第9話   このTシャツ。恥ずかしいんだよ。

文字数 1,180文字

何でも新型コロナウイルスとかで、世間は騒がしいね。
神様の世界では、時間の長さが違うからね、伝染病とか戦争とか、ついこの前の
ことだったりもするから、今起きていることは、あまり興味が無いのね。
というか、まだどうなるかわからないでしょ。
それでもフードコートは、そうね、やっぱり人が少なくなってないるみたいね。

今日はね、気になる新人がいるみたいだから、ちょっと見守ってあげようかなと
おせっかいおばちゃん神様は、思うのよね。

* * * * * *

仕方ないのはわかってんだよ。
決まりでしょ。ルールでしょ。俺の趣味とかは関係ないのも理解してるよ。
俺に似合うとか、似合わないとか、お客様には関係ないことだし。

前のバイト先が潰れちゃって、金の無い俺としてはバイトが途切れるってことは
死活問題だからさ。スマホで探して、ここのフードコートのラーメン屋に
応募したんだよ。

時給?まあまあ。
シフト?週に4回、1日5時間入れるから、収入的にはオッケー。
駅前のショッピングセンターだから、通勤も楽だし、無駄な交通費要らないし。
たださ、地元の大きなフードコートって、当たり前のように地元のダチが
来たりするわけでしょ。
その地元である俺が、このTシャツを着るのか?って問題なわけよ。

「哲也くん、バイト経験あるんだよね。」
ちょっと強面だけど、まだ20代の店長がフレンドリーに聞いてきたよ。
「はい、前はハンバーガー屋でカウンターも出てました。マニュアル覚えるのも
自信あります。」俺は自信満々で返したよ。

店長は嬉しそうに言ったね。
「そうなんだ、心強いね。まぁウチは商店みたいなもんだからさ、マニュアルなんて
カッコいいものは無いんだけど、まずオーダーと会計やってくれれば助かるよ。
ラーメン好き?」

ラーメン好きか?って。嫌いだったら応募してねぇよ。
でも豚骨は苦手。臭いんだよね。
醤油系というか、さっぱりしたラーメンが好みだね。
この店はもちろん豚骨じゃないよ。
「あ、はい。普通に色々な店にいきますよ。豚骨はさほど好みじゃ無いんですけど。」

「あはは。ウチは魚介スープだからね。麺の固さとかも選べないから。フードコートだからね。
元気があればいいから、大きな声で家族連れからカップルまで呼び込んでくれよ。」
店長は高校生の俺に向かって、最大限の優しさをもって励ましてくれた。
元気で笑顔で、客を呼び込めば、オーダーと会計をすれば十分だ、と。

俺にとっては、それが一番の問題だったんだ。応募するときには気がつかなかった、というより
忘れていた。ここが、この町で唯一の大型ショッピングセンターで、夕方や休日ともなれば
地元の、あの頃の中学時代の同級生がたくさん集まってくることを。

(続く)

























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