今生の別れの挨拶
文字数 1,737文字
塔の壁を登り切ったジュリアーノは開口一番、ロザーナに詫びる。
ジュリアーノがそう言い終えない内に、我慢し切れなくなったロザーナは、愛しい人の胸の中に飛び込んでいた。
ジュリアーノもまた、これまでの思いの丈を発散させるかのように、彼女を強く優しく抱きしめる。
その両腕に包まれ、胸に顔を埋め、頬ずりを繰り返すロザーナ。
ジュリアーノは抱きしめながら、ロザーナの頭を何度も撫で続ける。
ひとしきり再会の抱擁を堪能した後、吐息が互いの顔にかかるほど、おでこがくっつくぐらいまでに密着したまま見つめ合う二人。
竜人族の名門ドラグーア家、鬼族の頂に君臨するオガーナ家、両家は遥か昔、何千年も前からいがみ合い、敵対心を剥き出しに、衝突して来た仇敵。
時には抗争を起こし、真向勝負の全面戦争、時には政略で蹴落とし合い、互いの足を引っ張る、そんなことを何千年にも渡り繰り返して来た、まさしく因縁の宿敵。
ロザーナの大きくつぶらな瞳からは涙が溢れ出している。
見栄もプライドも恥じることもなく、ロザーナは心の赴くまま、ありのままに愛しい君に懇願する。
目を閉じ深くため息をついて、いささか冷静さを取り戻すロザーナ。
夜空に浮かび上がる壮大な満月を背に、互いを求め合い、深く強く抱きしめあうロザーナとジュリアーノ。
まるでその腕の中にあるぬくもりと存在を確かめ合うかのごとく。
叶うことなら二度と手離したくはない、だがそれは決して許されぬこと。
夜空を浮かぶ雲が、風に流されて動き、地上に微かな光を届けていた満月を覆い隠して行く。
それはまるで、愛し合う二人の姿が誰にも気づかれぬように、わずかな明かりすら漏らさず、すべてを闇に呑み込んでしまったかのようでもある。
そして、これから真の悲劇がはじまる二人の、闇に遮られた行く末を暗示しているかのようでもあった。