第9話 <海水浴へ!(昼)>

文字数 1,444文字

夏休みに入り、みんなで海水浴に行った。

クラスのムードメーカー、
天野くんの実家が千葉で民宿をやっているらしく、
「みんなで行こうぜー!」と誰かが言い出して、
奥多摩プロジェクトのBチームメンバーと、
シュッとしたいたずらっ子といった感じの宮本くん、
あのクラスにしては珍しく女子アナっぽい雰囲気の真鍋さん、
それにサバサバした姉御肌の桜木さんも加わり
南房総の海岸までやって来た。

真鍋さんが羽織っていた薄手のパーカーを脱いで
ビキニ姿を披露すると、男子たちの目の色が変わった。

「やらしい、サイテー!」

私と天野くんと一緒に、
砂の城づくりをしていたルミは鼻の上にしわを寄せて言った。

「あれは男は見ちゃうよ!」

と、天野くんは自分を正当化した。

私はと言うと、地味な子供っぽい水着で、
誰も何も興味なさそうだった。

真鍋さん、同い年なのに何だこのプロポーションの差は……。

そこにゴムボートを借りてきた、
宮本くんとなっしーがやって来て、

「乙姫さま! 竜宮城へ参りましょう!!」

と、ルミをボートに誘い、

「へ? 私?」

と、ルミは促されるまま
二人と一緒にゴムボートで沖に出て行った。

私と天野くんは、引き続き砂の城を作りながら
ルミ達の様子を見守っていると、
宮本くんがふざけてボートをひっくり返し、
ルミが頭から海に落ちるのが見えた。

私と天野くんは「あーーあーー」と二人で声を合わせた。

「磯山さんが声をかけられてたらヤバかったね」

天野くんが笑った。

「ほんとだー、セーフ!」

私は手で「セーフ」のポーズをした。

「でもボート面白そうだな。
磯山さん、後で一緒に乗らない? 
あ! 俺はひっくり返したりしないよ!」

天野くんの思いがけない誘いに

「え?」

と、ぽかんとしていると、

「おーい! クラゲ!」

と、パラソルからぶちおの声がした。

「クラゲーー! かき氷買って来て!」

と叫んでいる。

「えーー!?」

と私は立ち上がってパラソルまで近づき

「自分で行きなよ」

と言うと、Tシャツを着たままのぶちおは

「俺は太陽に当たると灰になる」

と言った。

じゃあなんで海になんて来たんだよ!?

ぶちおの隣ではユイカが真鍋さんの背中に
日焼け止めを塗っている。

「海入らないの?」

私が声をかけるとユイカは

「私は見てるだけで……」

と言った。

こっちも何で海に来たんだか……。

そして

「はい」と、財布を差し出すぶちお。

「もうーーーー!!」

私は財布を奪うように受け取り、海の家に向かった。

海の家を覗くと、
リーダーがひとりテーブルに座りビールを飲んでいた。

「こんな所で……」

私が声をかけると、

「お、クラゲか。 みんな未成年だからさ、
あんまり目の前でビール飲むのもねーと思って」

そう言いながら美味しそうにビールを一口飲んだ。

これまでリーダーと面と向かって話した事はなかったが、
かき氷ができるのを待ちながら

「そう言えば、仕事してたんですよね? 
前はどんな仕事してたんですか?」

と聞いてみた。

「普通の仕事だよ。 文房具の会社の営業。
無難な道を選んだんだけど、やっぱり映像業界が諦めきれなくて」

そう言って笑った。

「みんな夢とか好きな事があって、
どうやってそういうの見つけたらいいのかなって思う」

思わずそうこぼすと

「まだ18とか19でしょ? これからだよ!
いろんな経験して、いろんな人を見て、
そうしてるうちに見つかるって」

「そんなもんですかねぇ」

そう答えたが、大人の言う事はなんだか説得力があった。

「はい! かき氷お待たせ!」

お店の人が威勢良く言い、

「それじゃ」

と私は氷が溶けないうちにパラソルに戻った。

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