今思えば、上げ膳据え膳生活だった。

文字数 1,212文字

 昔の旦那さんと暮らしていた頃、僕は気が向いたら時だけ、料理、モップがけなどの家事をしていた。頻度は、モップがけは数ヶ月に一回、料理は月に2、3回。旦那さんは、毎日コンビニのご飯を買ってきた。僕の分も。プログラミングのお仕事だから、帰りが22時なのに、毎日毎日都市まで電車通勤して僕を養ってくれていた。旦那さんがくれたプレゼントは計り知れない。僕は旦那さんと付き合ってる間、何度か仕事をしていたがどれ数ヶ月か3日で辞めている。理由は「つまんないから」とか、「覚えること多くて大変そうだから」とか、そんな最低なものばかりだった。それでも旦那さんは僕を責めなかった。「段々でいいよ」毎回毎回そう言ってくれた。それでもわがままな僕は、一度、旦那さんと喧嘩して北海道に逃げた。けどやっぱり旦那さんが恋しくなって戻った。「家事、したくない」僕はごねてばかりだった。旦那さんは、僕が欲しいものはなんでも買ってくれた。豪邸以外は、ほぼ全部。服、お菓子、猫、可愛らしいキャラのマグカップ、セミダブルのベッド……欲しいものはいつだって、いつだって僕の手元にあった。旦那さんが霞んで見えた。「いなくてもよくね」なんて薄情な思いが脳裏を掠めたこともあった。「くだらねえ、平和すぎて反吐が出る、退屈だ、アウトローな人生を送ってクソ親にショックを与えてぇ」そんなことを、一週間に一回は考えた。
考えていた。
旦那さんは僕の病気や障害について精一杯理解を示そうとしてくれた。こっそり精神保健福祉士に転職しようとしていたのも知っている。
僕のために。
旦那さんは、限界の限界まで僕のわがまま、横暴を辛抱強く受け止めてくれた。
けれど、ある日、とうとう、旦那さんと僕の絆は切れた。
あっけなかった。
翌日は、僕はもう、グループホームにいた。
フローリングの床に、僕が一人暮らししていた頃の薄い布団を敷いて寝た。固くてまともに寝れやしなかった。
ホームの食事は、僕の旦那さんが作ってくれる料理の100000000分の1、
まずかった。
僕は痩せていった。
8キロ痩せた。
ぷにぷにの二の腕はどこかへ消えた。
ふくらはぎも、ほおも痩けた。
状況を受け入れることができなくて、厳しい毎日が続いた。
貯金を切り崩し、大学に通えるかがわからなくなった。
僕が与えた旦那さんに対する痛みや暴力のことなどを考えるとまずはじめは、彼に謝らなければならなかった。だけど僕はいきなり他人と共同生活を強いられ、その怒りと悔しさしかなくて頭の中はファックオフ状態で、とにかく情けなくて仕方なくて、旦那さんを恨んでしまった。





ここへ来て、もう五ヶ月経つ。
僕は今、内省中だ。完璧ではない。脆く崩れそうになるときもあるだろう。
それでも、僕は、いまは、旦那さんの幸せを願ってる。新しい奥さんができたらしい。幸せになって欲しい。
今度、愛する人ができたら、
これを大切にしたい。

愛することは無料だ。
だけど料理のようにちょっと複雑。



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