第7話

文字数 979文字

 ときおり通信が戻るGPSを頼りに、方向を修正しながら、小さな森を抜け3日半歩いた。その間、“やつら”にも味方にも遭遇しなかった。
 少し冷たい風の抜けて行く音だけがする。戦いなど夢だったのかと思えるほど、静寂で穏やかだ。

「ねえ、一回お兄ちゃんが借りてきたDVD、AVが混じってた」
 目を開ける。このところ『会う』のは1日に一度、夜明け頃に13分話すキエラだけだった。
「わけないだろ、頼まれたとおりのタイトルの借りたし」
「わざとでしょ」
「まさか」
 ちょっとにやりとする。
「タイトル同じで、見てビックリ、超ウケルとでも思った?」
「怒って欲しかったんだよ、おれを」
 扉を思いっきり開けて、怒鳴ってほしかった。感情を見たかったんだ。あのとき、AVは扉の前に、前の晩おれが置いたときと同じように積まれていただけだった。
「えぇー、なんてドM」
 キエラは楽しそうに笑った。おれも笑った。

 基地に辿り着いたのは、それから数時間後のことだ。
 小高い丘の上から音が聞こえてきたかと思うと、一台の車がおれに向ってきた。
 丘の向うに、厳重に警備される基地が見えて来た。簡易設置式の建物が並び、たくさんの車両も行き交っている。アスファルトで固められたヘリポートまできちんと整備されている。ヘリなんかそこらあたりどこでも離着陸できるだろうに、そういうことに金をかけるなら、もっと兵士を守るために使えといつも思う。
 車で迎えに来た2人の兵士に連れられて、建物のひとつに入った。そこには見覚えのある顔があった。

「ミクニ!」
 ミクニは疲れた目元を見開いた。「生きてたのか」
「ああ、なんとかな。おまえも無事でよかった」
「ムカイ、撃たれたんじゃなかったのか?」
 彼は不安げにおれをじろじろと見た。
「え?いや、ほらこのとおり」と、おれは笑いかけた。
「覚えてないのか?」
 ミクニの険しい顔に、笑顔が固まる。なんだって?
「人間もどきがここ何日かで3匹現れたそうだ。だがすぐに人間の姿を保てずに“やつら”の姿に戻った」
 あのシバノを思い出す。頭部の皮膚が歪み、裂け、すべての感情が出たような叫び声とともに顔じゃない場所にも顔が出現し、関節があらぬ方向へ折れ曲がっていき現れた“やつら”の姿。
「ああ、見たよ」
「覚えてないのか?」またミクニが言う。「ムカイ、おまえが生きてるはずがないんだ」
 なんだって?
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