6 尻尾

文字数 1,139文字

 拘束具を外してやると、ハマリは気持ちよさげに伸びをする。しかし局部が見えてしまっていることに気づき「すみません……」とすぐに座り込んだ。
 娼館に送るにあたって、まず問題なのがハマリの服だった。さすがに全裸で連れまわすわけにもいかない。かといって調達するには時間がかかる。その間にヒリニィが様子を見に来てしまったら面倒だ。
 腕を組んで考えていると、コートの袖が視界に入った。そうだ、コートを被せればいいんじゃないか。自室へ戻った時にコートは着替えたし、汚いということもないだろう。
「あ、ありがとうございます――えふっ、えほっ!」
 コートを脱いでハマリに羽織らせてみると、彼はすぐに咳き込み始めた。
「ウッカさん……その、これ洗ってますか……?」
「洗ってるが!?」
 臭いのか。やっぱり臭いのか。
「し、失礼しました……あ、でも、この大きさなら僕の尻尾も隠せますね!」
 話を変えて、ハマリはコートを羽織り具合を確かめている。コートに着られているというぐらいに、彼の体格には合っていない。袖は余っているし、裾は歩けばひきずるようだ。だが彼にはそれが嬉しいらしく、尻尾が覆われてしまうのを喜んでいる。
「尻尾が見えないほうがいいのか?」
「はい、あんまりよく思ってくれる人もいないので」
「そうか。もったいないな……良い尻尾なのに」
 俺の賛辞に、ハマリは眉を下げて複雑そうな表情を浮かべた。
「ウッカさんは、変わってますよね」
「お前も変態と思うのか……」
「いやいや、違いますよ!? その、良い意味で変わってるんです」
「変態に良いも悪いもあるか!」
「違いますって! 変態とかじゃなくて、竜人とか尻尾が苦手じゃないんだなって」
「ああ、そういうことか」
 世の中にいる生物には、すべて竜の血が混じっている。生物の種類を正確に表せば、あらゆる存在が亜種となるのだ。
 “竜人”は亜人の中でも竜の特徴が色濃く出た存在である。見た目が大きく違うので、差別の対象となることが多い。プレディレールでも例外ではなく、彼らの大半はスラムに追いやられている。
 ハマリも竜人ではないものの、尻尾の生えた亜人として苦労してきたのかもしれない。
「お前になにがあったのかは知らないが……俺は、その尻尾が良いものだと思う」
「ウッカさん……ありがとうございます」
 雰囲気が湿っぽくなり、部屋の中は静かになった。居心地の悪さを感じ、ハマリに声をかける。
「もう出るぞ。娼館まで行けば、その尻尾も隠さなくていいだろ」
「ふふ……はい! その時は見せてあげますね」
 尻尾フェチかなにかと勘違いされている気がする。とはいえ、声をもらして笑うハマリを見ると、訂正して水を差す気にはなれなかった。
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