、今からコンビニ行って来ます!
ちなみに、この夜の宴会ほど盛り上がらんもんはなかったぞ。
やはりあやつにはものすごいもんが憑いとるのう。
あの暗さに勝てるのはやはり、0288くらいかのう。