第9話 それぞれの決意

文字数 1,819文字

悠が智慧の家へと行っているころ、翔は学校のトレーニングルームで自主練にいそしんでいた。翔は内心とても不安だった。最初の合同訓練の時の魔物と戦っている悠の姿にかなわないと思ってしまっていた。そこに、氷室師団長が翔に声をかけた。

 氷室:
 「よう翔、どうした浮かない顔をして。」

翔は氷室師団長にこのことを相談することにした。

 氷室:
 「成程な。ほぼ横並びだったやつに追い抜かされて焦っていると。」

 翔:
 「はい、あの時の悠を見たとき適わないって思ってしまったんです。判断の速さも的確な指示もそして状況に応じた戦法も。しかも、後で気づいたんですけど悠はあの状況でも周りの物を傷つけないようにしたり自分のほうに来るように戦っていたんです。」

それを聞いた氷室師団長は一言

 氷室:
 「それが何の理由になるんだ?」」

 翔:
 「え?」

 氷室:
 「悠がその場に応じた戦い方をして的確な指示までしたことにお前が諦める理由になるのか?お前が誰と競おうが勝手だが諦めるのに他人を使うな。諦めるのはいつも自分だ。他人がどうであれ理由にはならねえよ。他人を気にして成長できないなんて面白くないだろ。」

その言葉に翔は心の雲が晴れたような気がした。 

 翔:
 「ありがとうございます。もっと精進します。」

 氷室:
 「よし20分だ。」

 翔:
 「え?」

 氷室:
 「20分だけ稽古つけてやる。来い。」

 翔:
 「はい!」

この20分は彼にとってとても濃い20分となり、これからの訓練に一層力が入った。

一方、草薙家

 千代:
 「今から2か月後に年1の師団集合会議がここ東部で開催されるわ。悠には証言者として会議に出席してほしいの。」

師団集合会議は1年に1回開催される全師団長副師団長が集まり魔物も報告や新人の育成などこれからについて話し合う会議である。

 悠:
 「わかりました。流石に家に呼び出されて断れませんよ。」

 千代:
 「よかった、悠ならそう言ってくれると思ったわ。あっそれと、」

千代は思い出したかのように横においてあったカバンから封筒を取り出し悠に渡した。

 悠:
 「これは?」

 千代:
 「上からよ。そろそろ潮時じゃないかって。私自身は悠の意見を尊重するつもりだけど上はあまり待ってくれいかもね。」

 悠:
 「そうですか。わかりました、会議までには決めておきます。俺もそろそろ覚悟を決めないといけませんからね。あいつのせいである限り。」

そう言って、悠は草薙家を後にした。

 智慧:
 「お姉ちゃんいいの?悠兄このままじゃ本当に・・」

 千代:
 「それはあの子が決めることよ。本当はもっと自由に生きてほしかったけど。こればっかりわね。」

悠が草薙家から帰宅している途中、コンビニから出てきた翔とばったり会った。

 翔:
 「あれ?悠、帰ったんじゃ。」

 悠:
 「今の家と智慧ちゃんの家は離れてるからな今帰ってる。翔は?こんな時間まで何してたの自主練?」

 翔:
 「あぁ、氷室師団長に稽古つけてもらってたんだ。やっぱ強かったよ。」

翔は少し自慢げに答えた。

 悠:
 「へー、よかったじゃん。ためになった?」

 翔:
 「もちろん。改めて自分の長所と短所がわかったからまずは長所を伸ばせるように訓練していくつもり、悠にも負けてられないからな。」

その時の悠は今までにないくらい優しく微笑んでいた。

 悠:
 「よかった、元気になったんだな。」

 翔:
 「え?」

 悠:
 「翔、訓練中特に俺との訓練の時なんか迷いがあったから心配だったんだ。でも、その迷いももうないっぽいな。」

 翔:
 「え?俺そんなに顔に出てた?」

 悠:
 「だいぶ出てたよ。隠せてなかった。」

 翔:
 「まじか。」

翔は少し顔を赤くして膝を抱えた。

 悠:
 「まあ元気になったんならよかったよ。あっそうだ。智慧ちゃんのお姉さんからこれもらったよ。翔にあげる。」

悠が渡したのは師団集合会議の関係者閲覧チケットだ。会議では師団員、国の重鎮以外にも特別に開催地の育成学校の生徒数名に閲覧できるようになっている。

 翔:
 「え?なんで悠がこのチケット持ってるんだよ。大体こういうのは上級生が選ばれるんじゃ。」

 悠:
 「俺証言者として呼ばれてんだよ。それでもらった。後3枚くらいあるはずだから誘いたいやつ誘えよ。じゃあな。」

悠は家へと帰っていった。先程の悠の顔を見た翔は違和感を覚えた。

 翔:
 「悠のやつなんか寂しそう。明日聞いてみるか。」

しかし、翌日から悠は学校に来なくなった。
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