2022年2月8日

文字数 6,215文字

2022年2月8日
 やはり今朝も左眼が痛い。乾燥のせいとも思えないが、原因は皆目見当がつかない。

 9時半頃、クリニックから美紀のiPhoneに電話があり、院長が陽性判定だと告げる。電話を切ると、がっかりしてため息をついている。
 
 しかし、すぐに彼女は保育園に電話をして結果を伝える。園からは、区に報告する必要があるので、毎朝、体温と体調をショートメッセージで知らせて欲しいと言われる。これは休業補償につながるので大切だ。

 感染経路は職場と明白である。メディアが保育園での感染拡大を報じ、クリニックもその事情を考慮して早急の検査としてくれている。他に思い当たる節はない。

 それにしても、報道されている通り、感染力が強い。2月1日に同じクラスの保育士が喉が痛いと訴えて早退し、翌日に陽性と判定される。このクラスは1週間お休みとなったが、保育士は消毒作業や事務処理のため出勤する。その後、5日に美紀がのどの痛みを感じ始める。感染予防を熱心に取り組んでいる保育園において、3時間くらい同じ空間にいて潜伏期間5日で発症している。おまけにワクチン接種も2回済ませ、3ヶ月半も経っていない。おそらく風疹程度の感染力があるように思える。

 こうなると、同居人として検査を受ける必要がある。この感染力では移ってない方が驚きだ。クリニックに電話をかけ、今日陽性判定を受けた保育士の同居している兄と事情を説明して明日の水曜日に検査の予約を取る。

 ところが、12時半頃、クリニックの院長から電話が入る。彼女によると、新しい規則では「みなし陽性」に当たるので検査は不要とのことだ。ただし、この「みなし陽性」の認定は「かかりつけ医」がすることになっているので、それがいるかと尋ねられる。かかつている医者と言えば、東京医科歯科大学の眼科だ。手術を2回受け、3ヶ月に1度の定期検診に通っている。それを伝えると、彼女はもちろん「かかりつけ医」なしと判断し、保健所に相談するようにと勧める。

 そこで杉並区の保健所に電話する。事情を説明して判断を尋ねると、無症状なので、「みなし陽性」ではなく、「濃厚接触者」に当たると言う。検査は不要で、短時間であれば、食料品の買い物もかまわない。

 ただし、保健所は注意事項を付け加える。陽性者と部屋を分けるようにと指示されたが、2DKのマンションなので無理だと答える。さらに、保健所は続ける。食事時間をずらすことやマスクの着用、トイレを使う度に消毒すること、バスタオルなどの共有を避けることといったアドバイスを黙って聞く。感染と思っていなかったのですべてこれまで守っていない。感染は時間の問題と覚悟する。

 その上で、症状が出た場合は対応する医療機関に連絡して検査するようにと伝えられる。ここまでの話を聞いて、当局は検査をしたくない方針だとよくわかる。検査をして陽性か陰性かはっきりさせれば、「濃厚接触者」はあり得ない。それは、言わば、白でも黒でもない灰色だ。この疾病には不顕性感染がある。そのため、感染を自覚できない場合がある。今は無症状だが、感染していないとも限らない。けれども、検査をしていないのだから、クルト・ゲーデルの不完全性定理よろしく、「決定不能」である。

 午後2時頃に、杏子さんに美紀が陽性だったとメールする。即座に変身があり、インスタント食品のど飴などを持っていくと言う。申し訳ないと遠慮したが、お互い様だからとありがたい言葉が返ってくる。30分後にうちのドアの前に置いておくとさらにメールが届く。世の中には危機に強い人がいるものである。杏子さんがそうだったとは思いもよらぬことだ。

 これまでの流行にも特徴があったが、今回は子どもの感染者数造化がその一つだ。

 『NHK』は、2022年2月7日 18時21分 更新「保育所やこども園の全面休園 全国で777か所 現場からは悲鳴」において、それについて次のように伝えている。

厚生労働省が全国からの報告をまとめたところによりますと、新型コロナウイルスに子どもや職員が感染し全面休園となった保育所やこども園は、3日時点で43の都道府県の777か所に上っています。前の週は37の都道府県の644か所でしたが、1週間で100か所以上増え、3週続けて過去最多となりました。
相次ぐ休園 “これ以上の感染対策は難しい”
新型コロナウイルスの感染拡大で函館市では休園する保育園などが相次いでいますが現場からはこれ以上の感染対策は難しいという声も出ています。函館市では7日現在で5か所の保育園と幼稚園などが休園していて、このうち園児92人が在籍する認定こども園の函館上湯川保育園では5日、園児1人の感染が確認され、7日、休園しました。園では定期的な消毒や換気に加えておもちゃや絵本を入れて丸ごと消毒できる「殺菌ボックス」を使用するなどしていたほか、第6波の感染拡大以降は園児を送迎する際の保護者の立ち入りを建物の玄関までとするなど感染対策を強化していました。
園では感染が確認された園児が在籍するクラスはほかのクラスの園児との交流を中止するなどの対応を決めたということですが、これ以上の感染対策は難しいとしています。
函館上湯川保育園の奥山早苗 園長は「私たちの仕事は愛着関係を大事にしていて小さい子どもはだっこやおんぶをするので離れて接するというのは難しく保育士も悩んでいます。これまでも感染対策は十分に行ってきたのでさらに対策を強化していくのは難しいです」と話していました。
濃厚接触者減らす取り組みも
函館市の保育園では、保育士が担当する園児をこれまでよりも限定することなどで濃厚接触者を減らす取り組みを始めています。
函館市桔梗町の保育園では6人の保育士が0歳から5歳までの子ども12人を預かっています。感染の急拡大を受けてこの保育園では1月中旬から、保育士は担当する園児以外は食事の介助やおむつ交換などを行わないようにしたほか、共有されていたおもちゃを年齢ごとに分けて使用するようにするなど対応を改めました。
7日も園内ではおやつの時間になると担当の保育士が1歳の子どもたちを部屋に集めてパーティションで区切ったテーブルで食事の介助などを行っていました。職員や園児どうしが接触する機会を減らすことで、感染者が出ても濃厚接触者が限られるため感染拡大を防止し休園を防ぐのがねらいです。
「きっずぱーく桔梗園」の小笠原彩主任は「園内でいつ感染が起きてもおかしくない状況になっている。いままで以上におもちゃの消毒や検温をこまめに行うなど負担が大きくなっています」と話しています。
ベビーシッターへの依頼急増 1日1000件超える日も
新型コロナウイルスの急拡大で、保育園の休園や学校の休校が相次ぎ、ベビーシッターを家庭に派遣する会社には依頼が急増しています。
東京・渋谷区にあるベビーシッターの派遣などを行う会社には、「子どもの保育園が休園し、ベビーシッターを派遣してほしい」といった依頼が1か月前の3倍に急増していて、1日1000件を超える日もあるということです。
各家庭には、子どもが濃厚接触者になっていないことを条件としたうえで、ベビーシッターはマスクや体温計はもちろん、抗原検査キットを持ち歩いてこまめに体調を確認し、家庭に訪問しています。これまでのところ、条件を満たす依頼には応じられているということですが、ベビーシッターの中には、濃厚接触者になって働けなくなる人も出てきていて、こうした場合は対応できる別のシッターに代行してもらっているということです。7日、社内で開かれた感染対策を検討する会議では、3回目のワクチン接種について、3300人分の枠を確保できたことが報告され、可能な人には早めの接種を呼びかけていました。
ベビーシッターの派遣などを行う会社の轟 麻衣子社長は「困っている保護者の声を毎日聞く中で、感染を防ぎながら社会活動を止めないようにという思いを強くしています。働く保護者の支えになりたい」と話していました。
“出張給食”への問い合わせ相次ぐ
新型コロナの感染拡大で保育所が休園になっても、給食のように栄養のバランスがとれた食事を子どもに食べさせてあげたい。保護者のニーズに応える“出張給食”のサービスに問い合わせが相次いでいます。
このサービスを始めたのは、東京・港区の企業で、保育所の休園や学校が休校になった家庭には料金を値引きして、シェフに出向いてもらっています。3日、0歳と2歳の子どもを育てる江東区の20代の女性が利用しました。2歳の子どもが通う保育所は感染者が出て休園になり、女性は自宅で子どもの世話をしながら家事をこなすことに難しさを感じていたほか、給食のように栄養のバランスがとれた食事を食べてほしいと、野菜をふんだんに使った料理をオーダーしました。シェフは筑前煮や野菜の肉巻きなど数日かけて食べられる料理を8品作り、保存用の容器に小分けにしていました。料金は、割引を利用すると5600円ほどで、出前などを頼むより安いと感じているということで、早速、子どもが味わっていました。
女性は「子どもが家にいると『かまって』と言われるのを『ちょっと待ってね』と返事をしながら、家事をするのが大変です。薄味にしてほしいといった相談もできるのがいいです」と話していました。
シェフは「コロナの影響で困っている家庭の依頼が増えていると感じます。感染状況が落ち着かないので、家でも、栄養のある食事を食べられるよう利用してほしい」と話していました。
“出張給食”の依頼が相次ぐ一方で、シェフの家族が感染するなど働けなくなるケースも出ているということです。サービスを提供する企業は、事業を継続するために別のシェフをすぐに紹介できる態勢を整えています。また、一般家庭を訪問するサービスのため、感染対策についてのガイドラインを見直すなど対策を進めているということです。
サービスを提供する企業の井出有希 共同代表は「私自身も子どもの休園を経験していて、子どもが家にいながら、日々の食事作りや仕事するのはとても大変なことだと感じていました。問い合わせも一気にきたので、本当に皆さん困っていると強く思います。おととしの春、第1波のときに休校や休園が相次いだ時と比べると、経済を回すため、家庭と仕事の両立をうまく図っていこうと考える方が多いと感じるので、感染対策を行いながら家庭の食事で困っている方をサポートしていきたい」と話していました。

 感染者数が増えれば、従来少なかった年齢層にもそれは及ぶ。感染する機会が増加するのだから、子どもに広がっても不思議ではない。そうなると、学校や保育所も休みにせざるを得ないところも増加する。

 しかし、保育所や学校は子どもにとっての昼の居場所でもある。休みになれば、年齢が低い場合、自宅で保護者が一緒にいる必要がある。重症化リスクがオミクロン株は低いので、従来のような子どもの社会的入院は少ない。ただ、学校・学級閉鎖や休園措置において、非感染者の子どもも自宅にいることになる。保護者も仕事を休まざるを得なくなったり、虐待の危険性も増えたりするだろう。また、リモートワークであっても、幼い子どもがいれば、仕事に集中できないことも起きる。

 子どもは重症化リスクが大人より低いのだからと感染者が出ても学校や保育所を通常道理にしたとしよう。増加が抑制されないので、ハイリスク層への感染の可能性が高くなる。また、低いとは言え、重症化するリスクもある以上、子どもの中にも重症者が多くなる。やはり感染者数を抑えるほかない。そもそも重症化リスクが低いという認識が今の状態を招いたように思える。これだけ保育所で感染が広がっているのに、検査キットも配らず、幼児にマスクをするように求める政府の姿勢は理解できない。

 夕食は青椒肉絲、野菜サラダ、肉じゃが汁、ワカメのナムル、食後はウコン茶、パール柑をとる。ウォーキングは10476歩を達成する。都内の新規陽性者数は17113人で、この1人がわが妹だ。

 東京都自宅療養サポートセンターから7時半に美紀に電話がある。症状や基礎疾患、常用薬、飲酒、喫煙、身長体重、感染経路、勤務先、緊急時の連絡先などの質問を受ける。また、パルスオキシメーターの有無を尋ねるので、ないと答えると、無料貸与するから明日届けさせると言う。さらに、食料品の配達サービスの説明もされたが、同居している家族が濃厚接触者で買い物ができると断る。

 その上で、ショートメッセージを送信するので、記されているURLから健康観察ツール「マイをハーシス」に登録し、毎日の健康状態を記録するようにと言われる。また、1日2回電話連絡をするから、経過報告をすることも求められる。ただ、パルスオキシメーターが95%以下の場合はすぐに連絡することと付け加えられる。症状が治まり、状態も安定していると判断したなら、発症日0から10日を自宅療養解除の目安とすると伝えられる。

 ただでさえ人手が足りず、忙しい保健所職員に食料品の配達までさせては申し訳ない。正直、この実情を見ても、現在の日本社会にロックダウンは不可能と言わざるを得ない。行政に配給経済を維持できないからだ。ただし、市場経済を拒否し、配給性が浸透している北朝鮮のような体制なら可能である。

 戦前の日本は。配給を実際に行政の末端で担ったのは町内会や部落会などの地域の自治組織である。なお、この部落会の「部落」は(あざ)以下の地区を指す。

 占領下、GHQはこうした自治組織を戦争協力をしたとして解体を目指したが、配給制度が維持できなくなると断念している。配給経済は想像以上に実施することが難しい。

 統治者が情報を完全に入手して需要を合理的に計算、それに合わせて供給する必要がある。その際、流通も滞りなく適正でなければならない。

 しかし、アベノマスクでさえ今の行政は配給できない。配給に必要な品目はマスクだけではなく、極めて多岐に亘る。その需要・供給・流通を統治者が管理・実行しなければならない。アベノマスク騒動から、配給経済ができない以上、日本社会にはロックダウンが不可能だとわかるはずだ。

 岩手の実家は3・11の停電でも1週間以上も避難してきた知り合いの家族と共に暮らしたのだから、ロックダウンでも乗り切れるだろう。冬は雪で閉じこめられることもあるので、それを前提に食料品をはじめ生活必需品を用意している。都会のマンションとも違い、それらを置く場所もある。少なくとも、雪国はロックダウンが可能だが、コンビニを冷蔵庫代わりに使っている都市部では無理だ。「白河以北一山百文」などという揶揄はのん気なものだ。

参照文献
浅川達人他、『現代都市とコミュニティ』、放送大学教育振興会、2010年
「保育所やこども園の全面休園 全国で777か所 現場からは悲鳴」、『NHK』、2022年2月7日 18時21分 更新
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220207/k10013470871000.html?fbclid=IwAR0T8MGQZGEWKdw8mRn2DRFpel-7nvNe5yQsgJqoi-hHbz7iDZmgqJ2zrgU

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