第２１話　キーワードは１６才

【もちろんだ。生かすために、九州に送ったんだから】

「九州の病院も調べましたが、どうしても、九州まで行かなくてはならない理由は、ありませんでした。病院側も外傷がひどかった喜生さんを、動かすことに、反対をしたそうですね。万が一、生命の危機に陥っても、責任は問わないと、小介先生を通して、お父さんの署名がありました。なぜ、そこまでしなくてはならなかったのでしょうか？」

　お父さんは「生かすためだった」とひとりごとを言い続けている。

「喜生さんは身長差が十五センチ離れると反応します。そうすると今は百六十七センチ以上は受け付けない。しかし、身長差では問題がなかったはずのサンに拒否反応があった。あの地域でサンが通った高校の制服は珍しかったが、カズヨさんが十六才になった息子のサンに反応した事を覚えていました。
　つまり、二つの要素が喜生さんを苦しめた事になります。事件当時、喜生さんは百四十五センチでした。自宅周辺で身長が、百六十センチ以上で、サンと同じ学ランを着ていた高校生は、悟志さんのお兄さんしかいなかったはずです」

「あの女、余計なことをいいやがって、おい、それだけで犯人にされたらたまらないな、いい加減に兄貴の事で責めるのをやめてくれる？さすがに不愉快だよ。それに、お前のいとこの彼氏に殺されたんだから、もういいじゃないか。兄貴だって、死んでまで、勝手に責任をとらされたらたまらない。それとも生き返らせて証言させるか？」

　僕はふっと笑った。

「いとこの彼氏？その前に、玄馬さんは、お兄さんの幼馴染でしょ。お兄さんが亡くなった時に、喜生さんが病院でなんて言ったか知っていますか？」
「知らねえよ」
「『人って同じことをするのだね。人を傷つけずに生きていてくれたら、良かった。死んでも、何も変わらない』と言っていたのですよ、悟志さん。それだけじゃなく、他に以前からおかしいと思っていた事があるのです」


【ふざけるなよ】

「第一にネコはいつも遠回りをする。悟志さん達の家の前を通って行けば十分以上早いのに、何度言っても嫌がるし、悟志さん達には敏感で、僕の影に隠れるか、本棚の隙間に閉じこもってしまう。息が出来なくなる時もある。あまりにも極端すぎる反応で不思議だったんです。電車の中でネコの肩に触ったのは、お兄さんですよね。それに傍に悟志さんがいた。横須賀駅でネコを追いかけたり、僕らに嫌がらせしたのも、お兄さんだ。
　第二にそれから、何度も、ブロック塀の間から覗いていたのも、悟志さんとお兄さんだ。お兄さんが亡くなっても、悟志さんはブロック塀から覗いていただろう。そのたびに、発作のように、ネコは息が出来なくなるほど、緊張して倒れた。何度も、何度も。
　第三に大好きだった浴衣も見たくないほど、イチゴの絵柄にも極端な反応を示す。悟志さんは前に、ネコはイチゴの絵柄のパンツがよく似合う女の子だったって言ったよね。ネコのイチゴの絵柄のパンツはどこで見たのさ」


【イメージだよ】

「いつも、短いスカートにイチゴの絵柄のパンツを履いていたイメージがあっただけだ」

「前日に買ってもらった新しいイチゴの絵柄のパンツは、事件後に無くなっている。病院に運ばれて来た時に下着を着けていなかったから、乱暴されていると容易に想像が出来たと小介先生が話をしていた。その後も下着は見つかっていない。咲枝ママから聞いたよ。それに、喜生さんは小さいころから、ずっーとズボンばかりでスカートは、お出かけ用の一枚だけだったって。イチゴの絵柄のパンツを履いていたのを知っていたのは、本人と犯人だけだ。
　それに僕が知っている喜生さんは、イチゴの絵柄が大嫌いで、見るのも触るのも嫌だと拒絶反応を示していた。それは、下着を脱がされ、顔にかぶせられた時が一番怖かったからと言っていた。それ以来、イチゴの絵柄は嫌いだと本人が言っていた」

「あれ、僕の勘違いかな？なにをきりきりしているのさ、パンツ一枚でさ、犯人呼ばわりされたら、かなわない。物証がないだろ」