第3話

文字数 1,064文字

 再び静寂が訪れた。急に仲間が寝返りをしてどきりとするが、またすぐ静かになった。
 眠っている仲間たちを見渡す。あれはいったい何だったんだろう。あれは、この仲間の中にはもういないのだろうか。
 眠れない。やはりあれからずっと、リピートされ続ける恐怖に囚われたままだ。

 そのとき、かさっと音がした。
 突然の閃光、爆音。壁と人が吹き飛んだ。まただ。はいずるように避けた。
 土埃が舞い上がり、人のわめき声、怒鳴り声、銃声、走る音が混然となって聞こえる。瓦礫に埋もれ、上半身だけ出して泣き叫ぶ男がすぐ近くに見えた。何かをつかもうとするかのように、手をのばしてわめいている。思わずその手をとり引っ張ろうとした。すがりつくように男の手に力がこもるが、大きな瓦礫の固まりはびくとも動かない。身体は無傷でも圧迫されていた身体が解放されると、急変して死んでしまった者を思い出す。
 土埃の向うに奇怪なシルエットが見えた。奇妙な動き、いびつな頭の形、“やつら”だ。
 
 これまでもそうだった。 “やつら”はおれたちの居場所を最初っから知っているかのように、確実に襲撃してくる。
 だが、予想外の攻撃はしてこなかった。攻撃したら同じように攻撃し返す。それはある種の規則のようだった。そこには憎悪や感情のようなものは感じとれず、ただのコントロールされた道具のようにしか思えなかった。もしこれが生物というのなら、植物が根や枝を伸ばし、いつしか廃屋を覆ってしまっているような感じに近い。

 最初は誰もが大騒ぎで、マスコミも一斉に報道した。しかし、戦いは辺境で局地的であり、軍が出動し、押さえ込んでいるように見えた。国は意識的に情報を操作しているようだった。この状況をありのままに見せたら世の中の反応は今と違ったものになるだろう。“やつら”の出現から数年、世間の日常生活は普通にあり、直接遭遇することもない。ニュースでは負傷兵の映像が流れ、おいしい店とか流行りのものとかが流れる。もはやおれたちや“やつら”は、娯楽となりネタと化した。
 憎悪に満ちた、民族紛争の悲惨な戦いに明け暮れる場所からひとつ国境をまたげば、隣国では普通の幸福な生活と無関心があるのと似たようなものだ。
 
 だが、直接戦ってみると、どこに主体があるのか、どこに目的があるのかわからず、気付かぬうちにじわじわと浸蝕されていく、そういう感覚だ。それはおれにとって実に恐怖だった。

 “やつら”がせまってくる。とうとうおれは仲間の手を離して逃げた。背後で、仲間の呼び声とも叫び声ともつかない声が聞こえていた。
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