第4話

文字数 1,005文字

 それからもミツキとは度々連絡を取った。ちなみにミツキは高3で僕と同い年だ。といってもミツキの時間軸は3年前だから正確には僕より3つ上だが。ある日、ミツキは歌手を目指していることを告白してきた。
『私さ、実は歌手として食べていきたいと思っているんだよね。』
「ふーん、目指せば良いじゃん。そんなに音楽が好きなら。」
『ただ、家業を継ぐかどうかで迷っていて…両親としては私に店を継いでほしいらしくて、それに、私自身両親の切り盛りしてる店が好きだし…』
 彼女にも彼女の複雑な家庭の事情があるらしい。やっぱりこういうのの一番の難題は親を説得することだよな...
「他人の俺がとやかく言えることじゃないけど、そこは自分の気持ちに従うべきだと思うよ。君の人生なんだし、いくら親だからってそこまで義理立てする必要もないんじゃない?」
 我ながら無責任すぎる返答な気もするが、やりもしないで諦めるのが一番良くないと思ったので背中を押すことにした。
『う、うん…それでさ、試しに今から一曲、サビの部分だけだけど歌ってみるから、それでチハくんの評価が良ければもう一度親を説得しようと思う。』
「俺の評価が参考になるなら是非聴かせてよ。で、何を歌うの?」
 それにミツキの歌唱力がどんなものか(果たしてウチの達也を上回るのか)興味がある。
『じゃあ、B'zの”今夜月の見える丘に”とかでどうかな?』
 そういうとミツキは一呼吸置いてから歌い始めた。

―手をつないだら 行ってみよう 燃えるような月の輝く丘に―

 聴いてすぐに思った。上手い!!

―迎えにゆくから そこにいてよ かけらでもいい―

 声量こそ流石に男の達也に軍配が上がるが、抑揚の付け方とか、音域の広さとか、純粋な歌の上手さなら達也と互角、いや、それ以上だ!!

―君の気持ち知るまで 今夜僕は寝ないよ―

『…どうかな?…』
「こんなに歌が上手い人プロ以外では始めてかも!友人に歌が上手いやつがいて、そいつはB'zが得意なんだけど、そいつよりも全然上手いと思うよ!!
 お世辞なんかちっとも言っていない。そんなに上手いなら是非とも歌手を目指すべきだ!
『じゃ、じゃあ、もう一度親を説得してみるね!』
「うん、絶対にそうするべきだと思う!!
 僕の評価を聴いてミツキは自信を着けたらしい。頑張れよ、ミツキ!なんてこの時は気楽に構えていたが後にこのことが(僕にとって)悲劇を呼ぶことになるとは夢にも思わなかった。
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