2022年2月14日

文字数 4,179文字

2022年2月14日
 炊飯器の音で、5時50分に目が覚める。タイマーは6時に設定しておいたが、いつの間にか早まっている。

 昨夜は何度もトイレに起きる。たっぷり水分摂取したおかげで寝汗もかいている。ビールも効いたように思える。

 美紀は相変わらず夜中にシャワーを浴びている。帯状疱疹の回復はコロナの後だろう。

 熱が下がっているのを感じる。いつものように換気をするために、部屋の窓を開ける。その際、窓枠に触れても、いつもよりすこし冷たいだけだ。熱はまだあるが、おそらく微熱だろう。

 朝食の用意をするために、浴衣からジャージに着替える。その時に布に肌が触れても、昨日ほどの違和感がない。

 ただし、頭痛がする。昨日も少しあったが、今朝はそれがひどくなっている。頭を振ると、痛みが強くなる。また、咳をすると、後頭部に響く。

 味覚や嗅覚はいつも通りだ。キムチの甘酸っぱさもコーヒーの香りもする。食欲もいつもと変わらない。聴覚も同様だ。NHK BS 1の海外ニュースの聞こえもいつもと変わらない。

 歯磨きの後、体温を計る。37度5分で、予想通り、熱は下がっている。これは一般の人の37度程度だ。

 『ドリフ大爆笑』を見ながら、30分程度ストレッチをする。腕立て伏せをしようとしたら、筋肉に強張りを感じる。昨日の熱のせいだろう。ただ、100回目くらいからほぐれる。その後、9時の電話まで、屋内ウォーキングをする。時々咳が出るが、頭に響く。ただ、一昨日のようなボーッとした頭の状態はない。

 9時になったので、クリニックに電話をするがつながらない。電波の届かないところか電源が入っていないかといったメッセージが流れる。何度かけても同じだ。他の病院に予約を取れば、このクリニックよりも移動する距離があるので、感染の疑いが濃厚な人には望ましくない。しかも、当日の検査は無理だろう。熱も下がったし、明日かけ直すことにする。あのクリニックなら、事情もわかっていることだので、即日検査してくれるに違いない。

 明らかにいつもに近い状態まで戻っている。おまけに、金属に触れても、今朝よりも冷たさを感じない。10時半にお茶を飲む前に体温を計る。予想通り、37度1分で平熱に下がっている。それにしても、昨日からお茶や白湯を何度も飲んでいたため、口の中が少し荒れている。だから、緑茶もおいしくない。

 報道されているように、新型コロナウイルス感染症は小康状態から急激に症状が悪化する特徴があるように思える。インフルエンザは発症すると、一気に高熱が出る。しかし、この感染症はそうしたわかりやすい経過を辿らない。いつ悪化するかわからない。これでは予測がつきにくいので、頻繁な健康観察が不可欠だ。幸いなことに、自身の場合、回復も今回は早いように思える。しかし、他の発症者もそうであるかどうかはわからない。

 兄と妹はともに同じ日にワクチン接種を2回済ませている。まだ感染したかどうかわからないが、兄は発熱したのに、妹はそうではない。この感染症はやはり年齢が高いほど症状が重くなるように考えられる。家庭内感染の場合、年齢の低い方から高い方へ移って行くだろう。若年層は症状が比較的軽い傾向とされる。しかも、若ければ活動量も大きく、他者と接する機会も多い。感染する可能性が多岐に渡り、それを自覚もしにくい。年齢の低い方から高い方へ感染が広がれば、重症者や死者も増える。

 また、美紀の帯状疱疹が示す通り、この感染症は身体に負担をかける。それ自身の症状とは別に、他の疾病を誘発したり、悪化させたりすることも少なくないだろう。病院と無縁の高齢者は少数なので、そうした危険性もあるに違いない。食欲が落ち、咳を頻発すれば、吐き出す力も衰えるから、おそらく誤嚥性肺炎のリスクも高まる。

 陽性者に自宅療養をさせていては、感染拡大を早期に抑えることは難しい。オミクロン株は感染力が強い。諦めつつ、保健所の指導通り、うちでもアルコール消毒等を若干試みたけれども、一般市民に予防することは困難だ。家庭内感染は避けられない。入院していれば、この家庭内感染を回避できるので、陽性者数の増加は抑えやすい。

 美紀のケースでは潜伏期間が5日あったと推測できる。潜伏期間を5日とし、発症した日に家族が感染したとしよう。自宅療養期間も10日間とする。発症から10日間自宅療養で、その半分の頃に家族がhっ称する。前の5日間は濃厚接触者として買い物に出られるが、後の5日間は家族共に外出できない。最初の感染者は、療養解除後、自由に外出できる。しかし、濃厚接触者から感染者になると、15日間の行動制限が課される。前より後の感染の方が長くなる。

 美紀は行動制限が10日ですみそうだが、こっちはおそらく2週間、もしくはそれ以上だ。濃厚接触者の方が結果として長くなる。美紀の感染を踏まえて早くに検査できていたら、もっと短かったのではないかと少々納得がいかない。

 今日はセントバレンタインデーだ。昼食後にホワイトホースを少し垂らしたウコン茶に大吟醸チョコレートを頂く。が、ウイスキーと日本酒を同時に口に入れるのはやめた方がよい。

 11時からCNNで『GPS』を見ていたら、番組の最後に、ファリード・ザカリヤが医学誌『ランセット(Thje Lancet)』の興味深い論文のことを紹介している。それは2022年2月1日に更新された“Pandemic preparedness and COVID-19: an exploratory analysis of infection and fatality rates, and contextual factors associated with preparedness in 177 countries, from Jan 1, 2020, to Sept 30, 2021”である。新型コロナウイルス感染症の感染者数や死者数の抑制の決定的な要因は政府への信頼と市民同士の信頼である。

 感染者数や死亡者数の抑制は医療資源が豊かな先進国が途上国より有利との仮説が立てられる。しかし、実際の状況はそれを支持していない。人口比で見るなら、ベトナムはアメリカよりもはるかに成果を上げている。論文の投稿者が調査をしたところ、重要なのは医療資源よりも政府への信頼と個々人同士の信頼が大きいとの分析結果を得ている。確かに、感染者数が最も多いアメリカでの反マスク・反ワクチン運動は人々の間の不信感を推察させる。

 政府への信頼が感染対策が効果を上げるには必要だと2020年の上半期の時点ですでに指摘されている。確か、その頃、ニュージーランドやドイツ、台湾などの女性政治指導者が成果を上げており、率直な情報開示を始め政府が市民から信頼されるべく努力しているとの記事をいくつか見かけている。

 しかし、個々人間の信頼を指摘する論考は初耳である。

 自動車を運転する時、他のドライバーも運転免許証を持ち、交通ルールを知っていることを前提にしている。この共有によってドライバーは相互に信頼している。もちろん、ルールを無視する輩もいて、それが往往にして事故につながる。交通は相互信頼がないと成り立たない。感染抑制も同様だろう。お互いに信頼していれば、感染を防ぐためにマスク着用やワクチン接種をすると考えるだろう。それをしないにしても、信頼感があれば、個人的な事情を理解して対応するに違いない。

 政治理論を踏まえると、政府への信頼はこうした人々動詞のそれと関連している。静養政治理論の伝統における最も古典的な問いは僭主、すなわち独裁者の防止である。トマス・アクイナスの理論を振り返ろう。僭主は、社会対立を背景に、軍功など名声を利用して権力を握って恣意的な統治をする政治指導者である。人々がまとまって自分に立ち向かってこないように、独裁者は分断を助長する。法の支配ではなく、気まぐれによって統治し、人々か社交交が失われ、権力への服従や卑屈さ、猜疑心が社会を覆う。

 政府への不信は人々の間のそれから派生する。独裁者は近代に限らず、前近代の政治でも認められないものだ。独裁者が肯定される時代はない。それを招かないようにするための制度整備や人々の共通理解が不可欠だ。2010年代、権威主義に近い非自由主義的民主主義の政治指導者が世界各地で登場している。彼らは現代の僭主である。エキセントリックな政治リーダーが非合理的な主張を繰り返した通り、この状況が世界的な感染拡大につながっていると思わずにいられない。パンデミックを防ぐには、独裁者を防止することが先決である。

 美紀は、時々せき込むことを除けば、症状がない。目立ったことと言えば、あれだけ食べているのに、体重が1.5kg減ったことくらいだ。多分、明日には解除の許可がセンターから出されるだろう。本人は、それより、帯状疱疹の方を心配している。一向にかゆみがおさまらない。

 夕食は和風カレー、ゆで卵、野菜サラダ、食後は緑茶、みかんにする。屋内ウォーキングは10510歩を達成する。都内の新規陽性者数は10334人で、この中に入る日も近い。

 昨日と同様、寝る前に、エビスのプレミアムブラックを飲む。首にタオルを巻き、靴下も履く。ベットに入ったら、YouTubeで西行の動画を聞きながら眠る。

参照文献
Thomas J Bollyky & etc, ‘Pandemic preparedness and COVID-19: an exploratory analysis of infection and fatality rates, and contextual factors associated with preparedness in 177 countries, from Jan 1, 2020, to Sept 30, 2021’, “The Lancet”, Open Access Published Feb. 01, 2022
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)00172-6/fulltext

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