第2話

文字数 1,597文字

【相沢伸二 西条カナエ 結婚式】

「なによ、これ…。」

看板を見ておもわずつぶやく。
西条カナエって誰よ。というか、なんで伸二が結婚相手なの?
とりあえず、参列者の一人に話を聞いてみよう。
そう思い立ち、近くにいたハーフアップの女性に声をかける。

「あの、すいません…。」
「ひっ!」

喉からひゅっと息が漏れる。
女性はあの女のような人ならざる顔をしていた。
よくよく見ると、周りの参列者も皆同じような姿形をしている。

(なんなのよ、これ…!)

恐ろしくなりその場を逃げ出す。

(夢なら早く冷めてよ!)
(伸二、いったいどこにいるの…。)

無我夢中に走り出し、息が切れ廊下で立ち尽くす。

すると、数メートル先にある一室から女性の声が聞こえた。

(あそこはブライズルーム…)

花嫁が式の前に身支度を整える場所だ。伸二と少しだけ見に行った。

(もしかしたら、カナエとかいう女がいるかもしれない。)

部屋の前まで行き、中をそっと覗き見る。
そこにはウエディングドレスを身にまとい、鏡の前に座っている女がいた。

(あの女、伸二とキスする直前に現れた女だわ。あいつがカナエなのね。)

周りの女にメイクやヘアセットをしてもらってはいるけれど、形ばかりで余計におぞましさが増している。

なんだか見ていられなくて奥のソファに目をそらす。
するとそこにはタキシードを着た伸二が横たわっていた。

「っ、伸二。」

思わず声に出して呼びかける。

〈ぎょろり〉

カナエや周りの女たちが一斉にこちらを見る。

(あ、しまった…)

カナエがにたりと笑うと女たちは作業をやめ、こちらに向かってきた。
手に持っていたブラシは鋭い鎌に、櫛はさびついた斧へと形を変えた。

(殺される…!)

とっさに部屋を飛び出し、廊下を走る。
恐怖で足がもつれるが、女たちは容赦なく追いかけてくる。

なんとか外に出ようとホールまで行き扉を掴むが、ガチャガチャと音を立てるだけで開かない。

「なんで開かないのよっ」

すぐそこまで女が迫ってきている。
隣の螺旋階段を駆け上がる。逃げ場なんてあるんだろうか。

祈るような気持ちで2階まで上ると、そこには三つ部屋があるだけだった。
血の気がさあっと引く。

(どうしよう、どうしよう…。)

どの部屋に隠ればいいのか。そもそも隠れられるのだろうか。
カツンカツンと階段を駆け上がる音が響く。

(ここしかないっ…)

一番奥の部屋に飛び込む。
暗くてよく見えないが、その部屋にはクローゼットとベッドだけしかなかった。

(鍵もついてないじゃない…っ)

叫びだしてしまいそうになるのを抑え、ドアを抑える。
外からは一つ一つ部屋を確認し、ドアを開けていく音が聞こえる。

(次はこの部屋だ…)

恐怖で歯ががちがちと鳴る。
遂に隣の部屋の扉が閉まる音がする。

(もう終わりだわ。)

ギュッと目を閉じると、突然背後からぐいっと手を引かれた。

(誰?何?)

引かれるままにベッドの下へと滑り込む。

(誰なの?)

【キイ】

滑り込んだ直後に、部屋の扉が開く。

「うっ…」

恐怖から思わず声を漏らしそうになると、謎の手に口を覆われた。
女たちはコツコツと足音を鳴らしながら部屋を歩き回る。
そして足音がベッドの手前で立ち止まる。

(ばれませんように…お願い。)

心臓の音が聞こえていないだろうかと冷や汗を流す。
しばらくすると諦めたのか彼女たちは部屋を出ていった。

「っはあ、はあ、はあ」

安堵するとともに激しい動悸に襲われる。
すると私を助けてくれた人が先にはい出て、手を差し伸べてくれた。
なんとかそれにしがみつき、立ち上がる。

「危機一髪でしたネ」

そこには金髪碧眼の外国人が立っていた。
モデルのようにすらっとしていて、首からは十字架を下げている。

「あ、あの、あなたは…」

しどろもどろになりながら尋ねる。

「失礼、自己紹介が遅れましタ。私はトーマス。牧師をしていまス。」

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登場人物紹介

相沢七瀬 23歳

明るく活発な女性。

カナエに奪われた伸二を助けようと、恐怖の中奔走する。

相沢伸二 25歳

いつも穏やかで優しい好青年。

カナエに意識を操られ、抵抗できない。

何年も前から教会に巣くう亡霊。

七瀬から花嫁の座を奪い、伸二と結婚をしようと画策する。

式で誓いの言葉を述べる牧師・トーマス。

実はカナエに殺されていた。

七瀬が指輪探しをしている間、式までの時間稼ぎを行う。

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