『勝也*小国を席巻す』 中編1

文字数 2,131文字

 
 ライブ当日。
 
 ライブは、17時からではあるが、二人とも早起きをしてライブに備えていた。
 
 「桃子……。結城なんて、めったに行かねーから、早めに出て観光しようぜ」
 勝也は仕事そっちのけで、ライブに向けて体調を調整していた為、元気が(みなぎ)っている。
 
 「いいねー。電車に乗っている間、結城の観光と美味しい所、検索しよ~」
 桃子も、ノリノリである。
 
 そして二人は、一切の迷い無く、ド派手なTシャツを着て、ライブ会場がある結城に向かったのだ。
 
 この二人には『如何(いか)なる懸念(けねん)を抱こうが、全て無駄である』事を、まざまざと思い知らされた。
 このままでは『一般常識の方が、間違っている』と、思われてもしゃくなので、付け加える。
 
 二人が喜んで着ている、ド派手で『ガッツリ』ロゴが入っているTシャツは、あくまでも『ライブ時』もしくは『その、直前直後』のみ、会場付近限定で同化できるものであり、普段着用には不向きである。
 さらに3月15日は、春とは云え未だ寒く、たとえロングスリーブシャツでも、ライブ会場内以外では『薄着過ぎて、目立つ』のだ
 
 しかし、この二人は、他人の目など、一切気にしてはいない。
 メチャクチャ楽しそうである。
 
 この気質は、通常の倍以上『人生を謳歌(おうか)』出来るであろう。
 誠に、うらやましく思う。
 
 
  
 電車に揺られる事、2時間半。同じ茨城県内である、二人共これ程時間が、かかるとは思っていなかったであろう。何しろ、車であれば一時間ちょいで、着いてしまうのだ。是非とも、鉄道網の整備を、促進していただきたい所である。
 
 桃子は『新幹線なら、大阪まで行けてるよ』『そろそろ車、買ってよ』などと、ぼやいていたが。勝也は爆睡で、喧嘩(けんか)にもならなかったのだ。

 爆睡も、使い様である。
  
 その後桃子も、爆睡していたので、あまり時間は関係なかった様な気がする……。

 それに、この二人。始発からの出発であった為、時間には余裕があったのだ。
 ライブに()ける意気込みが、尋常(じんじょう)では無い。
  
 そして、いよいよ。爆睡のまま結城に乗り込んだ二人は、意気揚々(いきようよう)と古民家風の洒落たカフェで、昼食を楽しんだのである。
  
 『世にも奇妙な物語』という、オムニバスドラマは、有名であるが、流石(さすが)にフィクションである。
  
 しかし「現実は小説より奇なり」
 
 勝也と桃子以外、誰も着用しないであろうと思われるTシャツが。

 『かぶった』
 
 隣の席に座るカップルと、全く同じTシャツなのだ。

 これから、隣り合わせた計四人、同じTシャツで、食事をする。異様な光景が見られるのである。
 
 カフェの店員も、四人とは一切目を合わせない。合わせたら最後、笑いの『ドツボ』に、はまる事は明白である。
 
 まず無いと思うが。五人目六人目と増える事だけは、死守しなければならない。
 『入り口で食い止めろ』小刻みに手が震えている、ウエイトレス様~。
 
 
 しかし、そんな状況でも勝也と桃子は、何食わぬ顔で、食事を楽しんでいる。さらに、隣席のカップルも同様に、人目を気にする事なく楽しそうである。
 このTシャツを、喜んで着る人間の本質は、共通しているのだ。
 ここまでくると、凄味(すごみ)すら感じる。
 
 
 二人は食事を満喫し、席を立つ時に、ようやく『かぶりTシャツ』に、気が付いた様で。隣席のカップルと、軽くグータッチをしてカフェを出たのだ。
 この光景は意外と良かった、まさに『ジエチル*パワー』を、感じさせる(ひと)コマである。
 
 
 その後二人は『結城市観光物産店』に、足を運んだ。
 
 店内には、結城紬の小物やら桐下駄(きりげた)など、特産物が色々と陳列してあり。二人は恋人同士時代に戻り、腕を組んで楽しそうである。
 
 試食を、お互い食べさせ合うなど、目に余る行為もあったが、まぁまぁ今日は『良し』と、しよう。
 
 それに、意外と勝也は歴史に詳しく、桃子に説明していたのである。
 中でも、歴史コーナーに飾られていた『長槍(ながやり)』には興味津々で。
 説明文を、真剣に読んでいた様である。
 
 その長槍とは、戦国時代『結城城主であった結城晴朝』が作らせた長さ二間(3.6メートル)もある長槍で。
 『御手杵(おてぎね)』と、呼ばれる有名な(やり)である。

 まぁ、勝也が興味を持つと、ロクな事がないので。
 『長槍』は軽くスルーして頂ければありがたい。それには、桃子も同感であろう。

 しばらく見て回っていると。

「かっちゃん、無駄遣いしないでね」
 桃子は言い残し、トイレに向かった。

 大丈夫かなー、物産店なんかで勝也を『フリー』にさせて。
 
 
 桃子がトイレから戻ってくると。
 
 やはり、嫌な予想は的中するもので。勝也は満面の笑みで、ゴルフ練習用クラブバック位の長さで。そこそこ、かさばる御土産を、持っているのだ。
 
「かっちゃん……『無駄遣いは、やめよーね』って、言ったよね。何で、桃子の言うこと聞けないのかなー」
 子供を(さと)す様であるが、目が笑っていない。

「いやいや……、これ(すご)い。レア物『ここでしか売ってない』って」
 勝也も勝也で、悪びれてはいない。

 桃子は軽く、ため息をつき。
 
「あっ、そー」
 あきらめ顔で言った。
 今日は、大イベント『ジエ様』のライブ当日である、深堀するのをやめたのであろう。
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