波打ち際3【海の星の王子さま】東雲飛鶴

文字数 6,494文字

「海の星の王子さま」東雲飛鶴

izuru_s

昨年の夏、叔父に紹介されたリゾートバイトで辟易した私こと女子大生のナツキは、今年はゆっくりリゾート気分を満喫しようと思いました。――この、マイナーな海水浴場で。


ところが、急遽現れたナゾの建物、「海の家♡DAYS」。


今度こそバイトはナシで……って思っていたのに、つい面白そうな匂いを嗅ぎ取って、気付いたらもう働いていたのです。


……なんでだろ?


     ☆ ☆ ☆


izuru_s

へーえ……ここがウワサのビーチか
やだ……。

あの人、おおきい星形のサーフボードなんか乗っちゃって子供みたい。


緑色の髪に、やたらと白い肌。

格好悪くはないんだけど、あんまりサーファーには見えないなあ……。

izuru_s

あーあ、なんでこうビーチにゴミすてるかなあ……

拾う方の身にもなってほしいよぉ……

ヘンな人はおいといて、私は店長のいいつけで、波打ち際のゴミ拾いを続行。

あとでまとめて片付ければいいのにって思うんだけど、

定期的に回収しないと余計に捨てられちゃうから、だって。


……ん?

あんなとこに一人用テント建てて、首だけ出してるヘンな人が――

って、ここはみんなヘンな人だらけだったっけ。

izuru_s

げっ!!!

や、山下君!?

なんでこんなとこに!?

あ。

ナツキちゃん……

君こそ何やってんの?

うわあ……


まさか、よりによって、

テントから顔だけ出してるヘンな人が、

今会いたくない人NO1!の、去年バイトで一緒だった山下君だなんて!

あ~~さいあく~~


せっかく去年の残念バイトの思い出を上書きしようと思ったのに!!

そう、去年の私は、リゾートバイトにロマンスを求める女子大生だったのです!

まあ、さすがにこの環境でロマンスもヘチマもないけども。


山下君って、わりとイケメンで、

ちょっとクールで知的な人かな?って思ったけど、

ただの性格わるいヤツだったんだもん!

なにもなかったどころか、忘れたい記憶だったのに!

izuru_s

バ、バイト……

ゴミ拾いちゅう……

そ、そっちこそ、テントから頭だけ出して

気持ち悪い

一緒だな、僕もバイト中
そ、そんな気持ち悪いバイトなんか

あるわけないじゃん

なにそれ

いま僕は、ある人を監視してるんだ

まあ、探偵の手伝いみたいなもんかな

それでテントにこもってるのか……(なっとく)

で、だれ見張ってんの?

私は、山下君の刺激的なバイト内容がついつい気になってしまい

去年いじわるされたことなんて、すっかり忘れていたのです……。

izuru_s

あのヒトデに乗ってる男、見える?
え、あれって星じゃなかったの?

……で、あの人なんか悪いことでもしたの?

ある国の王族らしいんだが……

目的が分からないので調査に来たんだよ

なにかあってからでは困るからね

王族なのに護衛とかいないのかな……?

なんだかよくわからないけど、

店長に怒られそうなので(こっち見てる)

ゴミの袋を引きずって海の家に戻りました。

izuru_s

ナツキさん、おつかれさま。

大丈夫?ナンパとかされてない?

この人が「海の家♡DAYS」の店長さん。

そっか……私のこと心配して

見ててくれてたのか……。

怒られそうとか言ってゴメンなさい。

izuru_s

ち、ちがうんです

去年バイト先で一緒だった人が偶然いたんで

ちょっと話しをしてただけです

ごめんなさい

別にあやまることはないよ、ナツキさん

そうか、知り合いの人なんだね

ビーチを歩いていて、

もし困ったことになったら、すぐ僕に言ってね

はーい
私がレジに入ると、入れ替わりに店長が

店の外に出て行きました。

裏へタバコでも吸いに行ったのかな。

izuru_s

こんな所で君の姿を見るとはな

なにを企んでいるんだい?

おやおや、どちらさまで

誰かと間違えておられるのでは?

私は貴方のことは存じ上げませんよ

とぼけるのがヘタクソだな

それでも調査員かい?

……まあいい

うちのバイトちゃんに何かあったら

タダじゃおかないからな

ただの顔見知りですよ

むしろウロウロされてジャマなんだ

あまりこっちに寄越さないでもらえますかね

こっちも仕事中なもんで

ならかまわん

腹が減ったら店に来るといい

定価で売ってやろう

あいにくジャパニーズジャンクフードは口に合わないもんで

お気持ちだけ受け取っておきますよ

ま、ドリンクぐらいは買ってもいいですけどね

そうかい

なら、デリバリーでも頼むといい

最低線、騒ぎだけは起こさないでくれよ

みなさん大事なお客様なんでな

では邪魔をした

店長は去って行った。

izuru_s

ふう……

それにしても、大事なお客様とはな

この奇妙奇天烈な連中が、お客様だと?

悪巧みをしてるのはそっちの方だろ……

ナツキちゃんが心配だ……

その頃、海の家♡DAYSでは……

izuru_s

あのー、うちではそういうサービスしてないんでー

ご自分でデリバリーたのんでもらえますかー

デリバリー?ナンダソレハ?

メノマエニオマエガイル

ソレヲウッテクレトイッテイルンダガ

お客様困りますね~

その子はうちの看板娘、売り物ではないんですよ

後ほど別のものをお届けしますので、

これでも飲んで待っていてください

た、たすかったあ><
店長は中東の人?にドリンクを押しつけて店から追い出しました。

あぶなかったあ……

izuru_s

興味本位でバイト始めちゃったけど、こりゃ

もしかしたら大変なとこに来ちゃったのかも……

あわわ……

でもやめたくないし……山下君も気になるし……

もうちょっとがんばろう。

izuru_s

まったく、油断もスキもあったもんじゃないな

済まないナツキさん、一人にしてしまって

早急に対策を考えるよ

あはは……

できればそうしてもらえると

ありがたいですぅ……

あはは……

おいそこの者、店主はお前か?
うわっ、い、いらっしゃいませ!
店長はこちらです!
ほ、星、いや、ヒトデの王子さまが来た!!!


あ、山下君まで!
テントのまま這いずって来た!

気持ち悪い!

ヤドカリ???

izuru_s

いらっしゃいませ

ご注文を承ります

メニューをどうぞ

いや、不要である

注文はもう決まっているからだ

そこの娘を頂こう

如何程か?

この子は売り物ではございません

別の者を手配致しますので――

!?
(この海の家は人身売買のあっせんをしていたのか!?)

(それより、王子はいったいナツキちゃんを買ってどうしようと……)


おかしいな、このビーチに来れば

妻が手に入ると聞き及んで

直接参ったのだが……

(え!そういう場所なの!?)

(だからヘンな人ばっかいるの!?)

そこな娘、

我が妃となる気はないか?

相応に贅沢な暮らしをさせてやるぞ

申し上げにくいのですが

海の底の国にこの子を連れて行くことは

出来ません。すぐ死んでしまいます

ビーチで同種族の方をお探しください、殿下

弱ったな……

余はこの娘がよいのだ

そうだ、この場所に離宮を建てるのはどうか

ビーチごと買い取ってやろう

余は、しばらくなら地上にもいられるからな

ちょっとちょっと

海の底とか、陛下とか、離宮を建てるとか、

いったい何の話しをしてるんですか???

izuru_s

ナツキちゃんは俺のフィアンセだ!

あきらめてもらおう!

ぎいぃぃえええええ!?
ヤドカリ山下君が、テントから飛び出して

私とヒトデの王子さまの間に割って入ってきちゃった。

どどど、どういう展開???

izuru_s

左様でございます、殿下

この者たちは将来を誓い合った仲ゆえ

どうぞお引き取りを

ちょっと店長まで!!

なにこれええええ!!

izuru_s

ズルイゾ

ソノムスメハワタシガサキニ

メヲツケテイタノダゾ

ズルイ

ウホ

なによアタシの獲物にみんなして

出て行きなさいよ

ぼくだって、あたらしいお母さんは

この人って決めてたんだぞ!

おとーーさーーん!

ズドン!!

ヒトデの王子さまが、どこからか巨大ヒトデを取り出して

床の上に突き立てた!!

izuru_s

控えよ!

余はリュウグウの皇太子である!

皆の者、控えよ!

(た、たすけて、店長><)
殿下、ここは地上。海の中ではございません

皆マナーを守って、出会いを楽しんでいるのでございます

しかし、これ以上の迷惑行為は越権行為として

本国に連絡させて頂きますぞ

ナツキちゃん、俺と一緒に来るんだ

こんな危険な場所に置いてはおけない

やだ!

私まだバイト中だし!

……ナツキとやら

余はまだ諦めはしないぞ

今日のところは店主の顔を立てて

引き下がってやろう

娘、よくよく将来のことを考えるがよい

だれがヒトデ王子なんかと結婚するもんですか!

いーーーだ!

ヒトデの王子さまがすごすごと店から出て行くと

他のよくわからない人たち(?)も、

一緒に外に出て行きました。

情報量が多すぎて、もう私わけわかんない……

izuru_s

そろそろ種明かしをしてもいいんじゃないか?

店長さんよ

全員当事者だ、俺も種明かしをしてやろう

店長がちらっと私の方を見ました。


あまり聞かれたくない話みたいだけど、

ここで逃げたら本末転倒、

この不思議な海の家とビーチの秘密が知りたくて

バイトを始めたんだから……

izuru_s

私も聞いてもいいよね

当事者だし

いいだろう、どうせ言ってもバイトやめないだろうし

現時点をもって君は俺の保護対象になったのだから

店長さんよ、異存はないな?

やれやれ……

そこまで言うならかまわんだろう

それに、君がナツキさんを護るというなら

私も助かるよ

接客中は目を離してしまうからな

ゴミ拾いと称して、ナツキちゃんを

珍客に見せびらかしていた男が

よく言うよ……

え!あれってそうだったんですか!?
いや、ふつーにゴミ拾いだよ

ヘンなこと吹き込まないでくれよ

コードネーム・ヤマシタくん

(・д・)チッ
えーっと……

二人の話を要約すると……


店長は隣町の神様で、さる筋から頼まれて、

出会いの少ない人外さんたちのために

この海の家を作って出会い系ビーチを主宰した……と


???


山下君は、とある探偵事務所の所員で、

(というのは表向きで、実はさる筋の特務機関の所員で)

さる筋から頼まれて、

地上に遊びに行ったヒトデ王子の監視をしてた……と


さる筋、さる筋、さる筋って、いったいなんなの???

まさか全部おなじってわけじゃないよね???


――っていうか、神様?特務機関?

もう私の頭じゃついていけない……

izuru_s

それで、二人はこれからどうするつもりだね?
私、やめない!

もう逃げないって決めたんだから!

ほう、ここまで聞いてもまだ逃げないか

逃げ癖娘が一年で成長したのかな?

……まあいい

個人の意志は尊重する主義だ

君の安全も俺が保証しよう


そのかわり――俺はここで君と王子と店長を監視する

この店で人身売買のあっせんをしていない

という証拠はまだ見つかっていないしな


どうだ、店長?

まるでサクラだな

かまわんよ

邪魔にならない場所に座るといい


実際、人身売買のあっせんなどしておらんのだから

証拠が出るわけもない

営業妨害以外は好きにしたまえ

え~~~~

こいつの顔みながら

仕事すんのやだああああ><

なんでだよ

そこまでヒドイ顔でもなかろうに


それに、俺は君の顔を見ながら仕事をしても

まったく問題はないぞ

フィアンセなんだから近くにいても不自然ではないだろう?

うっわ、きもちわるい

どっからその設定出て来たの

とにかく!

半径1メートル以内に入ってきたら殺すからね!

私はあまりに不愉快なので、厨房に逃げ込みました。


そういえばまだご飯食べてないし、冷蔵庫に入れて置いた

私用のサンドイッチでも食べようかな……

izuru_s

それにしても、えらい嫌われようだな

一体君たち、去年なにがあったんだい?

潜入捜査のためにリゾートホテルに潜り込んだら

そこに彼女がバイトに来ていたんだ

可愛い妹分みたいだから、それ相応の扱いをしていたら

なんだか嫌われてしまったみたいだな……

好きなのかい?
こんな家業の男が

ガールフレンドを作るなんてマネ

偽装工作のためでもなければ

出来るわけないでしょう

じゃあ、まんざらでもないわけだ

なるほど……

ふうん……

なるほど……

な、なんだよ

ったく神ってやつは……


(神は面白半分に人間を観察しては)

(ニヤニヤする下品な生物というのは)

(本当のようだな)

山下君は、ぷんすかしながら店の外に出ると、

ほったらかしのテントを片付けはじめました。


……っていうか、今の、なに?

え?

山下君って……私のこと……

え?

どういうこと?

izuru_s

翌日の朝。

気の早いリゾート客がちらほらとビーチを散策していると、

波に乗って怪しい集団が砂浜に滑り込んできました――全員、ヒトデに乗って!?


そのままビーチに上陸して、こっちに向かって歩いてきます。

あ、あれは!?

izuru_s

おはよう、我が妃となる娘よ

今日はお前に手土産を持って参った

受け取るがよい

お供の人とおぼしき人たちが、手にした玉手箱的なものの紐を解いて

フタをあけ、私に差し出してきました。

izuru_s

な、なにこれ……
我が王家に伝わる、シージュエリーの数々である

いずれも地上にはそうそうないものであろう

気にせず受け取るがよい

なんなら、余の前で身に付けてはもらえないか?

おい海産物、調子に乗るなよ!

ガラクタをまとめて持って帰れ


ナツキちゃんもそんなもん受け取るな

後で何があっても責任持てないぞ

ニンゲン風情が余を海産物呼ばわりとは

聞き捨てならんな

やはりここで手打ちにしてくれようか

ちょ、ちょっと何いってんですか!

王子やめてください!

警察呼びますよ!!

海産物が陸に上がって、人間に勝てると思うなよ

ここでは迷惑だ、外に出ろ

はっはっは、大した度胸だ

褒めてやろう

我が妃よ、余の勇姿をその目に焼き付けるといい

こうして、山下君とヒトデ王子の決闘が

海の家の前で繰り広げられることになってしまいました。


……っていうか、店長どこいったの?

買い出しに行ったまま帰ってこないんですけど!!

izuru_s

ナンダナンダ

ミセモノカ

海の王子が人間と手合わせするそうじゃ
いくら掛ける?
どうしましょう……

急にギャラリーが集まってきてしまいました!

おまけにドリンクがいっぱい売れて売れて……

うーん、店長、忙しいから早く帰ってきてええええ!!

izuru_s

ふふふ、良い具合に聴衆が集まってきたな

お前、好きな得物を取るがよい

余はこれだ!

ヒトデ王子がどこからともなく、紅色の剣をするりと取り出しました。

それはまるで、サンゴを寄せ集めて作ったような、

つるつるして光沢のある、斬り合いなんかしたら壊れてしまいそうな、

美しい剣です。

一方、山下君はというと――

izuru_s

俺はこれでいい
山下君が、なにかのグリップのような、短い棒をひと振りすると、

ジャキッっと金属の棒が飛び出しました!

お巡りさんや警備員さんが持っている、三段警棒に似ています。

ヒトデ王子の剣より短いけど、大丈夫なのかな……?

izuru_s

ジャッジは私がいたしましょう

それでは――はじめ!!

ビシャーーーン!!

izuru_s

ぐ、ぐわああああああああああああああああ!!
ふっ。
勝ったな。
ええーーーー

…………こげてる

なんと、山下君の持った棒から、激しい電撃が走って、

ヒトデ王子に直撃したのです!

あわれヒトデ王子は、電撃でコゲコゲになってしまいました。

……これってヒトデ焼き?

izuru_s

勝負あり!

ニンゲンの勝ち!

殿下、ご無事ですかな?

随分と早い結着で

く、くそう、ニンゲン風情が雷を操るなんて聞いてないぞ!

余は帰る! こんな場所、二度と来るものか!

いつでも相手になってやるぞ、海産物。
やれやれ……。

よくわからないけど、山下君がヒトデ王子を追い払ってくれたようです。

これで落ち着いてバイトに専念出来る……といいんだけど。

izuru_s

山下君のおかげで、

ヒトデ殿下にお引き取り頂けて助かったよ

これで君の任務も終了だな

うーむ、その事なんだが……
山下君は、ちょっと芝居がかった口ぶりで言うと

私の方をチラリと見ました。

izuru_s

あの海産物野郎の気が変わって

ここに戻って来ないとも限らない。

あんたがこの出会い系ビーチを閉鎖するまで

俺はここで監視を続けるつもりだ。

えっ……
じゃあ、それって……

バイトが終わるまで、ここで……私を見張ってるってこと?

izuru_s

もちろん私は構わないよ。

君もその方がいいんだろう?

ふっふっふ……

店長は意味深な笑いを残して

店の奥に行ってしまいました。

ったく、店長ってば……


……ん?


『君もその方がいいんだろう?』って

どういう意味?

izuru_s

さてと……

腹も減ったことだし、なにか作ってもらおうかな

ナツキちゃん

え、あ、よろこんで!
山下君は店に入ると、

カレーとラーメンとやきそばと焼きトウモロコシを

注文しました。


知らなかった。

彼がこんなに大食いだったなんて。


とりあえず、山下君のおかげで、

竜宮城に嫁がなくて済みそうです。

今のところ……


このバイトが終わるまでに

山下君と、もうちょっと仲良くなれたらいいな。



                         (了)

izuru_s

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
※これは自由参加コラボです。誰でも書き込むことができます。

※コラボに参加するためにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色