第3話       みんなの思い出。

文字数 1,629文字

みちるは、この町で育ちました。ファッション誌は「まち」を街と書きますが
ここは残念ながら「町」の方です。

「星野さん。星野さんって、ここで働いて何年になるんですか?」
ランチタイムあとの休憩室で、みちるはコーヒーを買いにきていた星野さんに
話しかけてみました。
「うーん、もう13年くらいかな。今年、俺35になるから。」
「そうですか?昔のこととか、あ、ここのフードコートの昔のこととか、知ってます?」
「13年前までなら覚えてるよ。もっともその前のことも知ってるけどね。学生時代は
ここのフードコートが俺の学習室だったからさ。」
星野もまた、この町で生まれ、育ち、こうして社会人になったのです。

星野さんなら、きっと何か知っているかもしれない。みちるは、あの「ミルクの女性」のことが
気になって仕方がなくなってしまったのです。
みちるは、オーダーの時に、必ず牛乳を頼む女性がいることを星野さんに話してみました。

「今のみちるちゃんの店はね、3代目なんだよ。つまり前の店は、違うブランド。その前は地元の
レストランオーナーが、初めて2店舗目として開いたハンバーガーショップだった。」

星野さんの話をまとめると、次のようになります。(あまり短くはないか。)
このショッピングセンターがオープンした20年前。フードコートは、今の半分の大きさでした。
出店していたのは、この町のオーナーが多くて、蕎麦屋、中華料理屋、クレープ屋、そして
焼肉屋がチャレンジするということでハンバーガーショップを開きました。
今のように、東京や千葉や神奈川と同じブランドが、まさかの田舎に出店することなんて皆無で
あった時代。ハンバーガーショップの名前は「アメリカンヒーロー」と言いました。(笑)
ミルクの女性は誰なのか?はわからないけれど、アメリカンヒーローではハンバーガーにミルクを
頼むのが「通」と言われていたらしいです。なぜ星野さんが、それを知っているかというと、当時
星野さんは、ハンバーガー+ミルクに”はまっていた”からです。

* * * *

はいはい、そろそろ私の出番ですかね。神様は昔のことをよーく覚えているのですよ。
年齢?そんなこと、神様に聞くのはマナー違反ですよ。
「ミルクの女性」が気になってしかたがない、みちるという女の子は、心が優しいようね。

「アメリカンヒーロー」は人気のハンバーガーショップでしたよ。東京でも珍しかったアメリカン
スタイルで、大きな肉を1枚ずつ鉄板で焼いてましたから、美味しかった。なにせ焼肉屋が始めた
のだから、肉を焼くのは当然お上手だったのよね。ランチタイムには行列が長くなってね。
それでもみんな世間話とか、自慢話とかをしながら、怒ることなく待ってたわね。
野菜も、パン(今はバンズっていうらしいわね)も、マヨネーズも、この町で作ったものよ。
肉?もちろんよ。
その野菜、レタスをアメリカンヒーローに卸していたのが「ミルクの女性」の祖父ね。
彼女は、まだ小学生だったかな、夏休みになると東京から遊びに来ていたわね。
「レタスのおじいちゃん」はこの町の農家の人で、おしゃれな人だった。
いつもは土まみれだったけど、東京から来る孫娘には、みっともない格好は見せられないって
ジーパンにジージャン(今はデニムって言うんでしょう?それくらい知ってるわよ。)
を来て、フードコートに来ていたわ。
でも彼女が遊びに来ている頃は、アメリカンヒーローはつぶれてしまって、あの有名店が
開店したのよ。この町には「事件」に近い賑わいだったわね。

(続く)









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