第5話
文字数 1,778文字
「そもそもなんで指輪を隠しているんだろう。」
素朴な疑問が頭をよぎる。指輪を隠す理由なんてあるのだろうか。
もう一つの指輪を探す前に、式を開く予定だったカップルについて知っておく必要がありそうだ。
「ウェルカムボードなんかが置いてあればいいんだけど。」
ウェルカムボードとは、会場の入り口に置かれている看板だ。二人の名前や挙式日などが書かれていて、ゲストを案内する役割がある。
「入り口を見に行こう。」
もしかしたら二人の写真なんかが飾られているかもしれない。
小道を進み、入り口へと出る。
招待客たちが数人いるが、声をかけなければカナエに気づかれることもないだろう。
(ビンゴだ。)
入り口には大きなウェルカムボードと、写真が数枚飾り付けされていた。
【今泉圭一郎 妙子 1968年 6月3日】
ボードにはこう書かれている。
「今泉さんって、ここの管理人さんじゃ…!」
予想もしていなかった名前に思わず声を出してしまった。
しまった、と辺りを見回したけれど、幸い気づかれていないようだ。
(というか、結婚式が開かれたのって今から50年以上も前なの。)
招待客や備品がやたらと古臭く感じられたのは、実際に古かったからなんだと合点する。
隣に飾られている写真を見ると、写っている2人のうち1人が黒く塗りつぶされていた。
(塗りつぶされているのは花嫁の方ね。)
花婿―若かりし頃の今泉さんは画質が悪くても分かるほどイケメンだった。面影はほとんど残っていないけれど、きりっと上がった眉毛は同じだ。
隣に映っているであろう花嫁―妙子さんはどんな人なのか見ることができない。
(なんとなく分かってきたわ。)
西条カナエは今泉さんと結婚したかった。だけど妙子さんと結婚することを知り、花嫁の座を奪おうとしたんだ。
ふと思う。妙子さんは生きているのだろうか。花嫁の座を奪われた後、どうしたのだろうか。
(とりあえず、なにか他に手がかりは…)
ボード周辺や写真をくまなく見る。
周りの飾りや置物はほとんどが白鳥であった。
なんでだろう、と思いながら写真を見つめる。
(今泉さんは画家だったのかしら。)
写真の一つに、キャンパスの前でほほ笑む二人が写っていた。
「そういえば…!」
ブライズルームに向かう廊下の途中に絵が飾られていたのを思い出す。あの時は必死だったからどんな絵だったかは覚えてないけれど、きっと今泉さんが書いたものに違いない。
ブライズルームにはもう二度と近づきたくないけれど、絵を見ればなにかわかるかもしれない。
(絵を見に行こう。)
再び教会へと足を踏み入れ、廊下へと足を運ぶ。
「出てきませんように。」
カナエと遭遇したら一巻の終わりだ。もう逃げ切れる気がしない。
息を殺し、壁に飾られた絵を見る。
そこにはボートから池に飛び込む女性と男性が描かれていた。飛び込む先にはおぼれている白鳥がいる。
絵の下部を見ると、
【タイトル 出会い】
という札が付けられていた。
(白鳥を助けるため池に飛び込んだっていうのが彼らの出会い。そしてこの教会には池がある!)
頭の中ですべてのピースがはまる音がする。
急いで庭の池に向かう。
(そんな思い出の場所に指輪を隠しているはず…!)
気持ちがわかるのだ。私たちだって思い出の教会を式場にしたいと意気込んでいたから。きっと彼らも思い出の場所に大切な指輪を置いておきたいと思ったはずだ。
「お互い、ろくな目にあわなかったけどね。」
彼らは結婚式を乗っ取られ、私たちは恋人ですらいられなくなった。こだわりすぎたから厄介な目に遭っている。
そんなことを考えているうちに池の前につく。池は学校の教室2個分くらいの広さだろうか、白鳥が何匹か泳いでいた。その中に全く動かない白鳥が混じっているのを発見する。
(あれは風船…?)
よく目を凝らすと、藍色の箱が背中部分に括り付けられている。
きっと指輪だ。
足元に目をやると、赤い糸が風船につながっている。
これを引っ張れば手に入れることができるようになっているんだ。
ぐっと糸をたぐりよせる。途中本物の白鳥にからまりそうになったが、手元まで移動させることができた。
「やった…!」
近くまで来た風船を取ろうと手を伸ばす。
「っ!」
すると突然池から紫色の手が伸び、池の中へと引きずり込まれてしまった。
素朴な疑問が頭をよぎる。指輪を隠す理由なんてあるのだろうか。
もう一つの指輪を探す前に、式を開く予定だったカップルについて知っておく必要がありそうだ。
「ウェルカムボードなんかが置いてあればいいんだけど。」
ウェルカムボードとは、会場の入り口に置かれている看板だ。二人の名前や挙式日などが書かれていて、ゲストを案内する役割がある。
「入り口を見に行こう。」
もしかしたら二人の写真なんかが飾られているかもしれない。
小道を進み、入り口へと出る。
招待客たちが数人いるが、声をかけなければカナエに気づかれることもないだろう。
(ビンゴだ。)
入り口には大きなウェルカムボードと、写真が数枚飾り付けされていた。
【今泉圭一郎 妙子 1968年 6月3日】
ボードにはこう書かれている。
「今泉さんって、ここの管理人さんじゃ…!」
予想もしていなかった名前に思わず声を出してしまった。
しまった、と辺りを見回したけれど、幸い気づかれていないようだ。
(というか、結婚式が開かれたのって今から50年以上も前なの。)
招待客や備品がやたらと古臭く感じられたのは、実際に古かったからなんだと合点する。
隣に飾られている写真を見ると、写っている2人のうち1人が黒く塗りつぶされていた。
(塗りつぶされているのは花嫁の方ね。)
花婿―若かりし頃の今泉さんは画質が悪くても分かるほどイケメンだった。面影はほとんど残っていないけれど、きりっと上がった眉毛は同じだ。
隣に映っているであろう花嫁―妙子さんはどんな人なのか見ることができない。
(なんとなく分かってきたわ。)
西条カナエは今泉さんと結婚したかった。だけど妙子さんと結婚することを知り、花嫁の座を奪おうとしたんだ。
ふと思う。妙子さんは生きているのだろうか。花嫁の座を奪われた後、どうしたのだろうか。
(とりあえず、なにか他に手がかりは…)
ボード周辺や写真をくまなく見る。
周りの飾りや置物はほとんどが白鳥であった。
なんでだろう、と思いながら写真を見つめる。
(今泉さんは画家だったのかしら。)
写真の一つに、キャンパスの前でほほ笑む二人が写っていた。
「そういえば…!」
ブライズルームに向かう廊下の途中に絵が飾られていたのを思い出す。あの時は必死だったからどんな絵だったかは覚えてないけれど、きっと今泉さんが書いたものに違いない。
ブライズルームにはもう二度と近づきたくないけれど、絵を見ればなにかわかるかもしれない。
(絵を見に行こう。)
再び教会へと足を踏み入れ、廊下へと足を運ぶ。
「出てきませんように。」
カナエと遭遇したら一巻の終わりだ。もう逃げ切れる気がしない。
息を殺し、壁に飾られた絵を見る。
そこにはボートから池に飛び込む女性と男性が描かれていた。飛び込む先にはおぼれている白鳥がいる。
絵の下部を見ると、
【タイトル 出会い】
という札が付けられていた。
(白鳥を助けるため池に飛び込んだっていうのが彼らの出会い。そしてこの教会には池がある!)
頭の中ですべてのピースがはまる音がする。
急いで庭の池に向かう。
(そんな思い出の場所に指輪を隠しているはず…!)
気持ちがわかるのだ。私たちだって思い出の教会を式場にしたいと意気込んでいたから。きっと彼らも思い出の場所に大切な指輪を置いておきたいと思ったはずだ。
「お互い、ろくな目にあわなかったけどね。」
彼らは結婚式を乗っ取られ、私たちは恋人ですらいられなくなった。こだわりすぎたから厄介な目に遭っている。
そんなことを考えているうちに池の前につく。池は学校の教室2個分くらいの広さだろうか、白鳥が何匹か泳いでいた。その中に全く動かない白鳥が混じっているのを発見する。
(あれは風船…?)
よく目を凝らすと、藍色の箱が背中部分に括り付けられている。
きっと指輪だ。
足元に目をやると、赤い糸が風船につながっている。
これを引っ張れば手に入れることができるようになっているんだ。
ぐっと糸をたぐりよせる。途中本物の白鳥にからまりそうになったが、手元まで移動させることができた。
「やった…!」
近くまで来た風船を取ろうと手を伸ばす。
「っ!」
すると突然池から紫色の手が伸び、池の中へと引きずり込まれてしまった。