第41話 鼾

文字数 1,643文字

 北の樹海に繋がる街道では、ヒュクトー隊に占拠された村の惨状を伝える話題があふれていた、戸を閉じて批難してしまった住民も多いようだ。
 まだ店を開けている宿屋は避難民やポーターで混雑していたが、相部屋の部屋をとることが出来た。
 メイは装備一式をもって2階の相部屋に向かった、かなりの大荷物だが盗まれては敵わない。
 相部屋の相手は女性だというのは救いだ、女だからと言って安心はできないが、男たちの欲情に始終当てられていては神経が参ってしまう。
 部屋の扉を開けると以外と大きな部屋が狭く感じるほど大柄な女たちが3人いた。
 ジロリと3人の視線が痛い、が直ぐに友好的なものに変わった。
 「あんたっ、女神さまじゃないか」
 「ほんとだ、メイさんだ」
 「無事だったんだね、私たちを覚えていないかい」
 矢継ぎ早に話しかけられて気後れしていると190㎝を超えるオーガ女たちが目の前に迫ってきた。
 思わず後ずさる。
 「えっ、誰?」
 「やだねぇ、古戦場で助けてもらった者だよ」
 「そうか、あんた最後気を失っていたから、あたい達を見てないんだったね」
 「あっ、ひょっとしてミヤビさん、リンさん、アオイさんですか」
 「やあ、嬉しいじゃないか、名前覚えていてくれたんだね」
 「はい、皆さんも無事で良かったです」
 「奇遇だねぇ、やっぱりあれかい、ヒュクトー隊の件かね」
 「みなさんも……」

 ミヤビ達3人の目的もヒュクトーだった。
 3人のお喋りは凄まじいものがあった、巨体から発声される音は大きく、かつ良く通る声は3軒先まで聞こえているのではないかと思うほどだ。
 3人とも人間の村に暮らし、人間の夫と子供もいるという。
 なら、なぜ死ぬかも知れない戦いに挑むのかと聞くと。
 「あたい達の命の分、旦那や子供たちは長生き出来るじゃないか」
 その言葉に迷いや嘘はなかった。
 「例え、今死んでも旦那や子供たちは私たちを忘れないでいてくれる」
 「私たちの一生は短いけれど、その分濃密に生きることができるのさ」
 「旦那たちから、いっぱいいい思い出を貰っているからね」
 「今朽ち堕ちても悔いはないよ」

 「なんか、男らしいですね、みなさん」
 
 「なんだい、女神様には愛しい男はいないのかい」
 「ええ、まだ17才なのでちょっと……」
 「年なんて関係ないさ、17才はオーガならもう中年だよ」
 「よーし、みんなで飯だ、飯に行こう」
 
 無理やりに連れていかれた宿の食堂では3人のオーガ女に囲まれた少女は可哀そうなほどに浮いていたが、囲む食卓は愉快だった。
 3人の食べる量はすさまじく、厨房の職人たちはてんてこ舞いだ。
 明け透けに話し、笑い、食べて飲む。
 ミヤビが濃密だといった意味が分かった気がした。
 話の内容は自分の旦那がいかに優しく自分が愛さているかと、子供たちの優秀さを自慢する話ばかりだ。

 古戦場の戦いの中、エンパスで話しかけた時、彼女たちの辛い経験や、苦しい気持ち、オーガ女であるために受けた理不尽な差別をメイは知っていた。
 でも、彼女たちはそのことを、おくびにも出さない、いや既に消化してしまったのだろう。
 今の幸せを理解している。

 戦う理由は、恨みや復讐もあるのだろう、しかし大きな理由は今の幸福を守るために、愛おしい人たちの戦う、だから彼女たちには悲壮感が無いのかもしれない。

 メイはそんな彼女たちを羨ましいと思うと同時に、大好きになった。
 彼女たちも家族のもとに無事に返してあげたい。

 さんざん食べて飲んだ、でも彼女たちの1割も食べていない、はち切れそうなお腹が無敵のバトルスーツを破りそうだったが、彼女たちは腹八文目とかいっている。
 ここまでくると痛快だ。

 「あしたに備えて早寝しようか」
 といった時間はとうに零時は超えていた、笑い過ぎて喉がいたい。
 「はいよ、メイちゃん」
 寝る間際にミヤビがくれたのは耳栓だった。
 「これって?」
 「まあ、迷惑かけるけどごめんな」
 「?」

 3人ともに、凄まじい鼾が3軒となりまで響いていた。
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