第6節 ノンフィクションの分類

文字数 1,277文字

第6節 ノンフィクションの分類
 こうした定義は教条主義的情熱に促されてなされているわけではない。ノンフィクションならではの感動を明らかにするためである。このジャンルでなければできない文章表現が確かにあり、それはノンフィクションを読まないと味わえない。無数のノンフィクションが書かれながらも、「そもそもノンフィクションとは何か」という問いに答えようとしている考察は非常に少ない。その感動を新たにするために、ノンフィクションの基礎論を考える必要がある。

 ノンフィクションは、戦争や革命、殺人事件、市民運動、スポーツといった舞台に従って分けられることが多いが、これでは際限がなくなってしまう。作品の目的という観点から考察すると、次の六つに分類できる。

(1)マックレーカーズ型
 事件や出来事、組織、人物などのスキャンダルや不祥事、隠された実態を暴露する。
 …鎌田慧『自動車絶望工場』(1973)
(2)内幕型
 暴露型と違い、対象の内幕を伝えることに専念し、攻撃性が弱い。
 …大泉実成『説得 エホバの証人と輸血拒否事件』(1989)
(3)提言型
 専門的な調査に基づいて導き出された結論・仮説を示し、改善するための議論の必要性を暗に提言する。
 …野田正彰『喪の途上にて 大事故遺族の悲哀の研究』(1992)
(4)発掘型
 半ば忘れかけた、もしくはあまり知られていない事件や出来事、組織、地域、人物などにスポット・ライトを当てる。
…鈴木明『リリー・マルレーンを聴いたことがありますか』(1975)
(5)検証型
 事件や出来事、組織、政策、制度などを資料やインタビューを通じて検証する。
 …吉岡忍『墜落の夏 日航123便事故全記録』(1984)
(6)フィールド・ワーク型
 緩やかで、いささか抽象的と思われるテーマについて取材・調査などを通じて具体的に報告する。
 …野村進『コリアン世界の旅』(1996)

 これはあくまでも作品の目的による分類であって、実際に社会的にいかに機能したかを考慮してはいない。ビクトル・ファリアス(Victor Farias)は、12年に亘ってマルティン・ハイデガーに関する膨大な資料を詳細に調査し、『ハイデガーとナチズム(Heidegger y el Nazismo)』(1987)において、彼の釈明以上にナチスにコミットしていたことを明らかにしている。この作品は暴露と言うよりも、検証に近かったが、世間はそうとらない。

 ハイデガーは、ポスト構造主義の潮流において、フリードリヒ・ニーチェに次いで影響力のあった哲学者である。それに批判的な勢力から、ハイデガーの過去は格好の口実として利用される。この動きに対し、ユダヤ系の哲学者ジャック・デリダは、ナチズムへの態度を論拠にハイデガーの思想をすべて捨てさるべきでないと反論している。むしろ、ナチズムを考えるためにも、ハイデガーを読む必要がある。ノンフィクションは社会性が強い散文ジャンルであり、フィクション以上に社会に難しい問題を提起することも少なくない。それもノンフィクションの重要な意義の一つである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み