第31話 <理想の場所でなくても>

文字数 1,850文字

実家に戻り、全てを話した私は
さすがに普段優しい両親にも叱られた。

こんな娘で申し訳ない。

お姉ちゃんの遺影が胸に痛かった。

あの後、私は警察に話をし、
横井改め田淵は余罪として再逮捕となるだろうとの事だったが、
お金は返って来ないだろう言われた。

弁護士や探偵に相談する方法もあるようだが、
私の被害総額は数十万程度だったこともあり、
弁護士や探偵に相談しても手間がかかるだけで
メリットはなさそうだったので、諦めることにした。

私は詐欺に遭い、お金を取られたが、
結局私もあの人に寄りかかる事で、
自分の人生を成り立たせようとしていた。

自分がそういう人間だったから、
ああいう人間を引き寄せたのだろう。

今回の事は人生の高い勉強代となった。

だが、いつまでもうだうだしていられないので、
早速仕事探しを始めた。

編集はもうしんどいので、給料は下がるけど、
もう少し楽にできる仕事にしよう。

早速、面接をしてくれるという会社から連絡があり、
気合いを入れて出かけたが、事務員募集の面接で、
エクセルもワードも使いこなせない私はその場で不採用となった。

「パソコンは編集でしか触った事ないしな……」

はぁーー。

ため息をついてコーヒーショップで
サンドイッチをかじっていると、

「磯山さん!」

と、声をかけられた。

「え?」

ぱっと顔を上げると、そこには懐かしい顔、
天野くんがいた。

「久しぶり!」

人懐っこい笑顔は変わらない。

「え! 何してるの!?」

思わずサンドイッチを喉に詰まらせそうになりながら聞いた。

「実はさ……」

天野くんはバツが悪そうにこれまでのいきさつを話し始めた。

「あの後、うちの民宿を継いだんだけどさ、
俺の経営が下手くそで上手くいかなくて、今人に貸してるんだ。
南房総のあたりって、最近移住してくる人や
起業する人が結構集まって来てて、
まぁ完全に宿を潰さなくて済んだのは良かったけど」

私が「とりあえず座って!」と促すと、
天野くんはテーブルを挟んで私の前に座った。

「で、今は何してるの?」

「うん、伯父が御徒町で宝石の加工所やっててさ、
俺は東京に越して来てそこで働いてる」

「そっか……」

天野くんも、いろいろあったんだね。

「加工所ではジュエリーのデザインも少しやらせてもらってるんだ。
この間は星座シリーズを出してさ。
やっぱり星とか天体が好きで、今度はジュピターとかマーズとか
惑星シリーズも作ろうと思ってる」

と笑った。

「SF映画は作れなかったけどさ、
形は違うけどこうやって星に関連した物を
作る仕事ができてるから幸せだよ」

穏やかな顔で天野くんは言った。

「天野くんが幸せと思えるなら、何をやってても正解だよ」

私も微笑んで言った。

「今立っている場所は、
あの時思い描いていた場所とは違うけどさ、
別の場所でもやれる事はあるんだなって」

「そっか… 実は私も編集の仕事辞めちゃって、
今次を探してるんだよね」

「そうなんだ。 
まぁでもさ、きっとどんな場所にたどり着いても、
自分次第でそれを正解にもできるんだよね。
だから磯山さんも大丈夫だよ」

「だといいけど…」

私は眉を下げて笑った。

「そう言えば、まだその指輪してるんだね」

私の手元を見て天野くんは言った。

「え?」

「その小指の。
学校の時からつけてたよね」

「うん、お守りみたいなもので」

私は指輪をさすった。

「その指輪、従兄弟がつけてたやつにそっくりなんだ」

「従兄弟?」

「同い年の従兄弟がいてさ、子供の頃ずっと入院してたんだ。
伯母がお守りの意味を込めて指輪を作ったんだけど、
その願いも虚しく従兄弟は天に召されてしまって……」

「そ、それ、どこの病院!?」

思わず前のめりになって私は尋ねた。

「病院まで覚えてないなぁ。 
東京だったってのはわかるけど。 でも何で?」

「いや、別に」

私は落ち着きを取り戻すかのようにコーヒーを一口飲んだ。

それって、まさか……。

でもそんな訳ないよね。

東京の病院なんてそれこそ星の数ほどあるし、
それにあの時、あの男の子は病院の庭で拾ったって言ってたし。

すると天野くんの携帯が鳴り
「ちょっとごめん」と電話に出て、

「はい、わかったパンとたまごね」

そう言って電話を切った。

「誰?」

と聞くと

「ん? 嫁」

と言った。

「え!? 天野くん結婚してるの!?」

「あ、あぁ、 中学の同級生と。
恥ずかしい話、できちゃって……」

そう言って天野くんは恥ずかしそうに頭を掻いた。

はぁーー。

別に何かを期待していた訳ではないが、
天野くん既婚者かーー。

何だか力が抜けた。

そして一人なのは私だけかーー。

天野くんとはその場で別れ、私はとぼとぼと家路についた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み