出会い系呑みサーへの参加
文字数 7,969文字
それから数日後、幼馴染は熟考した末に先輩宛にRINEのメッセージを送った。
メッセージはすぐに既読になり、明日の午後にチャペル前で待ち合わせをするということになった。
翌日、先輩がチャペルの前につくと、そこには幼馴染が一人ベンチに座って待っていた。
「どうしたの、いきなりRINEで呼び出しなんて。まさか入部する気になったの?」
「あれからいろいろ考えてみました」
「うん、それで?」
「もし、もしですよ。私がサークルに入ったら、先輩も私のサークルに入ってくれますか?」
「なに、その交換条件。あなた、何かサークル入ってるの?」
「キリスト者聖書研究会です」
「ああ、あれね。あれサークルだっけ?」
「厳密にはサークルではないですけど、大学公認の学生組織です。その主催者として登録参加してます」
「お誘いありがとうね。でも、私は絶対にキリ教なんて信じないわ。私を伝道するなんて考えないでちょうだい」
「もちろんです」
「あくまでかたちだけなら、入ってもいいわ。それじゃ、あなたもこっちの呑みサーに入ってくれるのね?」
「ちゃんと大学礼拝や聖書輪読会などの活動にも加わってくださいますか?」
「あなたも呑みイベは絶対に来てくれるんだよね」
「はい」
「それじゃあ、取引成立よ!」
先輩は幼馴染の手を取って喜び勇んだ。
そして、二人は、また例のカフェテリアに移動して、いつもの場所に陣取った。
先輩は、定番のソイラテ、幼馴染は抹茶クリームを注文した。
「私さ、高校はここの附属だったんだ。つまり、キリ教系のがっこだったってわけ。
意外でしょ」
「そうだったんですか」
「教員も生徒も、くそ真面目だけが取り柄みたいな風してるんだけど、実際、その真面目の度合いも普通でさ、要するに他人のこと何も考えてないんだよね。世間知らずを装って周りのことには関心持てませんみたいな態度、むかつくわー」
「みんながみんなそうとも限らないと思いますけど……」
「正直、ギラギラしてる方が、私の性分とシンクロ率高くてさ、そっちの方が馴染むっていうかさ、本音で生きてる感じするのよね。だから附属高校じゃなくてこっちの大学の方が居心地いいの。ここには、まじクリほとんどいないし、偏差値高いし」
「そんなに高校生活が嫌いだったんですか?」
「あ、でもね聖書の言いたいこととか価値観自体は否定しないよ。
実際、こんな矛盾だらけ間違いだらけの説教本が何千年も続いてんだし。
そこは認めてるから。
聖書信仰のおかげで生きがい持っている人もいるだろうし、あなたもその一人でしょ」
「はい」
「聖書の真実がどうしたとか、進化論や十字軍がどうのこうのとか、神は死んだ生きたとか言ってる奴らってホント馬鹿だよね。そんなのに関心もつ暇があったら、少しでもみんなが得すること考えてろっての。正しいことや完全なことが世間の道理じゃないってことに、はよ気づけって」
「……そうですね」
「だいたい女男の関係なんてのも、矛盾だらけ、言い訳だらけ、戦いだらけじゃんよ。
でも飽きもせず何千年も続いてんじゃん。
聖書はいつか廃れるかもしれないけど、女男の関係は人類滅亡するまで続くしね。
うんざりするけど、続くものはいつまでも腐れ縁みたいに続くのよ。
あ、気を悪くした?」
「いいえ」
「まあ、あなたこんな戯言程度でへこたれないよね」
「そんなことはないですけど……」
「あなたさ、見かけは弱々しく見えるけど、実際芯は強そうね。そういう感じの信者の先生が中学の時にいたわー。よく身の上相談させてもらったよ」
「その先生とは今もつながりがあるんですか?」
「医者と結婚して先生辞めたあとはさっぱり」
「そうなんですか。ちょっと残念ですね」
「あなたは誰か信頼できる大人って周りにいるの?」
「います」
「え、誰よ?」
「母教会の兄弟姉妹たちです」
「ふふ、あなたって、やっぱ面白い人ね。ところでさ、あなた彼氏いんの? 神様がお選びになった相手だけ?」
「はい、彼氏はいません」
「そなの。それじゃ、このサー活でいい人見つけられるといいね。じゃあさ、サークルのグループRINEに入ってくれるかしら。活動日はこれで連絡するから」
「わかりました」
「とりあえず、今週の木曜日やるからね」
「平日なんですか」
「そ。その日のメインは先輩の紹介だから。二次会もないし、ただの顔合わせみたいなもん。まずはそこで雰囲気慣れてちょうだい」
「はい」
「あとさ、ドレスコードとかそんなめんどくさいのないから。普通の居酒屋チェーン店で飲み食いするだけだから、いつものその恰好でいいからね」
「はい、わかりました」
用事を伝え終わった後、二人は他愛のない雑談をした後、先輩は大学正門の方へ向かい、幼馴染はチャペルの方へと向かってそれぞれ別れた。
幼馴染は、飲み会当日までの間にキリスト者聖書研究会のトラクトを準備した。彼女は彼女で、自分の部会の新規会員を募るために活動を行っていたのだ。
そして、飲み会当日になり、幼馴染は会場の場所を再確認をした。会場は大学近くの居酒屋だったが、デボーションに思いがけなく時間をかけたのか、幼馴染は待ち合わせの居酒屋に遅れ気味に到着した。
居酒屋の二階の大広間にはすでに50名近くの大学生がひしめき合うように集まっていて、わいわいがやがやと、いかにも学生のサークル然とした雰囲気を醸していた。
「こっちよ、こっち」
先輩が手招きして幼馴染を招き寄せた。世話役だけあって早い時間から会場に到着していたのだ。
「私の隣に座ってちょうだい」
「遅くなってすみません」
「もしかして入り口で払っちゃった?」
「いえ、私の分はいらないって言われました」
「そう、よかった。ちゃんと係に伝わってたわね。で、今日は、普通に飲んで食べるだけだから。もちろん他の日が何か特別ってことなんてないけどさ、なんか持ち帰りOKの合コンみたいに構えなくていいからね」
「はい」
「男子連中には、あなたにあまり話しかけないように言ってあるから大丈夫。
いきなりがっついてこられると引いちゃうじゃん。そしたらもう次こないじゃん。
相手も心得てるから今日のところは、そこは大丈夫。それに今日は他に新規が9人くらいいるから」
先輩の説明を聞いた幼馴染が小さく頷くやいなや幹事の威勢のいい声が店内に響き渡った。
「みなさーん、とりあえず、乾杯の飲み物注文、オナシャース‼」
先輩が幼馴染に飲み放題メニューを手にして注文を聞いてきた。
「あなた何頼む?どうせノンアルでしょ」
「すみません」
「いいのよ。信仰上の理由とかじゃなくて、単なる下戸でしょ」
「そうです。わかりますか?」
「あなたの顔見りゃわかるわよ、下戸にアルコールはつらいもんね。それじゃあ、ジンジャーエールにしとく?」
「すみません。それでお願いします」
「あれ、このお店、ドクターペッパーがあるんだ。珍しいわね。カクテルぽく見えるから、こっちにしとこうか?」
「は、はい。炭酸なら何でも飲めるので、それでお願いします」
先輩は大声をあげて店員を呼んで注文をした。
「じゃ、ドクターペッパー、一つね。あ、グラスにカクテルっぽくライム一切れ飾っといてくれる?」
皆がそれぞれドリンクを注文し始めるタイミングで、男子連中が相手の品定めを始めた。
「今日のご新規さん、結構来てんな。全部で何人くらいなん?」
「お役目担当連中が、今日は10人以上は来るっていってた」
「いつもより多いな。期待していいのかな」
「なんかジャイ子みたいなんがいるぞ」
「あれ多分、化粧で化けるタイプじゃね」
「化粧しなくても、もうすでに化けてますから(笑)」
「オタサーの姫ぽいのもいんな」
「調教して育てて楽しむ分にはいいんじゃね」
「おい、奥の壁際にいるあの子、結構いいかも?」
「よく見えんけど地味すぎね?」
「いやいや、服装もうちょっとイケてる感じにして、髪型を読モ風に改造したら、学祭コンテストで入賞するレベルにはいくとみた」
「誰の紹介なん?」
「多分、キリ子じゃね。隣にいるし」
「あいつだろうな、やるじゃん」
「てことは、あの壁際の子が噂のまじクリの子か」
「誰?キリ子って」
「うるさいな。あだ名だよ。お役目担当のやついたじゃんよ」
「昔、まじクリやってたって子がいたろ。今度新4年生になる、ほら国際教養の女」
「ああ、思い出した。あいつね。ぱっと見はいい感じだけど、スタイルそんなよくねえし、よく見りゃそこまで可愛くねえし」
「キリ子ってさ、自分でイケてるって思ってるかもしんないけど、実際俺らの評価、あんま高くねーんだよな」
「でも、可愛げはあるっしょ」
「まあな。男の言うことよく聞くし、ちゃんと可愛い子連れてくるしな。そこは認める。まあ、俺は遠慮しとくけどな」
男子連中は大声で笑い始めた。
「ところでさ、今日は先輩デー、つまりご新規さん紹介日だから、俺らは黙ってじっとしてるんだぞ」
「わかってますって」
「でも少しくらいのお喋りはいいんしょ?」
「お手付きしなきゃな」
幹事の挨拶が終わり全員が乾杯を始めた。
「かんぱ~い!!」
居酒屋の店舗を揺るがすように全員の声が一斉に会場内を響き渡った。
幼馴染も、急いで駆けつけてきて喉が渇いていたこともあり、その勢いにつられるようにグラスに口をつけ、大きく一口喉に流し込んだ。
「今日は、就活勝者であらせられます我ら本学徒のOBをお呼びしておりまーす。
総合メディア情報学研究科の修士課程を卒業し、現在は総合商社でAIビジネス開発部に所属して若くして市場調査の主任として活躍されている期待のビジネスパーソンです!」
拍手の音が一斉に会場にこだました。
「あの有名なイケメン先輩じゃん」
「今日はご新規さんが10人もいるからな」
「そりゃ、仕事途中で切り上げて無理してでもくるよな」
就活勝者の先輩は、皆の前に立ち、挨拶をはじめた。
「これからは、シンギュラリティを契機として社会は大きく変化します。
ベーシックインカムが各国で積極導入され、労働意思のないものは、その義務から免除され権利を放棄できます。生活に必要な労働力はAIによって支えられ、人間は食べるための労働から解放されるのです。意志ある者だけが、資本が生み出す富を享受する立場に立つことができるのです。
ですから、旧来の社会経済学で言うところの勝者と敗者、資本家と労働者という考えはもう過去のものなのです。
競技者とそれを見守る観覧者になぞらえた方が、より未来社会の在り方を正しくたとえることができます。競技参加者はそのリスクの見返りとして高い報酬を得る、観覧者は競技という経済ゲームが生み出す便益の一部を社会保障として享受しながら、競技を見るもよし、部分参加するもよし、寝てもよし。
我々、本学徒は、こうした未来の経済ゲームの競技者として闘いに参戦し、そしてその勝利者となるように、これからも一緒に頑張っていこうではありませんかー!」
「はい拍手~!」
大勢の拍手の音が会場にこだました。
「高邁かつ卓越したご見識ありがとうございまーす。それでは、しばしの間ご歓談くださーい」
幹事の掛け声とともにそれぞれが会話を始めた。
「おい、先輩がもうあの子に話しかけてるぞ」
「さすが、ビジネス開発部、早速調査活動に入りましたな」
「お前ら、わかってるよな」
「もちろん」
「遅れてきたやつにも言っとけよ、OBターゲットロックオン、誰も手を出すなってな」
「まあ、確かにまじクリの子、見た目そんな悪くないしな」
「けどさ、服の趣味がちょっとオタサーくさくね?」
「オタサーってレベルじゃねーよ。昭和、下手すりゃ大正時代かっていうね」
「まじクリなんか、外見無関係にどいつもこいつも地雷だからやめとけやめとけ」
「わたすといっしょに、ぱらいそ、いくだ~ってか」
「いくわけねーだろ」
「オリは可愛かったら地獄までついてくわ」
「じゆすきりしと、えいめん」
「そいや、布教神学史の単位とれてっかな」
男子連中は雑談を切り上げ、お互い横目で次回の攻略計画を練り始めながら飲み食いに集中しはじめた。
幼馴染は会場の端の壁際に座っていたが、その間に就活勝者が無理やり入り込むように隣に座り込んできて、手慣れたように馴れ馴れしく話しかけてきた。
「こんばんわ」
「どうも、はじめまして……」
「どこの学部だったっけ?」
「文学部です」
「文学部……てことは、宗教学科あたりかな」
「はい、そうです」
「真面目そうな君が、自分の意思できたんじゃないことくらい、その態度で察しが付くよ。でもWallflower、つまり壁の花のままにしちゃもったいないな。まあ、せっかく来たんだから飲んでこうよ」
「はい、いただいております」
「ほう、キューバ・リブレでも飲んでるのかな」
「え?」
「俺にもちょっと一口飲ませてくれる?」
「……これをですか?」
「今日は無礼講なんだからさ、いいだろ?」
就活勝者は、幼馴染のグラスを自分の手元にひっぱり寄せ、彼女の手の届かない距離まで強制移動させた。
「大丈夫、君の飲み口とは反対側から口をつけるから」
「あ、あの……」
「ライムが刺さっている側が俺ね。おぼえといてな」
就活勝者はそういいながらグラスに口をつけ一口分を一気に飲み込んだ。
ヴボバァッ!
聞いたことのないような突然の喀出音に周囲が驚いて一斉に振り向いた。
「し、失礼、げほげほっ ぶほっ げっぽ」
就活勝者は、飲み物が気管支に入ったのか、激しく咳き込みながら口元を急いで袖でふき取った。それからブランドもののハンカチを急いでポケットから出して、幼馴染の手元をふき取った。
「悪いね、君にも少しかかったかも」
「ご、ごめんなさい。中身はドクターペッパーなんです。お酒じゃないんです」
「このドリンク、君のマイフェイバなの?」
「いぇ……あ……は、はい」
「君さ、変わった味覚のセンスしてるね」
「す、すみません……」
「じゃ、ちょっと席外すね。他の子にも挨拶してくるから」
「あ、はい」
間が悪いと思ったのか、そそくさと就活勝者が立ち去って行ったあと、気遣うように先輩が幼馴染に声をかけてきた。
「大丈夫?」
「はい」
「じゃ、とりあえず飲み食いしとこうか。お互いおなか減ってるしさ」
しばしの歓談後、特に事もなく無難に宴会時間が満了となり、幹事の締めの挨拶がはじまった。
「宴もたけなわのところでございますが、そろそろお時間になってまいりましたー。
皆さん、飲みホの元はがっつりとりましたかー。
最初にお伝えした通り、今日は二次会の予定はあ・り・ま・せ・ん。だらだらせずにさっさと帰ってくださいねー」
50名近くの参加者は、三々五々、ばらばらと解散していき、しばらくすると数十人程度に減った。
その帰り際、就活勝者が近くのコインパーキングに駐車していた新車価格600万のBMW 220iカブリオレ M Sportに乗って居酒屋の前にいきなり乗り付けてきた。
幼馴染を見つけると、車を横付けして、左ハンドルの座席から、彼女の前に高級そうな箱を差し出した。
「あのさ、突然で失礼かもしれないけど、お詫びとしてこの贈り物を受け取ってもらえるかな」
「え、そんな、いきなり困ります」
「中味はアクセサリーなんだが、ミッション系大学の学徒に相応しく特別に聖書の言葉を刻んでもらったんだ。
ちょっとだけ身に着けて気に入らなかったら、また次の機会に返してくれればいい」
「申し訳ありませんが、お受け取りするわけには……」
「下心を感じるのはごもっとも。君もこのサークルの主旨を理解して参加しているんだろうから、いろいろわかっているとは思う。でも、相手の誠実さを見逃すよりもましじゃないかな」
「でも、もらう理由がありません」
「だからさ、あげる理由がこっちにあるだけだから、そっちにもらう理由がないのはあたりまえ。理由のあるなしじゃなくて、もらってもらえるかどうか、君の気持ちを聞いているんだよ」
就活勝者のBMWが居酒屋の前に長い時間停車しているために、辺りからは大小のクラクションが鳴り始めた。
その音に焦り始めた幼馴染は、相手を困らせるよりは、受け取る踏ん切りを自分がつけた方が誰も困らないと思い、悩んだ末に静かに返答した。
「……わかりました。でも、あくまで他意はないという上で受け取らせていただきます」
「もらってくれてありがとう。それじゃ、次の飲み会でまた会おうな」
就活勝者は、直列4気筒Bターボのエンジン音を低速回転でふかしながら、颯爽とその場から去っていった。
幼馴染と先輩はその姿を見送った後、幼馴染が先に話を切り出した。
「あの……」
「わかるわよ、あなたの言いたいこと。あなたがまじクリってこと、なぜあのOBが知っているかってことでしょ」
「はい」
「あなたもうこのサークルで有名なの」
「……そうなんですか」
すると、居酒屋の会計を済ませたサークルの担当連中が店内から出てきた。
「じゃあ、今日は説明してあった通り、二次会なしで帰りま~す。明日、1コマ目から授業ある人はお気をつけ下さ~い」
「はいはい、送り狼の馬鹿ダンは先に帰って頂戴ね」
「僕が残った女子をまとめて送りまぁ~す」
「お前が一番、危険だろ~がよ」
「な~に言ってんだよ、俺は二番、一番はお前~」
「ほらほら酔っ払いがもめてる間に一緒に帰りましょ」
「この5人は、駅一緒だよね。」
「はい、皆おんなじ方向です」
「じゃあ、一緒に帰ってあげて」
「じゃ、ちょっと途中でコンビニ寄っていいかな」
「いいよー」
女子仲間が駅方向に向かって歩き出そうとしたとき、先輩が幼馴染の前に立ってウインクしながら語り掛けてきた。
「来週末の飲み会、本番だからよろしくね」
「本番?」
「争奪戦てこと。でも安心して。多分、あなたにはもう誰もいい寄って来ないと思うわ」
「どうしてですか?」
「あの人に気に入られたから」
「え?」
「その貰い物、せっかくだからつけてみてよ」
「今ここでですか?」
「そう、どんなのか私も見たいし」
「……わかりました」
包みの外箱から中身の入った小箱を取り出し、ふたを開けた。そして留め金を外し中から丁寧に取り出して身に着けた。
「こうですか?」
「ふふ。似合ってるじゃない、そのブレスレット」
「そうですか」
「それじゃお休み。私とはここでお別れよ。私、車だから」
「お酒飲んだのに大丈夫なんですか」
「私ね、これでも可愛い年下のアッシー君いるの」
「アッシー君?」
「とにかく私は大丈夫だから。帰りの自転車気をつけなよね」
「今日はありがとうございました」
こうして呑みサーの初日は無難に終えた。
5人並んで通りを歩く幼馴染の手首には、ブレスレットがにぶく輝いていた。