第3話 <秘密のブログ>

文字数 843文字

「ただいまー」

「おかえり」

ママはキッチンに立って微笑んだ。

「学校は? 慣れた?」

「うん、まだあんまり馴染めてないけど。
高校の時と違って不思議な感じの子が多くて……今日も……」

そう言いかけた時にママは
「あ!」と思い出したように声をあげた。

「今日は美穂の月命日だから、
とろろご飯にしようと思ってたのに、
たまご買うの忘れちゃったわ!
後でまたスーパーに行かなきゃ!」

「あ、そうだよー!
お姉ちゃんの月命日はお姉ちゃんの好きだったものにしないと!」

「あの子、とろろだとご飯3杯も食べるのよね」

そう言ってふふと笑った。

「果穂もとろろ好きよね?」

「うん、好き」

そう言って笑ったが、本当はとろろもあまり好きではない。

夕食を終え、お風呂に入り、
自分の部屋に入ってスマホのブログサイトを開いた。

ハンドルネームは「ピンキーリング」。
秘密の私のブログ。

私のお姉ちゃんは10年前に交通事故で天国に旅立った。

それからママはいつもお姉ちゃんの姿を、宙に探している。

私のことは目に映っているのかいないのか……。

でもそんなママを私は責めることができなかった。

「こっちを見て欲しい」

そんな事は言ってはいけない気がして、
やりきれない気持ちはブログにぶつけた。

誰に見せる訳でもないけど、
世界のどこかの誰かがこれを読んでくれて、
私の心に寄り添ってくれたなら、それでいい。

10年前のあの日、
学校の帰りに車に跳ねられて頭を強く打ったお姉ちゃんは、
病院に運ばれた時はすでに意識不明だった。

「脳の損傷が激しいです。
延命の措置はできますが、
娘さんはもう目を覚ます事はないでしょう」

お医者さんからの残酷な一言でママは崩れ落ちた。

「いやぁぁぁ!!」

泣き叫ぶママを悲痛な顔でパパは支えた。

平和だった我が家に突如として訪れた厳しい現実。

このまま延命治療を続けるか、やめるか選択を迫られ、
重苦しい日々が続いた。

お姉ちゃんは可愛くて優しくて、頭も良くて、
家族の中で太陽のような存在だった。

残ったのが私だなんて……。

パパやママに申し訳ない気持ちになった。
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