『勝也*小国を席巻す』 後編
文字数 2,431文字
二人の快進撃は続き、入り口ゲートまでは、無事にたどり着いた様である。
しかし。
「あっ……、すいませーん……」
頑強な警備員に、呼び止められた。
そりゃそうだ。
「なんすかー」
『察しろよ』とも思うが、勝也は平然と答えている。
「あの~……、ライブ会場に『
『ライブ会場に槍』と、言う言葉は『今後一生』聞く事は無いであろう。
勝也よ『貴重な瞬間』ありがとう。
「これ、先端はプラスチック製だから、危なく無いっすよ」
「ネジが回らなく、なっちゃったの~。レプリカだよ~」
勝也と桃子は、続けざまに言った。
が……、しかし。
「いや~……、まずいっしょ」
警備員は仕事である、当然であろう。
「見て下さいよ……。通行人の方々、みんな『槍』避けて歩いてますから……」
見ると確かに、先程と変わらず。勝也の槍が『陣を引き裂く』様な、人の流れを生み出している。
「ここから先には……、チョット……ね~。申し訳ないですが~」
二人は、その言葉で肩を落とした。
開場は始まっている、あと一時間でライブが始まるのだ。
会場内に『手荷物預かり所』があったとしても、入場すら出来ない。コインロッカーも、2m超えのボックスは無いであろう。
二人は、さまよった。ド派手なTシャツが、周囲と同化した事だけは唯一の救いである。
恐らく、近くの店舗に相談しても、
今、二人は『槍』に、支配されている。安価な代物であったら、ここまで悩まされる事も、無かったのだが……。
刻々と、時間は過ぎている。
ライブ会場に隣接する公園を、途方に暮れ歩いていると。
勝也は急に、周りを見渡した。そして、ツツジが並ぶ、植え込みの根元に、槍を横向きに差し込んだのである。
まさに、緊急措置であろう。
槍は植木と同化し、上手く隠せている。剣先もプラスチック製であり、木の根元に、奥まで入れてあるので、子供が遊んでいても危なくは無い。
隠し終わると勝也は、周りを
しかし周囲の人々は『ガッツリ』見ていた。
当然である『槍』の行方は、誰しもが気になる。
勝也も負けてはいない、周囲を
『ここで甘い顔を見せると、盗られる恐れがある』勝也なりの知恵であろう。
人込みは流れ、ライブ会場に吸い込まれていく。勝也は、隠し場所を見ていた人が、全員去った事を確認すると、桃子の手を握りライブ会場めがけて
そして。
何とか、間に合ったー。
二人は大盛り上がりで、声援を送った様である。
「やっぱり、この位の会場の方が良く見えるし、熱が伝わってくるよねー。臨場感ハンパネー」
桃子は、会場を最初に知らされた時と別人の様に、勝也を
「バカヤロー。俺は、全てを総合的に判断して、先を読んでるんだぜー。完璧に決まってんだろがー。がっはっはっ」
ドヤ顔&高笑い。ライブ終わりで、高揚している気分は分かるが。
総合的に判断して、先を読める人間であったなら、ライブ前に『槍』しかも
勝也は今日、心からライブを楽しめたのであろうか。
いや……、そうでも無さそうである。
ライブの終了後、またもや桃子の手を握り『槍』の元へ一目散に駆けたのだ。
ライブ中も『取られてはいないか』『清掃員に捨てられてはいないか』かなり気になっていたのであろう。
「あれ……、ヤバイ……、忘れた……。
どこら辺だったっけ?」
言われてみれば、数百メートル続く植込みの中、細い棒を探すのは
愛すべき勝也と桃子。隠し場所に目印を付ける様な二人なら、ここまで愛せないであろう。これがあるから、二人から目が離せないのだ。
その後二人は、薄暗い街灯の下で『槍』を探した。
「令和の時代、暗闇で『槍を探す』とは、
天から、結城晴朝の声が聞こえてきそうである。
今日の二人は、結城で『槍』に、まつわる歴史的記録を、数回塗り替えている。たぐいまれなる才能を、感じるのは勘違いであろうか。
その後も二人は、必死に探したが中々見つからない。
周囲は人通りもまばらになり、怪しい動きをする、ド派手なTシャツが目立ち始めている。
結城晴朝公、か弱き二人に『御力』を~。二人は名槍『御手杵』を、探しておりまする~。
必死な二人を見ていると、勝也と桃子に成り代わり、天に叫びたくなる。
すると。
「あったー」
桃子が叫んだ。
「やったー。2.5000円あったー」
勝也も絶叫した。
『そっちかよ……』とも思うが、大金である。まずは良かった。
勝也は見つけた『槍』を持ち、一振りして。歌舞伎役者のポーズで、決め様としたのであろうが。
その途中。
「ポキッ」
また音がした。
しかし、何と無く『嫌な感じ』は、しない。あくまでも『感』であるが。
勝也は慌てて、接合部分を確認して回すと、すんなり回るのだ。
結局、分解して、収納袋に三本とも、収まったのである。
それにしても良かった『晴朝公』の、おかげであろうか。
しかし終電の時間は迫っている。二人は手をつなぎ、駅に向かって走り出したのだ。
ギリセーフ。
これで、二人の長い一日は、無事終われるであろう。自宅に着くまで気を緩めないでほしい。
翌日『槍』の、説明書を確認すると。
「うわっ、ヤバ。俺、いつの間にかストッパーきかせてた」
読んだ勝也が、独り言の様に
ストッパーね……。そんな事だろうとは、思ってましたよ。
でも、それに気づく様な二人なら、楽しくないでしょ。
これからも、正直で、ガムシャラで、間抜けに、お願いしますよー。