2022年2月19日

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2022年2月19日
 土曜日は、NHK BS1で6時50分から『沁みる夜汽車』が放送されるので、早めに起きる。喚起のために窓に触れても特別に冷たいと感じない。熱はないだろう。寝汗はそこそこ書いたが、下着を変えるほどでもない。

 声はEテレ『母と子のテレビタイム土曜版』のニャンちゅうになっている。

 NHK BS1をつけると、5時50分から『時論公論』が放送されている。今日のテーマは「どこにいるのか?定義あいまい“かかりつけ医”」である。

 だいたいの内容は次の通りである。医療の入り口である「かかりつけ医」という名称はあるものの、制度化されておらず、定義が曖昧だ。医師会などはかかりつけ医は医師と患者の信頼関係に基づく者であり、制度化になじまないと主張している。見なし陽性はかかりつけ医が認定できるけれども、それが自分にとって誰なのかわからない人も少なくない。医療資源がうまく活用できなかった一因が制度化の不備ではないかと暗に示している。

 一方、イギリスは「GP (General Practitioner)」としてかかりつけ医が制度化されている。それを通らなければ、専門医の診療を受けられない。医療がフリーアクセスの日本と違い、英国ではかかりつけ医がゲートキーパーの機能を果たしている。コロナ禍においてその門番のおかげで、患者が大病院に殺到せず、各々の医療機関が役割を分担して事態に対処している。自宅療養者に関しても、かかりつけ医が訪問診療を行っている。

 2022年1月から、厚労省の「第8次医療計画等に関する検討会」が各ワーキンググループの議論を踏まえて、議論している。かかりつけ医のトピックもここで論議される。外来機能報告制度について報告が始まるのは2022年4月である。大病院への集中を避けるためのかかりつけ医機能の強化はすでに始まっている。紹介状のない場合、2022年10月より、大病院の初診料が7000円と診療報酬が改訂されている。論者は、英国を見習って、かかりつけ医を制度化することを期待している。

 「かかりつけ医」は、2013年8月に医師会と四病院団体協議会が合同提言匂いて定義している。それは、「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」である。この「かかりつけ医は家庭医やプライマリケア医、主治医と違い、個々の患者を主体として捉えられた概念だ。そのため、患者によって求めるものが異なっている。反面、誰を「かかりつけ医」と見るかも同じではない。「かかりつけ医」の機能に応じて「かかりつけ医」を患者が認知することになる。

 「かかりつけ医」は、日医・四病院団体によれば、患者と医師との信頼関係によって形成される。日本の医療保険制度は皆保険・フリーアクセスを柱にしている。「かかりつけ医」の制度かはゲートキーパー制にすることだと日医・四病院団体は反対している。こうした制度化への動きは今に始まったわけではない。旧厚生省、は1985年6月、「家庭医に関する懇談会」を設置、1987年4月に「家庭医構想」についての報告書を公表している。

 コロナ対応をめぐって医療のフリーアクセス制がゲートキーパー性に事実上変容したことは確かだろう。ただし、フリーアクセス性がパンデミックに不向きであるかどうかだけでなく、新自由主義的政策によって誘導されてきた医療従事者の人員不足なども検討する必要がある。そもそも制度化云々以前に「かかりつけ医」の発想が必ずしも社会的に認知されていない。特段意識せずとも、住民にとってのかかりつけ医が共通理解されている地域もある。しかし、感染して初めて「かかりつけ医」を耳にした人も、こうした番組が放送されている以上、少なくないに違いない。制度化の議論の前に「かかりつけ医」の認知度を上げパンデミックの際の医療体制をどうすべきかを考えた方がよい。

 47都道府県の中で独立した医療の部局を持っているのは岩手県だけだ。その岩手県は医療を中心としたコミュニティ形成を目指していた時期がある。行政区分に医療を合わせるのではなく、医療からコミュニティを捉え直す。この発想はパンデミックの時代に参考になるように思える。

 味噌汁に口をつけると、しょっぱく感じる。アジの干物は言うまでもなく、野菜サラダも同様だ。味覚花瓶は続いている。

 今日の『沁みる夜汽車』は「ダイヤにぬくもりあり〜東武鉄道〜」だ。

 主人公青木良夫は東武鉄道で電車のダイヤを作る部署で働いている。彼は東武に入社して念願の運転士になるが、10年目にダイヤ作成へ異動を命じられる。

 何をしていいのかわからずとりあえず机に向かっていると、先輩から現場を見に行くように言われる。出かけた彼は大宮駅で奇妙な光景を目にする。ホームを挟んで2台の電車がしばらく停車している。乗り降りは終わっているのだから、発車してもよさそうなものだ。

 青木は、その後、無駄に見えた長い停車時間がお客の転落防止のためと気づく。ホームは乗降客が溢れんばかりだ。しかし、列車が停車しているので、線路にお客が転落する恐れはない。無駄に思えた長すぎる停車時間はお客の安全を考えてのことだったというわけだ。

 この発見が青木を変える。彼は曳舟駅である改善に取り組む。ここは地下鉄半蔵門線への直通電車が到着する乗換駅である。ところが、車両の長さに違いがあり、お年寄りや子連れが乗り換える際に大変そうに彼の目に映る。詳しく見ていると、半蔵門線の駅に入ってくる速度が遅いように感じられる。そこで、青木は安全性を損ねない程度にそれを速くすることを半蔵門線に求める。これにより乗り換え時間に、わずかながら、余裕が生まれ、お客への負担も軽減される。

 ただ、新型コロナウイルス感染症により、最終電車を繰り上げなくてはいけなくなる。駅に急がなくてはならない客の姿が浮かび、青木は申し訳なく思っている。

 このシリーズは、等身大の人物の主に日常が描かれる。奇妙な設定の物語は見え透いてうんざりすることばかりだ。ドラマも映画も小説もそんなものをもてはやしている。しかし、小津安二郎の『東京物語』のような何もないが面白い作品が見たい。何もない。何もないが面白い。精神的深みもある。それこそ表現者の力量というものだ。日常は繰り返しである。時にそこにわずかのずれが生じる。その些細な違いが決定的であると共に人は受け入れざるを得ない。それが等身大の日常だ。その微かながら重いものを背負う時、精神的深みが生じる。等身大の日常を表現することが近代以降の芸術であり、それを見直すべきである。

 歯磨きの後、いつものように計測する。体温は37度1分、SPO2は97%だ。

 WOWOWっで映画『ドラえもん のび太の魔界大冒険』を見ながら、30分ほどストレッチ、その後、5000歩のウォーキングをする。

 『ドラえもん』の凄さを理解できない者はマンガやアニメを論じるべきではない。夏目房之介は、『マンガはなぜ面白いのか』において、ドラえもんの特徴を次のように要約している。

 そして、何よりもドラえもんそのものの造形が、実に安定した丸の集合によってできています。ドラえもんの絵から丸い線とそれ以外の線を抜き出して並べると、いかに彼が丸にこだわって描かれていることがわかります。(略)もし彼が最初から耳のあるロボットとして登場していたら、低年齢層があれほど飽きずに支持したかどうか。(略)
 もう一つ、ドラえもんの特徴は、目の位置が高いことです(略)。ふつう、低年齢向けの可愛いキャラクターは、子どもの目の位置がそうであるように、顔の下のほうにあります。目が高いところにあるのは大人を意味するのです。これは彼がのび太達と遊ぶ子どもの仲間のようでありながら、じつは何でも可能にしてくれる理想の大人、安心できる保護者であることを暗示しているように見えます。

 「丸」の持つ安定性と「理想の大人」の安心性が『ドラえもん』が愛されている理由だろう。長年その声を演じた大山のぶ代は言葉遣いに気をつかうなどそれを承知している。この「理想の大人」は、「ドラえもん」という古風な名前が示している通り、祖父母の世代を意味する。ドラえもんは野比家という核家族にやってきたおじいちゃんというわけだ。

 父母は子どもに対して躾も考えるので、愛情を持ちながらも、時には厳しく接する。他方、祖父母は孫には甘いものだ。発達心理学の研究によると、この祖父母の無条件の愛情が子どもの発達には大切だということが明らかになっている。祖父母のそうした態度は子どもに自分自身は愛されている、受け入れられているんだという意識を持たせ、豊かな精神性を育める。安心はこういった無条件の甘さから生まれるのだ。

 アニメ映画に関しては、藤本弘先生が制作に携わっていた時の作品は『千夜一夜物語』や『西遊記』、『銀河鉄道の夜』などを引用しながら、そのパロディが巧みである。『千夜一夜物語は架空のお話だが、そこに登場する実在の人物にタイムマシンで会いに行けば、その世界に入ることができる。この発想には脱帽する他ない。きりりとした少女同士の友情は日本のアニメ作品で描かれることは珍しい。その凄さを挙げればきりがない。

 午後も屋内ウォーキングに励む。そうしながら、時折、iPhoneでニュースをチェックしていると、大阪府のコロナ対策の変更の記事を耳にする。『東京新聞』は、2022年2月18日 23時35分更新「高齢者の外出自粛を要請、大阪府 患者急増を受け」において、次のように伝えている。

 大阪府は18日、新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置の延長決定を受け、高齢者に感染リスクが高い場所への外出自粛を求めるなど、急増する高齢患者への新たな対応策を発表した。吉村洋文知事は「入院患者の8割が高齢者。重点的な対策強化が重要だ」と記者団に述べ、協力を呼び掛けた。
 新たな対策では、改定された政府の基本的対処方針に基づき、高齢者や重症化リスクの高い人と、その同居家族らに外出や移動の自粛を要請。同居家族が感染した場合は府の大規模医療・療養センターや宿泊療養施設で自主隔離し、高齢者への感染を防ぐよう求めた。高齢者施設での面会も原則自粛とした。

 近代の最も基本的な原理は政教分離である。ここから公私分離が導き出され、価値観の選択が個人に委ねられる。社会は自由で平等、自立した個人が集まって形成される。個人は社会が社会がうまく機能するために政府に統治を信託する。その政府は公開された議会が制定した法律に基づいて公共政策を実施する。それは個人の内面の自由を侵すものであってはならない。

 感染予防のために、政府が各個人に自粛を要請すること自体に問題はない。個々人はそれについて自主的な判断をすればよく、応じるか否かは自由である。しかし、個人が世間の目を気にしたり、要請を拒否する人に誰かが制裁を加えたりする同町圧力を前提に井政府が自粛を求めるとしたら、近代の原理に反している。それは政府が個人の内面に干渉することを意味するからだ。

 新型コロナウイルス感染症の感染抑制をめぐり中央・地方政府は行動の自粛を社会に何度か要請している。しかし、それが同町圧力を期待したり、黙認したりしているのであれば、反近代的権力行使である。政府による「自粛」の問題点は公私分離を内ないがしろにしているのではないかということにある。

 しかも、「自粛」の場合、政策の失敗を政府ではなく、国民に責任転嫁する恐れもある。人々の間で無策な政府の追求よりも悪者探しを始めてしまう。 

 行政に失敗は、残念ながら、つきものである。未曽有の事態ならなおさらだ。金井利之東京大学大学院教授の『コロナ対策禍の国と自治体 ――災害行政の迷走と閉塞』 によると、問題への行政による対策がさらなる問題を発生させてしまうことがある。教授はそれを「コロナ対策禍」と呼ぶ。この概念はこういった政府の失敗、あるいは政策の失敗の一種である。対策の失敗を隠蔽する、もしくは認めないことを行政はしばしば行う。失敗を生かす機会を失う。それどころかより大きな禍をもたらす。失敗が認知されてこそ、より良い行動につながる。ところが、行政は、それに取り入る時代主義者や機会主義者も同様だが、市民の失敗の認知をしばしば妨害する。「批判ばかりで対策がない」や「こういう時こそワンボイスにまとまるべきだ」、「リーダーシップが足りておらず、リーダーに従うべきだ」と批判を封じ込めようとする。しかし、それこそが政策過程の健全性を奪い、禍をさらに悪化させる。こうした批判御封じ込めが日本におけるコロナ禍を悪化させた大きな要因の一つと言わざるを得ない。

 デモを始めとする抗議行動の意義もここにある。民主制の行政には間違いがある。そのトップが民主的な選挙で選ばれたとしても、コンドルセのパラドックスを省みるまでもなく、それはつきものだ。世論と乖離したり、少数派を軽視したりすることがある。それを行政に気づかせるために、市民の抗議行動が不可欠だ。そのような活動をしなかったなら、受容したことになる。そうした抗議が起きたなら、行政も反省的に自身の判断を再考する必要がある。こうした再帰的なプロセスが行政の政策判断や意思決定における健全性の確保にもつながる。デモなど抗議活動自体を行政や人々自身が妨げたり、嘲ったり、叩いたりすることは不健全な統治を蔓延らせるだけである。その弊害は社会が負うことになる。それが現実化したのが2010年代であり、その状況で日本はパンデミックを迎えている。

 夕食はほうれん草のミートソース、にんじんと豆腐の中華スープ、野菜サラダ、ツナとポテトのヨーグルトサラダ、赤ワイン、食後は緑茶、デコポンをとる。屋内ウォーキングは10264歩だ。都内の新規陽性者数は13516人、死者は今年最多の27人である。

 ワインを飲んだので、ビールはやめる。ただ、靴下は履く。YouTubeも聞かずに眠る。

参照文献
金井利之、『コロナ対策禍の国と自治体 ――災害行政の迷走と閉塞』、ちくま新書、2021年
夏目房之介、『マンガはなぜ面白いのか』、NHKライブラリー、1997年
橋本佳子他、「『かかりつけ医機能』の評価なら賛成、制度化は反対 - 城守国斗・日医常任理事に聞く◆Vol.2」、『m3.com』、2021年
9月6日更新
https://sp.m3.com/news/open/iryoishin/959285
「高齢者の外出自粛を要請、大阪府 患者急増を受け」、『東京新聞』、2022年2月18日 23時35分 更新
https://www.tokyo-np.co.jp/article/161090

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