第6話

文字数 1,551文字

「青い俺は美しい!グリーンな俺はビューティフル!どうも!JACKALLのボーカル、TATSUYAでーす!!
 翌日のライブは達也のこの第一声で始まった。ネタがわからない諸兄のために解説しておくと我らが敬愛するB’zの稲葉さんの迷言もとい名言の一つである。おいおい、こんなファンしかわからないネタをぶっ込んでも…
「キャー、達也くんカッコイイ!!
 ウケたよ…イケメンは何を言っても女にウケるみたいだ。そういや容姿について言及していなかったけど達也のやつ、男の僕から見てもかなりのイケメンなんだよ。智樹は良くも悪くも普通ぐらいじゃないか?僕の顔は…想像に任せるよ。ちなみにJACKALLって言うのは僕らのバンド名だ。名前はバンド結成時にその場のノリで決めた。アメリカに『Jackyl』、デンマークに『Jackal』というバンドがあるが(どちらも実在するバンド)、スペルは微妙に違うしこっちは学生のアマチュアバンドだしたぶん大丈夫だろう。

 とまあこんな感じで結果から言えばライブは大盛り上がりだったよ。達也もいつもよりも声が良く出てたし、僕のギターと智樹のドラムも冴えわたっていた。もちろん達也のベースもな。来てくれた友人やクラスの女子たちの黄色い声援も嬉しかったな。もっとも女子たちの声援の対象はほとんどが達也だったけどさ。ああ、あと言ってた通り両親と秋乃も来てくれたよ。特に秋乃は友達も連れてきてくれた。秋乃とその友達からの俺への声援はまだ嬉しかったけど流石に母さんが僕に声援を送ってきたときは気恥ずかしかったよ。いや、嬉しいけどさ…

 会場に弥生さんの姿はなかった。

 ライブ終わりの打ち上げでいつものラーメン屋を訪れた。
「いやあ、智樹、今日のお前のドラム冴えわたっていたな。バンド辞めるなんて言うなよ勿体ねえ。」
「そ、そうかなあ。んーでも、やっぱ親は医者になってほしいみたいでさ…」
 などと達也と智樹が盛り上がっていた。すると達也が俺に質問してきた。
「そう言えば結局千春はバンド続けるのか?それとも大学に入るのか?」
 バンドを続けるというのは、達也と上京してプロデビューを果たす、という意味である。
「そうだなあ…俺もやっぱり大学に…」
 大学に行くつもり、そう言いかけたとき先週例の黒電話でミツキ(弥生さん)に自分が言った言葉を思いだした。「自分の気持ちに従うべきだと思う」僕自身はどうなんだ?僕がしたいことは本当に大学を出て良い企業に就職することなのか?いや違う!!
「ごめん、さっきのはナシだ。俺さ、今日のライブ凄げえ楽しかった。何がどう楽しいかったかって具体的には言えないけど、とにかくすげえ楽しかったんだ!俺やっぱまだギターやりたいと思った!俺も死ぬまで音楽を続けたいよ。」
「お、おう、そうか…」
「お前ってたまに熱苦しくなるよな…」
 僕の熱意に押されたのか、智樹はともかく達也でさえも若干引き気味だったので急に恥ずかしくなった。何言ってんだ僕は…
「いやあ、青春してんなあ、お前ら。」
 店の厨房から親父さんがラーメンを持ってきた。
「おらよ、チャーシューは多めにしといてやった。」
「あざーす!!
 豚骨ベースのスープの強烈な匂いとチャーシューの脂身が食欲をそそる。決めた、僕はギターで食っていく。

 家に帰るや否や両親を説得した。大学に行く気はないと、ギターで食べて行きたいと。両親は最初こそ反対したが、そのうち諦めたのか、それとも単に呆れたのか、好きにしろと言ってくれた。取り敢えずは説得成功、かな?ちなみに智樹の方はやっぱり駄目だったらしい。そうそう、文化祭でも結局ライブをやることになったよ。この時は智樹も今度こそ本当に最後だと協力してくれた。ここに我らが軽音部は2年と数ヶ月の歴史に幕を閉じたのだ。
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