ロザーナの兄・ローレンツォ

文字数 1,924文字

それは人間に例えるなら、ちょうど思春期にあたる頃だった。
おいっ
てめえら、龍人族だろがっ?
誰に断って、こんなところに店を出してんだっ!?
てめえら全員、ぶち殺されてえのか? ああっ?
あぁっ!?

なに、因縁つけて来てやがんだっ? 鬼族の分際でよぉ

ここはなぁ、大昔から竜人族の縄張り(シマ)だって決まってんだよっ

てめえらこそ、ぶっ殺されてえのか? ああっ?
はんっ、上等だよ
やれるもんなら、やってみやがれっ!
バキッ!!
はっ、やりやがったな!
バキッ!!
おうっ
お前ら
こいつら全員、やっちまえっ!!
 
若っ
どうした?

竜人族の連中がまた勝手に、ここいら辺の縄張りを主張しているようですぜ

はっ、いつもいつも、懲りねえ連中だな
ローレンツォか……

鬼族の若者達は徒党を組んで一派をつくり、鬼族の筆頭名家であるオガーナ家の血を引くジュリアーノは、そうした同族の若者達をまとめるリーダー的存在へと成長していた。

クソッ、また鬼族の奴らか

同様に、竜人族にもまた血の気が多い若年層で構成された組織があり、その代表の座に君臨するのが、ロザーナの兄にあたるローレンツォ・ドラグーア。

ロザーナからすると腹違いの兄にあたる。

竜人族の盟主ドラグーア家と、鬼族筆頭のオガーナ家の対立は、こうした若い世代までをも巻き込んでいた。

あぁ、鬼族の奴らが、また俺達の縄張りにちょっかいかけて来やがったんだ
もうこれで何度目だ?
クソッ、ジュリアーノめっ
大人達の対立構図そのままに、鬼族と竜人族の若者達は、常に利権を賭けて縄張り争いを繰り返している。

血気盛んな両族の若者達ゆえに、小競り、喧嘩、乱闘などは日常茶飯事、両族の揉め事はいつも絶えない。

だがそもそも、サキュバスの愛倫(アイリン)が呆れてしまうぐらいに、何千年もの間ずっと戦国時代を続けて来たこの世界。

領土の境界線変更などは、過去にそれこそ何万回と行われて来ており、両族はその歴史に基づき起源主張を行っていたが、もう今となっては両家が納得するような解決策がある筈もなかった。

そして、こうした揉め事が起こると、双方が仲間を呼んで真向から正面衝突、大勢対大勢の大乱闘になるのが常でもあった。

そこは、日本の若者達、ヤンキー辺りとやっていることは大差がない。

ジュリアーノよっ
いい加減、我々竜人族の土地にちょっかいを出すのは止めてもらいたい
我々は、お前らの相手をしているほど、暇ではないのでな
ローレンツォ
その言葉、そっくりそのまま、お前達に返そう
私はそもそも、このような無駄な争いを好まない
ジュリアーノの言葉に嘘はない。

無益な争いを決して好まず、内心では平穏な暮らしを願っていたジュリアーノではあったが、鬼族筆頭オガーナ家の血を引いた子であるという立場上、徒党のリーダーとして仲間を引っ張って行くというのは、その血に定められた役割、宿命と言ってもいい。

その立場を放棄すれば、自らが臆病者の(そし)りを受けるだけではなく、オガーナ家そのものが馬鹿にされ、家名に泥を塗ることにもなる。

ジュリアーノは、一族から与えられた、決められた役割を、責任を持って果たさなくてはならないのだ。

それと同時にジュリアーノの中には、とにかく血の気が多く短気で喧嘩っ早い鬼族、その同年代の仲間達が暴走し過ぎないようにコントロールしようという思惑もあった。

ふんっ、我らの土地を、まるで自分達のものであるかのような振る舞い
盗人だけだけしいとは、まさしくこのことだな
仕方がない……
やはりお前達とは、どこまで行っても平行線ということだな……
今日こそは、お前達によく分からせてやる
望まぬ戦いだが、致し方あるまい
お前らっ、かかれっ!!
おぉぉぉぉぉっ!!

両族の若者達による小競り合い、それがどんなに大規模なものになろうとも、武器等は一切使わない、素手での力勝負のみ。

両派で示し合わせた訳ではないが、それだけは暗黙のルールとなっていた。

いくらまだ年端も行かない少年達といえど、みんな分かってはいたのだ。

両族の争いで、どちらかに死者が出た時が最期。

それが例え、大人であろうと子供であろうとも、両家の間での、血で血を洗う果て無き抗争、報復合戦、全面戦争の引き金となるということを。

さすがにまだ半分子供である若者達にとって、自らの一族を総出で捲き込む、取り返しのつかない争いの火種になる、それだけの覚悟はまだ出来てはいない。
そしてこういう時に、まだ少女であるロザーナは、必ずと言っていい程、兄のローレンツォについて来ており、巻き添えをくらわぬように少しだけ離れたところから、その様を眺めていた。
もちろんそれは、愛しの君であるジュリアーノの姿を一目見るために他ならない。
――あぁ、ジュリアーノ様、お麗しい……
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