第7話
文字数 1,776文字
「ごめんなさい、私、ひどいことをしたわよね。体が言うことを聞かなくて。」
妙子さんがぽつりとつぶやく。
彼女は写真で見たよりも遥かに美人だった。
まつげはマッチ棒が5本は乗るんじゃないかというほど長く、肌は透き通るように白い。
「いいんです。あなたは悪くない。」
そう、悪いのは全部カナエのせいだ。
「私、相沢七瀬っていいます。」
軽く頭を下げると彼女もつられて頭を下げる。
「私、婚約者をカナエに人質に取られていて。」
そう言うと、彼女は目を大きく見開いた。
「カナエって、西条カナエ…?」
「そうです。あの女伸二と結婚するつもりらしくて。伸二の命を救うには結婚指輪を用意するしかないんです。」
「そんな…お辛いでしょうね。」
妙子さんが私の手をぎゅっと握る。人の優しさに触れるのがなんだか久しぶりで、ぐっと胸が熱くなる。
「妙子さんこそ苦しかったでしょう。今泉さんとの未来を、そして命まで奪われて。50年もの間呪いに囚われ続けて。」
そう言うと彼女は目を大きく見開いた。
「圭一郎は無事なの。」
そうだ。彼女の時計は殺された時のままなんだ。彼の安否や現在を知らない。
「元気ですよ。もう立派なおじいちゃんですけど。あなたとの思い出の教会を今も大事に管理しています。」
そう言うと彼女はわなわなと震え、手で顔を覆う。
「そう…今もちゃんと生きているのね。よかった…」
段々と言葉が消えていき、彼女はしゃくりあげ始めた。
「ずっとこの教会を綺麗に保っていて。どうしてもここで式を挙げたいと言ったら許可してくれたんです。」
「でも、カナエの呪いが強くて。伸二をとられちゃった。」
ぽつりとつぶやく。
「お願い妙子さん。結婚指輪を貸してほしいの。伸二を死なせたくない。」
「旦那さんを救うためならもちろん渡すわ。でもー」
「それって旦那さんとカナエの結婚を認めるってことよね。それでいいの?」
突然の質問にぐっと喉が詰まる。でも、指輪を探していくうちにもう心は決まっていた。
「結婚したら、私とのこと全部忘れちゃうらしいんです。私はきっと何年も忘れられないし、ずっと辛さを抱えて生きていくことになると思う。だって私、伸二のことが大好きなんだもの。」
目から熱いものが流れていく。
「でも、一番、世界で一番愛してるからこそ、生きていてほしいの。生きてさえいてくれれば、あの笑顔を見ることができるから…」
言いきらないうちに妙子さんにぎゅっと抱きしめられる。死んでいるのにとても暖かい。
「ごめんなさい。決心しているのに余計なこと聞いてしまって。あなたの決断を尊重するわ。」
そう言うと妙子さんは左手を顔の前に掲げる。
「指輪を外した途端、きっと私は池に戻されるわ。」
「そんな。助かる方法はないんですか。」
またあんな狭くて暗いところに戻されるなんてあんまりだ。
「結婚が成立して、カナエの未練が果たされれば解放されるのかもしれない。わからないけど。」
「…圭一郎が今も生きているってことを知れただけで十分よ。」
しばらく沈黙が流れる。私たちはそれほどまでに大きな罪を犯したのだろうか。
何をしたからこんな目にあっているのだろうか。
疑問に気を取られていると、妙子さんが白鳥の上にのっていた指輪を手に取り差し出した。
「私のつけている指輪は外したらあなたの方に投げるわ。多分、手で渡せるほど自我を保ってられないから。」
「本当にありがとう、妙子さん。ごめんなさい。」
受け取った指輪を胸に抱き、深々と頭を下げる。
「いいのよ、がんばってね。大好きな人を守れるよう願っているわ。」
彼女はそう言ってほほ笑むと、薬指に手をかけた。
「それじゃあ、いくわよ。」
外された指輪が草むらに投げられた瞬間、とてつもない轟音と絶叫が鳴り響いた。
地面はグラグラと揺れている。
あまりの衝撃に目を閉じ、耳を塞ぎながらしゃがみこむ。
しばらくして目を開くと、彼女の姿はなくなっていた。
「またあそこに連れ戻されたんだ。」
彼女の苦しみを思い胸が痛むが、こちらも時間がない。
すぐに近くの草むらを探すと、輝く指輪が転がっていた。
これで指輪がそろった。後は式場に持っていくだけだ。
「急がなきゃ…」
よたよたと立ち上がり、淡いライトで照らされた式場へと向かった。
この時点で式の開始まで10分を切っていた。
妙子さんがぽつりとつぶやく。
彼女は写真で見たよりも遥かに美人だった。
まつげはマッチ棒が5本は乗るんじゃないかというほど長く、肌は透き通るように白い。
「いいんです。あなたは悪くない。」
そう、悪いのは全部カナエのせいだ。
「私、相沢七瀬っていいます。」
軽く頭を下げると彼女もつられて頭を下げる。
「私、婚約者をカナエに人質に取られていて。」
そう言うと、彼女は目を大きく見開いた。
「カナエって、西条カナエ…?」
「そうです。あの女伸二と結婚するつもりらしくて。伸二の命を救うには結婚指輪を用意するしかないんです。」
「そんな…お辛いでしょうね。」
妙子さんが私の手をぎゅっと握る。人の優しさに触れるのがなんだか久しぶりで、ぐっと胸が熱くなる。
「妙子さんこそ苦しかったでしょう。今泉さんとの未来を、そして命まで奪われて。50年もの間呪いに囚われ続けて。」
そう言うと彼女は目を大きく見開いた。
「圭一郎は無事なの。」
そうだ。彼女の時計は殺された時のままなんだ。彼の安否や現在を知らない。
「元気ですよ。もう立派なおじいちゃんですけど。あなたとの思い出の教会を今も大事に管理しています。」
そう言うと彼女はわなわなと震え、手で顔を覆う。
「そう…今もちゃんと生きているのね。よかった…」
段々と言葉が消えていき、彼女はしゃくりあげ始めた。
「ずっとこの教会を綺麗に保っていて。どうしてもここで式を挙げたいと言ったら許可してくれたんです。」
「でも、カナエの呪いが強くて。伸二をとられちゃった。」
ぽつりとつぶやく。
「お願い妙子さん。結婚指輪を貸してほしいの。伸二を死なせたくない。」
「旦那さんを救うためならもちろん渡すわ。でもー」
「それって旦那さんとカナエの結婚を認めるってことよね。それでいいの?」
突然の質問にぐっと喉が詰まる。でも、指輪を探していくうちにもう心は決まっていた。
「結婚したら、私とのこと全部忘れちゃうらしいんです。私はきっと何年も忘れられないし、ずっと辛さを抱えて生きていくことになると思う。だって私、伸二のことが大好きなんだもの。」
目から熱いものが流れていく。
「でも、一番、世界で一番愛してるからこそ、生きていてほしいの。生きてさえいてくれれば、あの笑顔を見ることができるから…」
言いきらないうちに妙子さんにぎゅっと抱きしめられる。死んでいるのにとても暖かい。
「ごめんなさい。決心しているのに余計なこと聞いてしまって。あなたの決断を尊重するわ。」
そう言うと妙子さんは左手を顔の前に掲げる。
「指輪を外した途端、きっと私は池に戻されるわ。」
「そんな。助かる方法はないんですか。」
またあんな狭くて暗いところに戻されるなんてあんまりだ。
「結婚が成立して、カナエの未練が果たされれば解放されるのかもしれない。わからないけど。」
「…圭一郎が今も生きているってことを知れただけで十分よ。」
しばらく沈黙が流れる。私たちはそれほどまでに大きな罪を犯したのだろうか。
何をしたからこんな目にあっているのだろうか。
疑問に気を取られていると、妙子さんが白鳥の上にのっていた指輪を手に取り差し出した。
「私のつけている指輪は外したらあなたの方に投げるわ。多分、手で渡せるほど自我を保ってられないから。」
「本当にありがとう、妙子さん。ごめんなさい。」
受け取った指輪を胸に抱き、深々と頭を下げる。
「いいのよ、がんばってね。大好きな人を守れるよう願っているわ。」
彼女はそう言ってほほ笑むと、薬指に手をかけた。
「それじゃあ、いくわよ。」
外された指輪が草むらに投げられた瞬間、とてつもない轟音と絶叫が鳴り響いた。
地面はグラグラと揺れている。
あまりの衝撃に目を閉じ、耳を塞ぎながらしゃがみこむ。
しばらくして目を開くと、彼女の姿はなくなっていた。
「またあそこに連れ戻されたんだ。」
彼女の苦しみを思い胸が痛むが、こちらも時間がない。
すぐに近くの草むらを探すと、輝く指輪が転がっていた。
これで指輪がそろった。後は式場に持っていくだけだ。
「急がなきゃ…」
よたよたと立ち上がり、淡いライトで照らされた式場へと向かった。
この時点で式の開始まで10分を切っていた。