海の家♡ラブストーリーフェス2019
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そういうと渋谷は俺に体をピタリと寄せて自分と比べた。
「ほら足なんてこんなに太さが違いますよ」
競泳の選手はみな全身の毛を剃っているため完全に密着してしまう。
「ひっつくなよ」
渋谷の塩素で茶色くなった髪が顔に当たる。
「ほら腕も」
「くっつくなって」
その時俺は妙にイライラとしていて突き放してしまった。渋谷は驚いて俺の腕を掴んだ、床が濡れているせいで足に踏ん張りが効かず渋谷は俺の上に重なるように倒れてしまった。
わずかに唇が触れた。
慌てて体を起こし怪我がないかを確認した。
「大丈夫か?」
「先輩は?」
お互いの視線は唇を捕らえていた。何かを言って茶化そうにも言葉が出てこなかった。渋谷は少し顔を赤らめて黙ってしまう。
「200m決勝の方はこちらに集まってください!」
係員が大声で呼んだおかげで我に返った。
「あっち行かないとな」
「・・・・・・はい」
同じ高校なのにコースが横並びになってしまった。運営委員が混乱してるせいだろう。
「ヨーイ」の声で俺たちは膝を曲げ、腰をかがめて水に向かってまっすぐ腕をつきだす。一瞬息をとめ、全神経を耳とスタート台を踏むつま先に集めて、ピストルの音を待つ。水面にはぬけるような青空が映り、俺たちを、空に向かって落ちてゆくような気にさせる。風が吹くたびにユラユラと光の波が走る。音が届いた。同時に飛び出したはずなのにオレの目には渋谷の細い足が見えていた。俺はその決勝で負けて、それから部活に出るのを止めてしまった。
破裂音が耳に届くと腕が身体を起こし、脚は反対へと駆け出す。目の前を遮るもの一切はなく突き立てられた旗は俺の手に吸い寄せられる。俺は負けた事がなかった。なのに、俺の前を走る奴がいる。叫ぶ輩も水着姿の女も目に入らない、俺と旗との間にはただ道があるだけでその距離と時間を縮めていく自分との勝負の場だった。男は残り5mの距離を飛ぶ。早過ぎる、身体がトップスピードに乗りその力を跳躍に変換できるのはせいぜい2m。だが男は見事に跳躍し旗を掴み獲った。その男の笑みから八重歯が覗いていた。
俺はフラフラとシャワー室へ入った。いくらシャワーを浴びても身体から熱が抜けない。砂はいつまでも纏わりついて離れなかった。
maigami_mituyasu
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