第１７話　伝言ゲーム

【うーん、よくわからないけど、そんなに重要？】

「たぶん、それぞれの話は伝言ゲームだろ？伝言の発信者として、名前があがった人は当然、無条件で責任を負うはめになるし、最後に伝言が回って来た僕らはショックを受けても、途中の伝言者を攻められない。当然のことだけど、言葉の刃は受け取った人の一番弱いところを確実に突くから、揺さぶられてダメージが大きくなる。あり得ないと思っても、人は言葉の刃に苦しむ」

「つまり、言づけや他人から聞く話は疑え？って？直接本人に聞かないとダメって事ね」
「そうだね。僕達、親子の為に今日はお父さんに聞けたらいいなと思っている」
「でも、今更聞いて、本当だったらお互いに嫌な気分になるでしょ。それに本当の話を聞けるかどうかだって怪しい」

「だから、言ったといわれる本人に聞けなくて、受け手側の心の傷だけが増えていくだろ。ネコにこれ以上の傷を負わせたくないし、お互いの疑心暗鬼が一番怖い。問いかけによって修正が出来る可能性があるなら、やってみたい。それに今は、これ以上間違えたくないよ」


【それって、ひとつひとつ解決して行く出来事の一つなのね？】

「まあ、そうだ。結論を出したいから確認をするよ」

　ふと、僕はさっきカズヨが話をした、お兄さんの事が気になった。正直、お兄さんの顔をよく知らない。僕らに対して嫌がらせをしている、陰湿なイメージしか思い浮かばないが、家のブロック塀の隙間から覗く目が、僕が知っているお兄さんの目に酷使していた。

「カズヨ、亡くなったお兄さんは、こっちまで上がってこないよね」
「さあ？どうかな？私はよく見かけたよ」
「えっ？どこで？」
「この家の前で、よく見たよ」
「よく見たの？」
「うん、喜生の未来の彼氏だったもん」
「悟志のお兄さんが、未来の彼氏？」

　昔、出会った日に病院の待合室でネコに聞いた。未来の彼氏とは悟志のお兄さんの事だったのか？

「付き合っていたの？」
「違うわ、喜生は嫌いだったの。だけど、お兄さんが喜生を好きで、追いかけまわしていたの」
「それなのに未来の彼氏なの？」

「ほら、ユウダイも怒鳴られたり追い立てられたりしていたでしょ。あれは、お兄さんが喜生の事が好きなのに、喜生がユウダイばかりにくっついていたから絶対に焼きもちだと思う」とカズヨは一人で納得した。

「喜生はモテる。あのオレンジ色の瞳のせいかな、羨ましい。ユウダイは気が気じゃないわね」と屈託なくカズヨは笑う。


【そうだな、ストーカーにもあっているし】

「ストーカー？なにそれ」
「この間、病院の帰りに一人撃退したけどな。今までも、時々あったみたいだ。ただでさえ人が怖くて、自分の子供さえ受け付けない人が、通院だけで、男性に追いかけられるなんて、いつ驚いて事故を起こすかわからないと、サンが心配しているのがよくわかる」
「なるほどね。サンはこの環境で病気とは言え、母親に拒否される事の裏返しで異常に母親思いだと思っていたけど、あの子はもっと大人なのね」
「ああ、驚くほど大人だ。話をすると今の自分に力がないから押し潰されそうになっているのがよくわかる。僕も長く未熟な自分との戦いだったような気がする」
「私なんかもっと子供で、高校を卒業したら、喜生が子育てをしていた。そのことだけで驚いていたもの、今なら少しわかるけどその時は単純に興味しかなかったと思う」
「それでも、近くで、喜生とサンを助けてくれていただろ？」


【助けるなんてしてないよ】

「カズヨが喜生を催事場まで連れて来てくれて、プレゼンテーションまで参加させてくれたから、僕らは今こうしている。人生のタイミングが合わないと歯車は動き始めないよ。元カノの事で悩んでいた時なら、横須賀に来なかったかもしれない」と僕が笑った。

「ああ、あれね。ユウダイの従兄妹の愛理さんが付いて行くはずだったけど、用事で遅れるので咲枝ママに頼まれたのよ」

「そうだな」僕は、この件にも愛理姉さん達が絡んでいる事を知っている。

「私も二人の事は衝撃的だった。でもサンを芸能人にして、お金を稼ごうと考えているのよ。どう？私に任せない？モルディブの島を購入して優雅な老後！」と鼻の穴を膨らませた。
「なぜにモルディブ？…。優雅な老後まで発想は飛びますか…」と僕はため息をついた。