第2話

文字数 2,258文字

 帰りに達也のおじいさんが切り盛りする骨董屋を訪れた。智樹は塾があるとかで分かれた。ここには中古の楽器も良心的な値段で置いているため金のない僕らでも比較的手が出せた。と言うか僕らの使っている楽器は全部この骨董屋で買った。骨董屋というよりは中古屋と言った方が正しいかな。
「じいちゃん、また来てやったぜ。」
「おじゃまします。」
 店の暖簾をくぐるといきなりネイティブアメリカンが作ったトーテムポールのようなものが出迎えた。毎度のことだがいまだに慣れない。
「なんじゃ、またお前らか。どうせ楽器をタダで寄こせとかせがみに来たんじゃろう?そう何度もやらんぞ。」
 店の奥から達也のおじいさんが出てきた。
「じいちゃん俺ベース欲しいんだけどさあ、売り物にならないのでもいいからちょうだい。」
「またか達也…そんなもんないと言っとるじゃろ。」
「じゃああのベース半額にまけてくれない?今月お小遣いピンチなんだ。」
「そんなのお前が無駄遣いばかりするからじゃろ。」
 ごもっともな指摘だ。それでも達也は食い下がる。
「頼むよじいちゃん、将来スターになるかわいい孫のためだと思って。」
「まったくしょうがないのう、今回だけじゃぞ。」
「よっしゃ!じいちゃん長生きしてくれよ!!
「言われんでもそう簡単にくたばらんわい!!
 とまあこんな感じで毎回達也が勝つ。お察しとは思うが「今回だけ」は毎度の事だ。やはり祖父母というのは孫に弱い。ちなみに孫から金を取るのかと思う諸兄もいるかもしれないが、達也のおじいさんいわく「店に来た以上は客」とのことだ。

 達也のベースの値段交渉が済んだところで僕らはそれぞれ店の中を散策し始めた。まあこの店では楽器以外の物は買ったことはないけど。骨董屋を名乗るだけのことはあり、店の中には百貨店なんかではお目にかかれそうもない変わった物が多かった。アフリカかアマゾン辺りの狩猟民族が使ってそうな道具(のような物)、明治の大物小説家が愛用していたと言われる茶碗、中世ヨーロッパの貴族を描いたものと思われる肖像画など。
「これって全部本物なんですか?」
 僕がそう尋ねるとおじいさんは自慢気に話し始めた。
「ああ本物だとも。例えばこの茶器なんかな、なんとあの竹中半兵衛が戦(いくさ)に捧げたその短い生涯の中で皮肉にも病床で得た束の間の休息に愛用したという代物なんじゃ。」
 竹中半兵衛は僕でも聞いたことがある。もし本物だとしたらおそらく学術的にも相当な価値のある代物だろう。そんなものがこんな(はっきり言って胡散臭い)店に本当にあるようには思えないが。
「また始まったよじいちゃんのホラ話。そんな話誰が信じるかよ。第一その竹中なんとかって誰だよ?千春、ウチのじいちゃんの言うことは真に受けるなよ?」
 心配しなくても真には受けてない。
「なんじゃお前半兵衛を知らんのか!?まったく、達也はもう少し勉強ができたら良かったんじゃがのう…」
 そこは本当にその通りだと思います。
「安心しなって、俺は確かに勉強はできないけど音楽で食っていけるから。」
 こりゃ家族は安心できないわな…
「それに俺だって音楽とかミュージシャンとかのことだったらそこそこ詳しいぜ。例えばB’zみたく売れるミュージシャンにはある法則があって…」
「なんじゃいそのビーズとかいうのは。最近の若いもんの流行りはようわからんのう…」
 対抗するとこそこで良いのかよ達也…あとおじいさん、B'z好きの僕らが言うのもなんだけどB'zは言うほど最近の若いもんの流行りでもない。

 そんなこんなで散策を続けると、僕は一つの黒電話に目を奪われた。番号に0から9までのアラビア数字以外にAからFまでのアルファベットまである。おそらくこの黒電話の番号には16進数が用いているのだろう。だが真に惹かれたのは番号の多さではなく、その売り文句だ。

【過去や未来と通話が可能な電話 50000円】

「おじいさん、これ本当に過去や未来と話ができるんですか?」
「さあのお、流石にこればかりはワシも信じとらんが、何でも先の大戦中に海軍が帝国大学の科学者たちと秘密裏に作ったらしいぞ。ただ通話のやりとりは同種の電話でなきゃいかんし、そもそも数が世界に、というか日本国内に片手で数えるほどしかないしのお…」
 話が本当だとしてかつての海軍のお偉いさんたちはなぜこんな電話を作ったのか?ミッドウェー海戦のように失敗した作戦を実行前の自分たちに伝えるためだろうか?それとも勝ち目なんてないから戦争なんかしかけるなと真珠湾攻撃前の自分たちに伝えるためだろうか?
「仮に本当だとしたら5万円なんかで売って良いんですか?」
「心配するな、どうせ偽物じゃ。ワシも2,3回使ってみたがかすりすらせんかったわ。なんならお前さんにタダでやろうか?」
「え、タダでよろしいのですか?」
「ああ、ワシもどこかの物好きが買ってくれんかと期待してたがの、流石に学生、それも孫の友人に詐欺まがいの商品を押し付けといて金は取れんわい。第一5万円なんて大金お前さんらの歳じゃ持ってないじゃろ。」
 おじいさんは笑いながらそう言った。
「は、はあ…」
 敢えて買おうとする人もそうそういないとは思うが、相手が社会人だったらその詐欺まがいの商品でしっかり金(それもまあまあな額)を取るつもりだったのか…
「いいなあ、千春はタダで。俺にもタダでベースくれよー。」
「お前は駄目じゃ。」
 申し出を断ることもできず、僕は胡散臭い黒電話をタダで貰い受けることになった。さて、どうするかなこの電話…
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