第4話    おかえりなさい。

文字数 1,585文字

みちるは、その後も店頭に立つ度に「ミルクの女性」のことが気になっていました。
そして、肌寒い雨の日。やはりランチタイムが終わろうと言う時間に、彼女は
やってきました。

「ダブルバーガーのセットをふたつ、飲み物はコーラで。ひとつはテイクアウトにしてください。」
彼女は、いつもと少し違う雰囲気でオーダーをしました。
(ミルクのこと、聞いてみようかな)
みちるは、彼女からのオーダーを復唱しながら、レジの画面に入力をして
「しばらくお待ちください。」と言うと、「あの牛乳をお持ちでしたら、温めますか?」と
声をかけました。
「えっ?」
突然のスタッフの申し出に、ミルクの女性は驚いた様子でした。
「みちるちゃん、なに言ってるの。すみません、変なこと聞いちゃって。」
横から言葉を遮ったのは、店長でした。

* * * * * *
「みちるちゃん、勝手なことしたら困るんだよ。僕だって、あの人のことは知ってるよ。
というか、うちのスタッフで知らない子はいないよ。変な人じゃないけど、この秋から
よく来るようになって、飲み物を聞くと、たまにミルクって言うって。」
店長は、静かだけれど困った様子で、みちるをお客様から見えないところに呼んで
注意をしました。
「すみません、でもどうしても気になっちゃって。」
「もういいから、休憩取って。」
そう言うと、店長はキッチンに戻っていきました。

みちるがハンバーガーショップを出て、バックヤードに向かうと、
ミルクの女性は、いつものようにフードコートの隅で窓に向かい、ひとつのセットに手をつけようとせずに
じっとしていました。
みちるはそっと彼女に近づき、もう一度言いました。
「あの、ミルク温めますか?」
「あ、さっきの。ありがとう。でも大丈夫よ。ミルクを飲むのは私ではないの。
いつもここにつれてきてくれたお祖父ちゃんが、ハンバーガーとミルクが大好きでね。
つい思い出すと、口から出ちゃうの。みんな私のこと、変な女って言ってるでしょ。」
みちるは、そのとき、ある光景が目の前に浮かびました。
そして「ちょっと待っててください。すぐに戻りますから。」
そういうと、バックヤードに向かって走っていった。
* * * * *
みちるはバックヤードから、となりのスーパーマーケットの食品売り場まで
バックヤードを走る。
すれちがう店員は、ハンバーガーショップの店員が、なにか急に
足りないものを買いにきたのだろうくらいにしか、おもっていないだろう。
向かったのは、牛乳売り場。
500mlのブランド牛乳を手に取ると、セルフレジまで走り、スマホで支払いを済ませると、
またバックヤードに向かい、自分のロッカーに走った。
みちるが自分のマグカップを手に取ると、そのまま休憩室に向かい
牛乳パックを開けた。
マグカップにミルク注ぎ、電子レンジに入れる。
「牛乳・酒」と書かれたボタンを押して、ふぅ、と息をついた。
* * * * *
間に合った。
フードコートに戻ったみちるの右手には、マグカップに注がれた温められたミルクがあった。
「お待たせしました。ミルク、温めてきました。」
そう言うと、みちるは女性の座っている右手のテーブルにマグカップを置いた。
* * * * *
そろそろ、私の解説が必要かしらね。
それにしてもね、みちるって子は、なかなか見所がある子ね。
きっと何かが見えたんじゃないかしら。
私たち?そりゃ神様ですから、全部お見通しよ。
(続く)
















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