その17 オペレーション「フォーエバー・ラヴ」
文字数 2,326文字
「さて、作戦会議を始めるわけだけど……やることは簡単ね。菫屋が“スカートをはかざるを得ない状況を作り出す”こと」
各自が食事を終えたタイミングを見計らって、麗が音頭をとってくれた。
まとめ役にまわってくれると、麗の性格は本当に頼もしい。
ただ、言い出しっぺの僕自身、特に具体案があるわけではないことを告げると、麗に即答された。
「簡単よ。スラックスがなくなればいいんだわ」
「うーん、スラックスはなかなかなくさないなあ……」
奏音が本気で悩んでいる。
いや、そりゃあスラックスはなかなかなくさないだろう。
ただ、お前はパンツをはき忘れた前科があるからな?
「体育の時間にでもボクが盗めばいいんじゃないかな?」
さらっと吠場がとんでもないことを言う。
「やめなさい。洒落になってないから」
「そっかー、ボクがやってなくてもボクが疑われそうだもんねー」
吠場よ、自分で言ってて悲しくならないのか?
「そんなリスキーなことやる必要ないわ。今度の体育の時間に、あたしが菫屋のスラックスを捨てておくから」
「捨てる!?」
奏音がうろたえている。
「そうよ。物理的になくなればスカートをはくしかないでしょ? スカートは学校に置いてあるのよね?」
「うん」
「じゃあ、あんたは当日、ちゃんとパンツをはいてくること。いいわね?」
「わかったわ。気をつける!」
パンツくらい無意識にはいてくれ。
「菫屋の一組と、あたしたちの二組が合同で体育をやるのは――」
「明日のゴゴイチだね」
吠場が応えた。
ウチの学校の体育は一組と二組、三組と四組……のように、二クラス合同でおこなわれる。
麗と吠場は同じ二組だ。
「じゃあ、決行は明日ね」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
さすがにこれには奏音も慌てていた。
「なによ。ここまで来て『心の準備が……』なんて言う気?」
「いや、その……あまりにも急じゃない? ほら、準備とか、さ」
「準備もクソもないわよ。ウチらの体育の時間があればいいだけじゃない。あとはあたしがなんとかするわよ」
「大丈夫……なの?」
「体調を崩したことにして途中で抜けるから心配ないわ。今までも何度か生理で体育を休んだことがあるし、怪しまれないと思う」
麗が頼もしすぎる。
僕も明日に決行するのは、いくらなんでも急すぎると思ったけど、このくらい勢いがあった方がいいのかもしれない。
しかし、女の子の口から“生理”って単語を聞くのは始めてだなあ。
「女の子口から始めて生r――あぱぁ!」
吠場はいちいち口に出すな。
ほら、麗にどつかれた。
言わんこっちゃない……。
「菫屋は体育が終わったあと、更衣室で別の女子にも聞こえるように『スラックスがどっか行っちゃった!』って小芝居をして。別に棒読みでいいから」
「う、うんわかった!『す、すらっくすガドッカイッチャッタナー』こうかな!?」
すごい。
時代が昭和ならきっと演出家に灰皿でぶん殴られるレベルの棒読みだ。
「ま、まあそれでいいんじゃない? ただ、そのあとは菫屋のアドリブにかかってるわよ。もし“謎の美女(笑)”の正体があんただって気づかれても、うまくやり過ごしなさい」
「“謎の美女”の言い方に悪意を感じたけど……わかったわ!」
「菫屋がスカートをはいてしまえばこっちのものよ。あとは『スカートのはき心地も悪くない』とか言って“王子様”をありがたがってた連中を誤魔化しておけば大丈夫よ。スカート姿の方がスケベな男子は喜ぶでしょうし」
「大喜びだねぇ!」
吠場の反応が速すぎる。
「ね!? 栄介クンも大喜びだよねぇ!?」
なぜそこで僕の振るのか。
「そうなの!? 栄介のドスケベ!」
おい奏音。
さんざん下着姿を見せつけてくれたのはどこのどいつか。
「……ヒェッ」
やれやれ……と思っていたら、麗が般若のような顔でこっちを見ていた。
麗を見て、今の作戦で一つだけ気になったことを思い出した。
「なあ、麗」
「なあに? 今の作戦になにか文句ある?」
「あるね」
「なによ。言って」
「この作戦。麗だけがすごいリスクあるよね? 奏音が望んでいることとはいえ、周りから見たら“麗が奏音の私物を盗む”ことになるわけだろ?」
「……そうね。でも、それを承知で発案したのはあたし自身よ? なあに? あたしがヘマするとでも?」
「いや……麗はしっかりやるだろうさ……」
まあ、本人がここまで言い切るのなら成功を信じるしかない。
「ふふっ、心配してくれてるのね。ありがと」
「じゃ、じゃあ……明日はみんなよろしくね!」
奏音が手を差し出し、四人でそれぞれ握手を交わした。
「『オペレーション・フォーエバー』だね!」
奏音が急に意味不明なことを言い出した。
「『スカート大作戦』じゃないのか?」
「ダサくない?」
「たしかにダサいわね……」
でもなんで「フォーエバー」なんだ?
「最初に『スカート大作戦』って言ったのは吠場くんだから、ほえば……ほーえばー……『フォーエバー』! なんつって!」
「それいいね! 滾るね! 迸るね! ボク、下の名前が愛人 だから、『フォーエバー・ラヴ』にしよう!」
吠場の両親は本当に思い切った名前をつけたなあ。
こいつが愛人 の子でないことを祈らずにはいられない。
「“ブ”じゃなくて“ヴ”だから。ボクの体型も“デブ”じゃなくて“デヴ”だから」
「すごくいいね! オペレーション『フォーエバー・ラヴ』発動!」
ちらりと目をやると、麗もこっちを見て微笑んでいた。
机の下で蹴られることもなかった。
各自が食事を終えたタイミングを見計らって、麗が音頭をとってくれた。
まとめ役にまわってくれると、麗の性格は本当に頼もしい。
ただ、言い出しっぺの僕自身、特に具体案があるわけではないことを告げると、麗に即答された。
「簡単よ。スラックスがなくなればいいんだわ」
「うーん、スラックスはなかなかなくさないなあ……」
奏音が本気で悩んでいる。
いや、そりゃあスラックスはなかなかなくさないだろう。
ただ、お前はパンツをはき忘れた前科があるからな?
「体育の時間にでもボクが盗めばいいんじゃないかな?」
さらっと吠場がとんでもないことを言う。
「やめなさい。洒落になってないから」
「そっかー、ボクがやってなくてもボクが疑われそうだもんねー」
吠場よ、自分で言ってて悲しくならないのか?
「そんなリスキーなことやる必要ないわ。今度の体育の時間に、あたしが菫屋のスラックスを捨てておくから」
「捨てる!?」
奏音がうろたえている。
「そうよ。物理的になくなればスカートをはくしかないでしょ? スカートは学校に置いてあるのよね?」
「うん」
「じゃあ、あんたは当日、ちゃんとパンツをはいてくること。いいわね?」
「わかったわ。気をつける!」
パンツくらい無意識にはいてくれ。
「菫屋の一組と、あたしたちの二組が合同で体育をやるのは――」
「明日のゴゴイチだね」
吠場が応えた。
ウチの学校の体育は一組と二組、三組と四組……のように、二クラス合同でおこなわれる。
麗と吠場は同じ二組だ。
「じゃあ、決行は明日ね」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
さすがにこれには奏音も慌てていた。
「なによ。ここまで来て『心の準備が……』なんて言う気?」
「いや、その……あまりにも急じゃない? ほら、準備とか、さ」
「準備もクソもないわよ。ウチらの体育の時間があればいいだけじゃない。あとはあたしがなんとかするわよ」
「大丈夫……なの?」
「体調を崩したことにして途中で抜けるから心配ないわ。今までも何度か生理で体育を休んだことがあるし、怪しまれないと思う」
麗が頼もしすぎる。
僕も明日に決行するのは、いくらなんでも急すぎると思ったけど、このくらい勢いがあった方がいいのかもしれない。
しかし、女の子の口から“生理”って単語を聞くのは始めてだなあ。
「女の子口から始めて生r――あぱぁ!」
吠場はいちいち口に出すな。
ほら、麗にどつかれた。
言わんこっちゃない……。
「菫屋は体育が終わったあと、更衣室で別の女子にも聞こえるように『スラックスがどっか行っちゃった!』って小芝居をして。別に棒読みでいいから」
「う、うんわかった!『す、すらっくすガドッカイッチャッタナー』こうかな!?」
すごい。
時代が昭和ならきっと演出家に灰皿でぶん殴られるレベルの棒読みだ。
「ま、まあそれでいいんじゃない? ただ、そのあとは菫屋のアドリブにかかってるわよ。もし“謎の美女(笑)”の正体があんただって気づかれても、うまくやり過ごしなさい」
「“謎の美女”の言い方に悪意を感じたけど……わかったわ!」
「菫屋がスカートをはいてしまえばこっちのものよ。あとは『スカートのはき心地も悪くない』とか言って“王子様”をありがたがってた連中を誤魔化しておけば大丈夫よ。スカート姿の方がスケベな男子は喜ぶでしょうし」
「大喜びだねぇ!」
吠場の反応が速すぎる。
「ね!? 栄介クンも大喜びだよねぇ!?」
なぜそこで僕の振るのか。
「そうなの!? 栄介のドスケベ!」
おい奏音。
さんざん下着姿を見せつけてくれたのはどこのどいつか。
「……ヒェッ」
やれやれ……と思っていたら、麗が般若のような顔でこっちを見ていた。
麗を見て、今の作戦で一つだけ気になったことを思い出した。
「なあ、麗」
「なあに? 今の作戦になにか文句ある?」
「あるね」
「なによ。言って」
「この作戦。麗だけがすごいリスクあるよね? 奏音が望んでいることとはいえ、周りから見たら“麗が奏音の私物を盗む”ことになるわけだろ?」
「……そうね。でも、それを承知で発案したのはあたし自身よ? なあに? あたしがヘマするとでも?」
「いや……麗はしっかりやるだろうさ……」
まあ、本人がここまで言い切るのなら成功を信じるしかない。
「ふふっ、心配してくれてるのね。ありがと」
「じゃ、じゃあ……明日はみんなよろしくね!」
奏音が手を差し出し、四人でそれぞれ握手を交わした。
「『オペレーション・フォーエバー』だね!」
奏音が急に意味不明なことを言い出した。
「『スカート大作戦』じゃないのか?」
「ダサくない?」
「たしかにダサいわね……」
でもなんで「フォーエバー」なんだ?
「最初に『スカート大作戦』って言ったのは吠場くんだから、ほえば……ほーえばー……『フォーエバー』! なんつって!」
「それいいね! 滾るね! 迸るね! ボク、下の名前が
吠場の両親は本当に思い切った名前をつけたなあ。
こいつが
「“ブ”じゃなくて“ヴ”だから。ボクの体型も“デブ”じゃなくて“デヴ”だから」
「すごくいいね! オペレーション『フォーエバー・ラヴ』発動!」
ちらりと目をやると、麗もこっちを見て微笑んでいた。
机の下で蹴られることもなかった。