第13話 ネコの本領発揮

文字数 1,966文字

【二月に入って、生活も落ち着いてきた】

 僕は、韓国での仕事を日本で始めた。日本での収益は大きい。韓国の先輩も日本支社の利益に期待している。家賃として生活費を入れている。

 ネコは相変わらず、僕の目の前にはいないが、時々、真後ろでシャツを握っていたり、おもいっきりぶつかって走り去ったり、指で僕の手をツンツンするようになった。ネコの新しい愛情表現方法だ。


【少しずつ、変化が出始めたようだ】

 サンに、ひどく緊張をすることも、なくなって来て、寝込むことも少なくなった。一歩前進だ。昔のように、ネコのアジュマを思い出し、焦らず待ち続けた。

 しかし、ネコが元気になると、家庭内、公開トラブルも頻繁になって来る。もともと、ネコは大人しい人ではない。

 シルクが「パパさんと喜生さんが喧嘩をしている」とサンに訴えている声が聞こえる。さっきから、僕らは言い合いをしているのだが…。

 サンは冷静に「あの人たちは心配ないよ。韓国語と難しい日本語で好き勝手に言い合っているだけで、お互いに意味が通じていないから、大丈夫だよ。シルクも参戦をすれば?」
「どうやって?」
「一緒に母国語で相手に言いたいことをいえば?」と笑った。
「??」シルクは不思議そうな顔をしている。

 中学卒業と共に韓国に帰ってから、自分では解決できない事に腹を立て家族と距離を置き、随分長い間独りだった僕の生活は、僕が大人でも子供でもなかった時、ネコと過ごした日々のように、にぎやかになった。


【僕とサンは】

 二人で、オレンジの瞳ルーツを探る旅に、九州に行った。部屋にこもって、話をする事も多くなった。

 こそこそとエロ本やビデオを借りて来ては、サンの部屋で見ている事もあった。母屋にいかれないネコは、僕たちが母屋から帰ってこないと、イライラしているようだ。

 僕らが仲良くしている事が、気に入らないと、シルクが偵察にくるので、すぐにわかる。それも、ネコの原動力になって、あれほど、怖がっていた母屋をのぞいたりしていた。


【二月も終わろうとしていた朝】

 突然にネコがいなくなった。布団のなかで丸まっているはずのネコがいない!僕は慌てて探し始めた。

「うん?」
「あれ?」
「いない」
「ネコ」
「ネコ」と布団の中からベッドの周囲、下まで探し回ったがネコがいない。
「い・な・い」

 焦った。毎日いたネコがいない。

 僕の騒ぎを聞きつけて「よう、オヤジおはよう」とぼさぼさの頭で寝起きのサンが顔を出した。

「おお!サン。ネコがいない!」

「朝からうるさいな、どれだけ騒げば気が済むの」サンは相変わらずだ。
「どうしたの」と咲枝ママが母屋からやって来た。

「夕べは娘と寝ましたよ」
「ネコはお母さんの所に行きましたか?そうですか!」

 咲枝ママが嬉しそうに笑って頷いた。

 すると、「あー、母さんに嫌われた。夕べは何をしたのだよ」とサンがからかう。

「何もしてない」
「本当か?」
「うん、いや、ちょっとだけ」
「なにをしたんだ」
「髪が鬱陶しいから、しばろうとして」
「あーあ、やっちゃった。当分は機嫌が直らないよ」

 たった一晩、いなかっただけなのに喪失感が大きい僕をみて、サンと咲枝ママの笑いはとまらない。事件いらい母屋に行かれなかったネコが、母屋に行った事を誰も口にしないが、みんな嬉しくてしょうがないのだ。


【僕らの会議も昔のように、布団の中で行う】

 今日も、布団の中で懲りずに僕に韓国へ帰るように言っている。

「で、いつ帰るの?」
「当分、帰る予定はないよ」
「ダメだよ、帰らないと。お父さんやお母さんも心配していたでしょ」
「サンと関わる事と私と関わる事は別でしょ。韓国に戻って障害のない奥さんをもらって、問題のない人生を送らないといけない」
「もっと素直になれば?」
「素直って、私が素直になったらどうなるの?」

 僕は考えた。確かに大変かもしれない。てんやわんやの大騒ぎになる。思わず微笑んだ。

「もっと手こずるだろうな。でもさ、もっと弱音を吐いてもいい」
「いや、止めとく」
「なぜ?」
「自分の気持ちがよくわからない。こうして傍にいれば安心なのに、起きていると緊張しているのが自分でもわかる。すべてにストッパーがかかっている?なにがそうさせているのかがわからない?」
「それだったら、無理しなくていいよ。僕も思うんだよね。ネコに何かしてあげたいのだけど、何をしていいのかわからない」


【二人共わからないの?】

「そうだね。僕はだからと言ってそれが苦痛じゃないのね。わからない正体をゆっくり見つけられたらいいかな?って、思っている。だから良い事も悪い事も、今日、今 結論を出さなくていいでしょ?十年後だっていいよね?ネコはそう思わない?」
「いいの?ウテは家庭を持って支えないといけないでしょ」
「ネコは今まで、自分の先の事を考えて来たか?」
「ウテは考えて来た?」
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登場人物紹介

■僕/ウテ■…韓国名:김우태  金 佑泰(キム・ウテ)|名前の由来:おおらかに助ける

日本名:金高 佑泰(カネタカ ユウダイ)33才 身長185cm


韓国からやって来たウテ(僕)が日本に馴染めなかった中学2年生の時に、横須賀駅で喜生が起こした事故がきっかけで喜生と出会う。中学卒業と同時に帰国し、17年ぶりに喜生と再会する。

■喜生(きお)/ネコ■…晴川 喜生(はるかわ きお)32才 身長152cm

 

10才の時に犯罪に巻き込まれ、強度の対人(男性)恐怖症 PTSD。キジ猫のように敏感で怖がり人を信用しない。キム・ウテにネコと呼ばれる。オレンジアイは母方譲り

■咲枝ママ■…晴川 咲枝(はるかわ さきえ)喜生の母親。身長160cm


障害のある娘を力強く援護する。

■美宇■…韓国名:김미우|金 美宇(キム・ミウ)|名前の由来:愛くるしく正しい人

日本名:金高 美宇(かねたか みう)ウテの妹 26才 身長168cm 


ウテと共に日本人の喜生と過ごし開放的になる。

■愛理姉さん■…韓国名:김애리 金 愛理(キム・エリ)

日本名:金高 愛理(かねたか えり)身長164cm ウテの6才離れた従姉。


国籍の違う恋に悩む。

■カズヨ■…松谷 和代(まつたに かずよ)32才 身長158cm


喜生の小学校からの友人。ウテが初恋。サンを可愛がっている。

■母■…韓国名:남복자 南 匐子(ナム・ボクジャ) 

日本名:金高 福子(かねたか ふくこ)ウテの母親 身長165cm


病気の喜生に暖かい気持ちで接する。

■父■…韓国名:김종우 金 鐘佑(キム・ジョンウン)

日本名:金高 鐘佑(かねたか かねすけ) ウテの父親 身長178cm


息子を大きな包容力で暖かく根気よく見守る。大きな人

■小介先生■…月田 小介(つきだ こすけ)身長167cm 代々地元の開業医。


咲枝ママの幼馴染。喜生の主治医。

■玄馬さん■…月田 玄馬(つきだ はるま)身長170cm


小介先生の息子、愛理姉さんの同級生で彼氏。

■悟志さん■…大園 悟志 (おおぞの さとし)喜生の数軒先に住む。16才 身長173cm

■悟志の兄■…喜生の数軒先に住む。19才 身長172cm 


喜生に付きまとっている。喜生の父親の晴川幸治と同じ勤務先

■叔父さん■…韓国名:김종하:金 鐘河(キム・ジョンハ)

日本名:金高 鐘河(かねたかしょうか)愛理の父 ウテの叔父 身長177㎝


日本で苦労して事業を立ち上げた。日本人が嫌い。玄馬との交際を認めない。

■叔母さん■ …韓国名:오미숙:吳 味叔(オ・ミスク)

日本名:金高 叔子(かねたか としこ)愛理の母 ウテの叔母 身長166㎝


■喜生の父さん■…晴川 幸治(はるかわ こうじ)喜生の父親。身長175cm


事件に巻き込まれた娘に複雑な思いを持っている。

■シルク■…ルア(rua)。17才 身長170cm


アルバイト先がサンと一緒のベトナム国籍 日本に滞在中

■サン■…きおと同棲している若い男。身長 178cm


父親に無視されていると思っている。人生は半端ではなく、突き抜けるのが一番と考えるクールを装う高校生。

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