第6話 別れ・・・

文字数 775文字

病気を受け入れて、少しずつ回復に向かう。

だいぶ遅れてしまったが、大学も卒業。
小さな会社だが仕事もはじめた。

その子とは、お互いに仕事もあるからたまに会うくらい。
それでも、毎日電話で
「大丈夫?無理しないようにね」
その声にどれだけ救われたか。
薬のおかげか、仕事も順調にできるようになっていて、
少しずつ自信も取り戻していた。

付き合っているといえば付き合っていたのかもしれない。
ただ、その言葉はなかった。
いつでもそばにいるという安心感からなのか、
お互い、いや自分だけだったのかもしれないが、言葉はいらないと思っていた。

それから、仕事も忙しくなっていき、
なかなか会うことも、電話も少なくなっていった。

ただ、共通の友人から、入院したことを知った。
おそらく、心配かけたくなかったんだろう。
僕には言うなと言われていたらしい。

どのくらいの期間だったのか。
お見舞いに行かないかと誘われた。
最初で最後のお見舞い。
彼女は癌を患っていて、もう長くはないと。
行きたいような、行きたくないような、
顔を見るのが怖い。どんな顔していいのか分からない。
それでも、行かないといけないと勇気を振り絞って会いに行った。

病室に入ると、やせ細って別人のような彼女がいた。
僕の顔を見て、笑顔で
「よっ!元気?」
「おう!」
と言うのが精一杯だった。
「元気そうで良かった。退院したらまた公園行こうね。
 ちょっと疲れちゃったから寝るね・・・来てくれてありがとう。またね・・・」

その数日後、彼女は息を引き取った。

いつも僕を気にかけて、最後の最後まで気にかけて。
なんで僕は彼女に好きと言えなかった。
なんで彼女のそばにいてあげなかった。
なんで彼女の手を握ってあげなかった。
彼女になにもしてあげられなかった。
何も言ってあげられなかった。
もう言いたくても、したくてもできない。

ありがとうも言えなかった。
後悔しかない・・・
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